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第三話 霧深き森、目覚め #Ⅲ


《ミッション1クリア!》

《クリア報酬:デッキ拡張パック ×1を獲得しました》

《クリア報酬:+500XPを獲得しました》


《実績解除:異界召喚者》


《――世界は、かつての記憶と祈りを辿ります》



「報酬?……に、また実績解除か」



 ユウマは表示された報酬を見つめる。

 どれも、ゲームで見慣れた演出だ。


 でも――今は、現実より現実に感じる。


 パネルの表示はユウマ思考を遮るように追加情報を表示する。


ピコンッ!



《続いて、ユウマの称号:深淵文明の王・邪神の神子を獲得。また、種類:ユニット『王』のステータスを獲得します》


《初心者用 鉄の剣が支給されます。自動装備します》

《現在装備している服装に見合ったステータスを付与いたします》

《ユウマのステータスを開示します》


『ユウマのステータス画面』

 名前: ユウマ 

 種族: 人間(深淵文明の王) 

 属性: 闇 レベル: 1


 次のレベルまでの経験値: 500/1000XP 

 攻撃力:6 (4+2) 体力:14 防御力:1 (0+1)


 『装備』 武器: 初心者用 鉄の剣(攻撃力 +2) 防具: 異世界の学生服(防御力 +1) アクセサリー: なし 

 称号:深淵文明の王・邪神の神子・◆ΣΞΦ者



 目の前に浮かび上がったのは、“ステータス画面”。


 名前、体力、攻撃力、装備――ゲームのキャラ情報みたいなデータがズラッと並んでいて、まるでRPGの画面を見ているようだった。



「最後のだけ文字化けしてる?でも、ステータスは……強い、よな? いや、これって……普通に考えて、やばいくらい強くないか?」



 ユウマは、驚きとともに自分に与えられたステータスを確認する。


 この世界においてどれだけの意味を持つかわからないが、【エデド】通りなのであれば、このステータスとはつまり、そのユニットまたはキャラクターの能力をわかりやすく数値化した指標のようなものになる。


 簡易に説明すれば攻撃力はそのまま「敵対象に与えるダメージ量」であり、体力は「耐えられるダメージ量」になる。


 ユウマの記憶が正しければ、【エデド】の基準では、大人の人間の攻撃力も体力も「1未満」。最弱の兵士ユニットでようやく「1」。


 つまり、ユウマのステータスは――常人の数十倍。


 また、防御力も簡単に言えばその数値だけの攻撃力を無効化できる特殊なステータス。


 ならば、今のユウマは「一般人や並みの兵士級ユニット」からの攻撃を全く受け付けない状態であると言える。


 はっきり言って、傍で控えている深淵の司祭よりも圧倒的に強いステータスなのだ。


 これはあくまでゲームの基準となるため、それが現実世界に適用された場合はどの程度なのか不明であるし、仮にゲームなのだと仮定しても、不確かな記憶通りの設定が適応されているとは限らない。


