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第36話【帝都ティルトル剣術祭〜蘇るトラウマ〜】


「冒険者たちの祭り?なんなんだそれは?」

「確かに、なんか気になる響きね」


 俺たちは、今レザリオが口にした「冒険者たちの祭り」という単語に反応する。


 そうそう、あるじゃねぇかよ、俺たちはそんなのを求めてたんだ。

 これならいかにも冒険者の多い街って感じだし、エスタリたちにも良い土産話を出来そうだな。


「お、興味あるんか?「帝都ティルトル剣術祭」に」

「へぇ、そんな名前なのか、その冒険者たちの祭りってのは。あるぜ、興味。詳しく聞かせてくれよ」

「私からも頼むわ。なんだか楽しそうな響きじゃない!」

「私も気になるぜ!」「うんうん!」

「そうか、じゃあしゃあないな。ワイがこれはどんな祭りか説明したるわ」


 こうしてレザリオ・ベルーガ先生の、帝都ティルトル剣術祭の説明会が始まった。



「よし、じゃあまずはこの祭りがどんな祭りかからやな。」

「頼む」


 やはり最初はそれがどんなものかを知ってからが妥当だろう。

 俺たちは黙ってレザリオの顔を見る。

 すると、早速話し始めた。


「帝都ティルトル剣術祭ってのは、毎年この時期に、日にちまでは正確には決まって無いんやが、とにかく開かれる冒険者が参加する祭りや」

「なるほど。」

「開催場所はこの街一番の名物、ベイユ競技場で行われるんやで」


 ん?この街一番の名物にそんなところがあるのか。

 アンテズ村の村人に馬車で海岸まで運んでもらった間にした会話でもそんな名前は出なかったが、実は有名なのだろうか?


「ちょっとすまん、ちなみにそのベイユ競技場ってのはなんなんだ?」

「お?お前ら知らんのか?」

「あぁ、知らん。」

「ん〜せやなぁ、なんて言ったらええかよぅわからんけど、とりあえずまるっこい競技場思たらええわ」


 めちゃくちゃ投げやりに言うレザリオ。

 なんだ?コイツまさかもうめんどくさくなりやがったのかよ。

 さっきまでは「じゃあまずは――」なんて超ノリノリで進めてたのにな。たく、気分の変わりやすいやつなこった。


 とりあえず、ベイユ競技場の事はローマのコロッセオみたいな感じだと思っておく事にして、話を進めて貰うかね。


「まぁ、ベイユ競技場の事はそう思っておくぜ。じゃあ、続きを頼む」

「あいよ。じゃあ次は肝心な、どんな事をするかの話をしてくで」



「まず、冒険者たちの祭りってのもあって、戦いがメインな祭りってのは分かってるよな?」

「ん?あ、あぁ」

「それはね」「分かってるぜ」

「えぇ?そうなの?」


 俺たちの中に1人小さなバカが混ざっているみたいだが、「気にせず続けてくれ」レザリオにそう言う。

 まぁ、正直なところそうだろうなとは思っていたが、なんでも俺は決闘が嫌いでな。


 エルフとやった時に嫌という程分かったのだが、あれは相手からの殺意がまじまじと感じられて、生きた心地がしないんだよ。(俺は中学の時剣道をしていたのだが、強い奴とやる感覚とも少し似ていたな)


 だから、決闘はあの時で最後にしようと思っていたんだが――果たしてこの祭りはどうなんだろうな。


 俺は嫌な予感を感じながらも、レザリオに続きを話す様促す。


 すると、そんな予感は見事命中。

 レザリオはこう言い放った。


「この祭りは主に冒険者同士で戦い、順位を決める、決闘の祭りなんや」

「そ、そうなのか……」


 ガタっと肩を落とす俺。

 はぁ……決闘なんて言葉、聞きたくなかったぜ。


「ん?どうしたんや?エルフとの決闘で勝ったって聞いてるから、この手の勝負は好きなんやないかって思てたんやが?」

「いや、全然好きじゃねぇよ……」


 むしろ大っっっ嫌いだッ!!

 すると、そこでどうやらみさとが困っているレザリオに、エルフとの決闘の事を話していた様で――


「そうやったんか!ほんまは自分じゃなくて他のやつが倒したのに、勘違いされて無理やり決闘させられたと!そりゃあ決闘が嫌いなんも仕方あらへんな!」


「しゃあないしゃあない!」と、レザリオはとても慰めている表情には見えない笑顔で俺の背中をバシバシと叩きながらそう言った。


「くッ……!恥ずかしい事を大声で言うんじゃねぇ!」


 コイツめ……!くそ!一発くらい頭を叩いてやる!

 俺はいつもみさとたちにそうしている様に、背伸びをして(こいつ身長高いから)頭をこつこうと軽く固めた拳を下ろす。


 するとその瞬間――なんとレザリオはひゅいとそれを交わしやがった。


「おっと!そんな手は通用せんで?」

「な……」


 気がつけば少し離れたところに居たレザリオは、両手を腰に当ててガハハと笑う。――が、いや、コイツ、速すぎじゃねぇか……?


 俺はみさとたちの方に目線を向ける。

 するとやはり、3人も今の信じられないレザリオのスピードに引いている様だった。


 そこで俺たちは、今こうやって目の前に立っている男が、この街最強と謳われる狂乱の戦士バーサーカーという事を再認識した。


 ---


「っと、少々話が脱線したな。じゃあ最後に、この祭りは実は剣の部と魔法の部に分けられてるから、その事について話してくで」

「了解」


 この後、レザリオは思ったりもしっかり、この「剣の部」と「魔法の部」の説明をしてくれた。


 正直全てを話すと長くなるから、俺が簡単にまとめると、

「剣の部」は、その名の通り剣類を使う冒険者が出場する部で、「魔法の部」は、魔法を扱う冒険者が出場する部だ。


 だからこの場合、俺・みさと・ちなつが剣の部で、くるみが魔法の部って事になるな。


「で?分かれるのは良いが、やる事は一緒なのか?」

「いや、剣の部は1対1の決闘で、先に攻撃を当てた方の勝ち。魔法の部はお互い用意された的に向けて魔法を放ち、威力・精度の良かった方の勝ちや。」

「なるほど。どっちもトーナメント制なのか?」

「そうやな」


 なるほど、さっきからこうやって帝都ティルトル剣術祭の説明を聞いてきたが、悪い祭りじゃなさそうだな。

 正直まだ決闘は嫌だが――出ても良いかも知れない。


「――で、ちなみにその祭りはいつ行われるんや?」


 俺は話し終わってスッキリした表情のレザリオにそう聞く。

 まぁ長期滞在はする気は無いから、あまりに後だったら少し考えるが。

 すると、レザリオはこう言った。


「4日後やで」

「ふぅん、4日後か――って、」

「「はぁ!?」」


 ちょっと待ってくれ、今なんつったコイツ!?

 そんなに寸前なら出られねぇだろ!


「いや、それじゃ俺たち出れないんじゃないか?」


 それか、もしやコイツは俺たちに見学しろ、そう言ってるのか?

 しかし、どうやら違うかったらしい。


「いやいや、安心せえ、登録日は2日前や」

「そ、そうか。なら出られるな」

「そう――ね、出られるわね」


 ハハ、ハハハハ、はぁ……

 俺は椅子に深くもたれかかってため息を吐く。

 なんか今日は1日コイツに振り回されたぜ……たくよぉ……


 こうして俺たちの、中央大陸1日目が終わった。

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