部屋を脱出して間もなく、あちらこちらで足音が聞こえるようになった。
「侵入者だ!」
「王女がいないぞ!」
その声にため息が漏れそうになるが落ち込んでいる暇はない。いまのオレの任務はここからの脱出だ。
意識を額に集中させて建物の内部を見る。
「あちこちで人が動いているな……」
「そんなことがわかるのですか?」
サラの声にレイミが「リアムは目がとてつもなくいいんだよ」とおおよそ人が理解できない説明をした。当然、サラは理解できないらしく「え? え?」と混乱していた。
「なるべく人がいない道を行くぞ」
オレは二人を引き連れて壁伝いに進んだ。なんとか二階に降りることはできたが、気配が左右から迫ってくることがわかった。
「チッ、どっちへ行っても人がいるな」
サラと怪我をしているレイミを守りながら戦うのではこちらが明らかに不利だ。窓でもあればそこから飛び降りたいところだが、残念ながらそれらしいものもない。
「いたぞ! 侵入者は殺せ!」
そんな声が聞こえてきた。
「よかったな。オレは殺されるらしいがあんたは殺されないらしい」
「あの人が欲しいのは私ではなく、秘宝の在り処です」
エルリーアの秘宝という秘宝という言葉をテオは言っていたような気がする。
サラが殺されずに捕らえられたのは、彼女から秘宝の在り処を聞き出すためだけなのか。
「あ、そう。その答えを知られたらオマエの命もないな」
「ええ、なので私も貴方と同じ運命です」
「……同じ運命、か。たしかに、そうかもしれないな」
とんでもなく数奇な運命だ、とオレは思った。
「サラ、オレがいいと言うまで絶対に目を閉じていろ。レイミはわかるな!?」
「はい!」
レイミが返事をした。
「絶対に、絶対に、薄目でも開けないで! リアムを信じて!」
と有無を言わせぬ勢いでレイミが戸惑うサラに対して言った。
オレは振り返り、二人が目を閉じたことを確認する。
それから左右を見渡す。既にオレたちを十人以上の男たちが囲んでいた。気配を探る限り、この建物にいる奴らは全員この場にいるらしい。好都合だ。
オレはゆっくりと目に光を
オレの影が伸びていくような感覚が降りてくる。伸びた影は右の奴らへと近づいていく。
「うわ……」
「あ、頭が……」
奴らの頭の中を波が覆うように、影が奴らを覆う。奴らはうめき声をあげながら倒れていった。
「な、なにが起きているんだ!?」
「あいつだ! あの銀髪のやつだ!」
続けて左側の奴らにも影を伸ばす。影が奴らを覆うと同じように男たちはうめき声をあげながら倒れていった。
オレたち以外の全員が意識を失ったことを確認してからオレは影をゆっくりと戻し、息を吐く。ひどい眩暈に襲われ、こっちまで意識を失いそうになるが倒れている場合ではない。
「……レイミ、サラ、目を開けてももう大丈夫だ」
そう言って振り返るとレイミとサラは目を開けた。
何が起きるかわかっていたレイミはともかく、サラは周囲に人がすべて倒れていることに驚いていた。
「リ、リアムさん、これは……」
「サラ、オマエは自分のことを呪われた存在だと、生まれたことが罪だと言った。オレも同じだ」
「え……」
「オレは生まれながらして、災いの忌み子として捨てられた。いずれ国を滅ぼすものとしてな。何をもってオレは忌み子とされたのか知らないが、オレに備わっていたのはこの呪われた力だ」
オレが調べた限り、この世界に存在するどの魔法とも違うオレだけが持つ能力だった。
遥か遠くを見通すことのできる視力や周囲の存在を
「……オレは生まれながらにして呪われた存在とされた。いずれ国を滅ぼす存在として捨てられた。それでも、頭領に拾われて、今日も生きている。生かされている意味はまだわからないけどな」
ようやく眩暈が収まってきて、オレはサラを見た。
「きっと、意味はあるはずです」
サラは薄く微笑んだ。
その瞳が持つ光は、短刀に埋め込まれたエルリーア王国の国宝石にも似たものを感じた。オレの奥に潜む闇を吸いこむようなそんな光を感じた。