 例えばゲームに出てくるような魔物――


 特殊な力を持った動物や、それらの上位互換にあたる存在であり、その強さは個々によって異なるが、今、ユウマにとって会いたくない存在。


 ――などや、盗賊。もしかしたら人さらいであるとか、殺人が横行する世界だとしたら、強力な敵との戦いを想定すれば、圧倒的な力とは言い難いだろう。


 ユウマにとって、ここが未知である以上。ネガティブな想像に尽きない状況である。


 そういった理不尽なステータス差のバランスをとっているのがゲームなのだから。


 ユウマのステータスは、強者の部類に入るが、これだけでは無敵とは言いきれない。


 少しして、彼は自分に与えられた「王ユニット」としてのステータスが体内に刻み込まれたようなゾクゾクッとしたような感覚が全身に走った。


 身体に力を入れてみると、確かに……先ほどまでとは違う。


 そう、不確かではあるが感じる。


 力がみなぎるというよりも、有り余っているかのような。


 今すぐ全速力で駆けだして、運動がしたい。身体を動かしたい。


 ――力を振るって暴れたい。


 そんな感情さえも浮かんでくる。



「これが……王の力……」



 胸の奥が熱を帯びる。思わず言葉にしてしまった自分に、ユウマは戸惑った。思わず手で口元を隠して、赤面する。一人であるのに恥ずかしくなったのだ。


 しかしながら、確かに、今確実に彼の体は、この現実のような感覚の中で「王」としての力を持つという不思議な感覚が、徐々に彼を包み込んでいた。


 ユウマは、ふと腰に手を伸ばす。


 そこには、いつの間にか装着されていた「鉄の剣」の感触があった。


 重厚な何かの皮でできている鞘に収められたその剣は、彼にまるで自分が本物の戦士であるかのような感覚を与える。


 彼は恐る恐る剣を鞘から抜き出す。


 シャキィンッ……鋭く響く金属音。その硬質な音が静寂の森に響く。


 ユウマは、その冷たい輝きを眺めた。刃は鋭く光を反射し、まさに武器としての存在感を放っている。



「これ……本物?」



 彼は自分が夢を見ているような感覚に襲われながら、剣の重量を確かめるように振ってみるが、ふらついてしまう。


 重さは言うほど感じなかったものの、想像よりも重心というものの大切さに気付く。



「重い。のか?」



 手に伝わる鈍い重量感に、ユウマは思わず腕に力を込めた。


 ステータスが付与されたせいなのだろうか、思っていた程の重さは感じなかった。


 柄の皮越しに伝わる鉄の冷たさと、その確かな質量が、命を刈り取る重み。その感覚が、非現実の中に“現実”の影を落とした。


 不思議と初めて見る剣に、初めて握るこの剣に、何故か愛着を感じる。


 いや、もしくは武器があることへの安心感なのだろうか?


 すぐに、だけれど慎重にその剣を鞘に収め、深呼吸する。


 これから先、自分はこの剣を使うことになるかもしれない――その予感は、現実の重みを彼に押し寄せさせた。


 この力と剣を使えば、自分はどこまで戦えるのか


 ――そう考えると同時に、自分が戦わなければならない状況にあるのではないか


 ――いや、確実にそうなるだろう。


 ステータスが【エデド】においての常人の十倍近くもあるというのに


 本当なら、それだけで安心できるはずなのに……どうしてだろう。


 ユウマの手が震える。


 これは、力のせいじゃない。

 怖いんだ。

 今、自分が“武器を持った”ことが。


 俺が……戦うのか?

 いや、戦えるのか?


 戦う理由も、目的も、ないまま。



 ふと、『王』という単語がよぎる。


 そう。自分が与えられたのは"王"のステータス。


 【エデド】にはプレイヤーの分身である"王"と呼ばれるユニットが存在する。



 “王”がやられたら、ゲームオーバー。

 敵の“王”さえ倒せば、勝ち――降伏を除いて唯一の勝利と敗北条件。

 それが、あのゲームのルールだった。



……なら今の俺も、いつ誰かに狙われてもおかしくないってことになる。


 かつてゲーム内で王ユニットを操り戦ったことはあっても、現実に自分自身がその役割を果たすとなると話は別だ。



 ――ゲームだとして、復活できるのか?どこに?


 ――この世界での、命の重みは?いや、現実だったら?


 ――負ければ、すべてを失うかもしれない……でも、今の自分が何を失う?



 たとえ現実でも、ゲームでも、選択肢はなかった。


 ユウマは剣に触れ、深く息を吐いた。


 ――やるしかない。


 ユウマは、そう思うしかなかった。



 静寂が支配する森の中、漠然とした不安、恐怖が彼の胸に広がり始めた時だった。


 パネルにもう一つの表示が浮かび上がる。


 ピコンッ!



《※王ユニット:ユウマの体力が0になった場合、ユウマは死亡します。ご注意ください。》



 画面に浮かんだ、“死亡”の二文字。



 ――ああ、やっぱり、これはゲームなんかじゃない。



 ユウマの背を、氷のような冷気が這った。


 この世界で俺は、本当に死ぬんだ、と。


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