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第8話

 サラを助け出したオレたちはアジトに戻った。

 本来ならばアジトに王女を連れて帰るなんてことはする必要はないが、護衛もいないサラを置いていって、すぐまた攫われましたではオレの苦労の意味もない。

 今日一晩ぐらいは預かろうとアジトに連れて帰った。


 負傷したレイミはすぐに治療に入った。

 レイミの様子を確認して戻ってきた頭領テオにオレは頭を下げた。そして、サラとレイミが攫われ、レイミが負傷したこと、自分の指示が誤りだったことを報告した。


「リアムよ、オマエにすべての落ち度があるわけではない。我々盗賊は人助けが役割ではないからな」

「はい……。しかし、レイミも危険な目に遭わせてしまいました」

「オマエが失態だと思っているのは、あの王女が抱えているものを僅かでも感じていたにもかかわらず、何の手も打たなかったことだろう?」


 その言葉にオレは何も言い返せなかった。

 どれだけ経験を積んでも、どれだけ策を練ろうとも、この人には勝てる日は来ないのかもしれない。



「そう……かもしれない」


 すべてを肯定しないことでのせめての反抗にテオはフッと笑い「まぁよい」と言った。


「オマエがあの王女に自分の素性も話したそうだな。普段、自分の出生を人に話そうとしないオマエが珍しいことだな」


 なぜ、そのことを、と考えたが、オレが話したことをレイミから聞いたのだろう。

 テオの言葉にオレは頷いた。


「サラは……あいつは自分のことを呪われた存在だって言ったんだ。王族として生まれて、呪われた存在って言われると、ちょっと思うところがあってさ」

「自分と似たような境遇だと感じたか?」

「……いや、あいつのようなまっすぐな目をオレはしてないよ。オレのように呪いの力を持っているわけでもない」


 オレは左目を軽く抑えた。

 まだ軽く頭がふらふらとする感覚があった。一度に多くの人数相手に能力を使ったので今日は疲労の度合いが大きい。


「疲れたようだな。今日は寝ろ。明日、もう一度話そう」

「了解」


 目を閉じるだけで眠ることができそうな感覚に耐えながらオレは自分の部屋がある寝室棟に向かって歩いた。

 食事や打ち合わせを行うこの生活棟に隣り合う建物として寝室棟がある。自分の部屋と言ってもくつろぐための空間ではなく眠るための場所で、あとは本や道具などが置いてあるぐらいだ。


 生活棟を出ると、誰かが立っているのが見えた。

 サラだった。


「何をしているんだ? また攫われたら面倒だ。今夜は女子部屋で寝るように言っただろう」

「このアジト内ならそうそう危険はない、ってレイミさんから聞きましたけど?」


 レイミが調子に乗って何を言ったのかとオレは軽くため息をつく。

 森の中の曲がりくねった道を理解していなければ、このアジトにはそうそう辿り着くことはできない。そういう意味では森の外と比べて、このアジトはたしかに安全だ。


「それにしたって一人旅の疲労はあるだろう?」

「それはそうですが……ちゃんとお礼を言っていなかったと思いまして、しっかり言ってから寝ようかと」

「……律儀なことだな。別に助けた礼などいらない。あれはオレの作戦ミスだ」

「助けたというか……いえ、そうですね、助けていただきました。本当に。私は生きてよいのだと希望を与えていただきました」

「そんな大層なことを言ったつもりはないんだけどな」


 オレの言葉にサラは首を横に振る。


「エルリーアが壊滅してから、私は生きていてよいのか、こんな自分は存在するべきではないのかもしれないとずっと自問自答してきました。そして、いつも答えは出ませんでした。でも、今日リアムさんのおかげで、生かされたことの意味を考えるべきだと思えるようになりました。本当にありがとうございます」


 サラはオレに向かって頭を下げた。


「そうか。わかったから、頭を上げろ」


 サラは頭を上げると、微笑んだ。


「私も生かされた意味を探したいと思います。王女ではない私としての生き方も」


「そうか、それはいいことだ。では、話が済んだなら、早く寝たほうがいい。オレも今日は疲れた」


 オレは敢えて話を短く切った。


「はい……。お疲れのところ失礼しました」


 もう一度、頭を下げてからサラは女子棟の方向へと去っていった。

 その後ろ姿を見ながら、あんなことを言ったオレ自身も生かされている意味がわからないまま生きているのにな、と息を吐いた。


 これからサラはどうやって生きていくのだろうか、国のない帰る場所のないあいつが生きていくことのできる場所などあるのだろうか。オレのように盗賊として生きていくわけにもいかないだろう。


 だがテオの言うとおりオレたちの仕事は「人助け」ではない。

 ある個人を救うことを目的には生きていない。


 それでもオレと同じように、自分のことを呪われた存在と言ったサラのことはベッドで横になるまで消えることはなかった。

 それでもベッドに横になると、あっという間に意識は闇へと落ちていった。


 気づけば、朝だった。






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