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第3話

 アジトに戻り、今日の稼ぎを報告する。

 盗賊で生きる以上、何かしらの稼ぎは必要だ。稼げない者はこのアジトに住んでいることはできない。

 フォレストタイガーを仕留めたことが今日の最大の成果であり、その皮は高く売れる場所で売られることになった。


 報告が終わり、夜飯の準備を始めようとしたときだった。


「あれ……? リアム、なんだ、それ?」


 仲間の一人であるハルトがオレの腰元を指差しながら言った。その指の先を目で追うとそれは先ほどサラと名乗る女から受け取った短刀だった。


「ああ、今日、輪廻の森で……」

「あ! マジか!? これって……まさか、これって!」


 オレが説明をするより先にハルトはオレの腰元から短刀を抜き取った。鞘に入っているとはいえ、危ない奴だ。


「何すんだよ」

「頭領! これを見てほしいんですけど」


 ハルトの声に反応して振り返ったのは、奥の椅子に座っていた頭領のテオだった。

 頭領であるテオは万国に関する知見を持ち、よわい七十を超えて尚、盗賊団の頭領として君臨している。

 赤子のオレを拾ってくれた人でもある。



 テオは、ハルトから短刀を受け取り、丁寧に束の装飾や鞘を確認しはじめた。テオは宝石や宝具の目利きに優れている。この短刀を鑑定するならばテオが最適任者だ。


 ややあって、頭領はオレの顔を見る。


「リアムよ」

「え、ああ」

「この短刀はどうやって手に入れた?」


 テオは短刀を静かに机の上に置いた。雑に扱わないということは価値があるということなのか。


「今日、輪廻の森でフォレストタイガーに追われていた女を助けた。その女から助けた礼にと貰ったんだ」

「女? どんな風体だった?」

「外套を纏っていたから正確なところはわからないけど、華奢な女だった。年はレイミと同じぐらいで、前髪だけしか見えてないが亜麻色だった。外套も靴も身なりは上質で、何かしらの身分はありそうだったな。で、その短刀は母からの護身用にもらったとか言ってたな」

「ふぅむ」


 オレの話を聞いて、テオは白い髭を左手でさすった。


「リアムよ」

「はい」

「その女とやらがこの短刀の持ち主ならば……」


 そこまで言ってからテオはしばし間を置いた。


「なんだよ。もったいぶるなよ」

「その女はエルリーア王国の関係者だ。それも王族かそれに密接な関係のある者だ」

「は!? エルリーア王国?」


 エルリーア王国、それは二ヶ月ほど前に敵国からの来襲で滅ぼされてしまった国の名前だった。



「王族は全滅させられたんだろ?」

「いや……王女が一人見つかっていない」

「王女?」

「そして、エルリーア王国が持つ言われる秘宝も見つかっていないと言われている」

「……頭領、まさかその短刀が秘宝とか言わないよな?」


 オレの問いにテオは首を横に振った。


「これ自体はただの短刀だ。ただし、鞘にエルリーアの王族の紋章が埋め込まれているし、、しかもだ。このつばに埋め込まれている水色の石は、エルリーアの国宝石だ。決して民間人が護身用などとしてもらうことなどはない」


 オレは改めて担当を手に取ってみた。

 鍔に埋め込まれた水色の石は国宝石といっても宝石のようには輝いていない。しかし、よく磨き上げられており、見ているうちに急に神聖なものに見えてきた。


『……帰る場所なんて私にはない』


 さっきサラが言っていた言葉が頭の中で蘇る。あの言葉は本当だったのか。あいつは戻る国が既に滅んでしまっているのか。



「リアム」


 頭領の声でハッと我に返る。

 短刀に埋め込まれていた石を見ていたら、何か吸い込まれそうな感覚に陥っていた。


「先ほどケインから報告があった」

「報告?」


 ケインは情報収集に特化した男だ。世間の情勢の動きを掴み、共有してくれる。


「この付近にのエルリーアの王女が逃げ込んでいるらしい」

「……まさか」


 サラはやはりエルリーアの王女だったと言うことか。


「追手となる者も姫を守ろうとしている者も近づいているらしい。その娘はいまどこに行った?」

「……レイミに森の外まで送らせた」

「ならば、レイミは?」


 そういえばレイミがまだ戻ってこない。

 周りを見渡したが、誰もレイミが帰ったところを見ていないらしく首を横に振るだけだった。


 いかに旅に不慣れな女を森の外まで送っていったとしても、レイミの身の軽さならば、戻る速さは常人の数倍もある。まだ戻ってきていいない遅いとも言える時間だ。


 レイミは優しすぎる部分もあるので、森の外の何処かの町まで送っていったのかもしれない。しかし、そうではなく追手とやらがやってきているのならば――。


「追手とやらがどれほどの手練れだったかによるが、レイミ一人では危ういかもしれんな」

「ちょっと見てくる!」


 オレは自分の道具が入ったカバンを手にし、アジトを飛び出した。

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