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第14話

*

 本殿に入る前にリアムと私は、ある部屋での待機を命じられた。

 当然のことだ。エリサ王女のカナリアを運よく保護できたぐらいで、そこでサラと名乗ったからと言って、すぐに王に謁見できるはずもない。エルリーアが逆の立場であったとしてもそんな手段を取るだろう。


 待機のために当てられた部屋は、白を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋だった。元々、来客用に利用されることもあるのか、ガイラ製と思われる絨毯が敷かれ、柔らかなソファーやアークブレッド帝国の紋章を施した見事な化粧台など、部屋の中には品が満ちていた。


 リアムは椅子に座り、机に向かって何やら書いているようで、私はソファーに腰かけていた。

 やがてリアムは立ち上がり、私のもとへと歩み寄って来た。右手には紙が握られていた。


「まずは第一関門突破だ。エリサ王女のカナリアは偶然だとは思えない部分があるが、現時点では何とも言えない。いずれにしてもサラのお手柄だ。ありがとう」


 と書かれていた。

 誰かが聞き耳を立てていることを想定して筆談ということなのだと悟ることができた私は、一つ頷くとその紙を受け取る。


「御礼を言われることはしていません。カナリアが私の手に止まり、エリサ王女に挨拶をしただけです」


 と書いて私はまたリアムに紙を渡した。


 リアムは紙を見た後に、左手で顎をさすりながら私を見た。


「挨拶をしただけかもしれないが、あの瞬間のサラは、エリサ王女を信じさせる何かがあった」

「そんなものありましたかね……。『優しく微笑みながゆっくりはっきり話す』これをやっただけです」

「それでもエリサ王女はサラを信じた。王女の立ち振る舞い?」

「立ち振る舞い……。細かい作法はたくさんありますが、いちいちすべてをやっていないのも事実です。エリサ王女には細かい作法を披露するより、信頼していただけることを重視しました」

「了解。大事なことは我々を信じてもらえることだ。そのためなら手段は問わない。この後オレたちが試されることもあるはずだ」

「どうやって自分を信じてもらうか……ずっと考えてるのですがわかりません」

「それは――」


 そこまで筆談でやりとりをしているとドアがの二度ノックされた。


「はい」


 リアムが立ち上がり、ドアのもとへと歩いていった。


 ドアを開けてリアムが何やら話しているようだが、それが誰なのかは見えないし、小声であるため、私には会話も聞こえなかった。


「サラ様、王様にお会いいただけるようです」 


 その声に私は頷く。


「承知致しました。ありがとうございます」


「すぐに、とのことですがご準備は大丈夫でしょうか?」


「もちろんです」


 私はゆっくりと立ち上がる。


 他国の王族と会うというのにドレスではないなんて、失礼かもしれないが、すべて焼けてしまった。さすがにドレスを借りるわけにもいかない。


 私は持っている中で一番綺麗な身なりをして部屋を出た。


*

 王の間への案内として従者が4名いた、その後ろをリアムと私が歩く。

 従者は特に何を言うわけでもなかった。そして、話しかけれらるような雰囲気はなかった。


「到着致しました」


 額の広い男性はそう言うとこちらに振り返った。

 目の前にはアークブレッド帝国の紋章が施された私の背丈よりも遥かに大きく鉛の色をした扉があった。



「ルーク、私のあとに着いてくるように。くれぐれも失礼のないように」


 敢えて私はリアムーーこの城内ではルークーーに強めの口調で告げた。

 王女と従者の関係であることを、この場にいる他の人たちに示すためだ。


「承知致しました」


 背後からリアムの声が聞こえた。

 不思議だ。後ろにリアムがいてくれるというだけで、妙に安心できるような感覚がある。それを伝えたいような気もしたが、いまここで振り向いているわけにはいかない。


 そう思っている間に扉がお腹に響くような重い音を立てて開き始めた。


「ここから先に王がいらっしゃいます。お進みください」


 その言葉に私は頷き、ここまで誘導してくれた従者の人たちに頭を下げてから顔を上げた。


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