目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第37話【2日目の朝〜帝都ティルトルぶらり旅〜】


 帝都ティルトルに訪れ、そして狂乱の戦士バーサーカー、レザリオ・ベルーガと出会った初日。

 今はその翌日だ。


 実はあの後、「部屋が何個か空いてるから好きなとこ使ってええで」とレザリオに言われた俺たちは、お言葉に甘えて1晩泊めてもらっていた。


 いや、最初は数部屋空いてるって言ってもたかが知れてるだろうと思っていたんだが、来客用(らしい)の2階に上がると、なんとほとんど全ての部屋が空いててな。

 俺たちは贅沢に一人一部屋使わしてもらったぜ。

 最初外から見た時もデカいとは思っちゃいたが、まさかここまでとはな。


 ――とまぁ、ここまでは(レザリオ、てめぇどんだけ金持ってんだよ)ってな感情で終わったんだが、

 今朝、早速めんどくさい事が始まりやがった。


 気持ち良く眠ってたってのに、俺の使っていた部屋の扉を誰かがドンドンと叩いて来たのだ。

 そしてその直後、扉が勢いよく空けられると、そこに立っていたピンクの可愛らしいエプロンを付けていた人物は開口一番こう言った。


「起きろぉ!朝やでぇ!」


 ……はぁ、たくよ。

 ここまで来たらマジでキレそうになって来るぜ――てかもうキレても良くないか?


 俺を起こした人物――レザリオは、「寝過ぎは良くない」という考えの元、俺を叩き起こしたんだそうだ。


 ――マジでよッ!俺は昨日あれだけレザリオのペースに振り回されて、めちゃくちゃ疲れたんだからもっと寝かせてくれって!


 でも、残念ながらそんな俺の意見も当然ながら通らず、朝ごはんを作るからと、1階のリビング――昨日美味すぎる昼ごはんを食べたテーブルまで連れて行かれた。


 下に下がると、どうやら俺の部屋は1階に繋がる階段から一番遠い部屋で、他3人はもう既に椅子に座っていた。

 全員、寝てるか起きてるか分からない様な、そんな表情をしてたぜ。

 ――とまぁ、これが今現在までの話だ。


「はぁ……」


 俺はテーブルに両手を伸ばして置くと、頭も同じ様に付ける。

 キッチンの方へ耳を傾けると、レザリオが鼻歌交じりに料理を作っているのが分かった。


 あいつはすごい上機嫌だな。というか、あんなやつでも怒ったり、真剣になったりする時は果たしてあるのだろうか?

 狂乱の戦士バーサーカーという二つ名が付くくらいだからな――


 でも、正直あんな奴の怒った姿は見たくなかった。

 すると、そこでどうやら朝ごはんが完成したらしく、


「今持ってくでー!」


 キッチンの方からそう元気な声が聞こえた。


 ---


「おまちどうさま――ってお前ら!もう布団から出たんやから起きや!」

「――わぁってるよ……」


 俺はテーブルから身体を起こすと、あくびをしながらレザリオの方を向く。って、こいつまださっきの可愛らしいピンクのエプロン着てんのかよ……


「ほら!今日は家政婦さんや無くて、ワイが作ったったで!」


 俺たち4人の前に料理を奥や否や、すぐに両手を腰に当てると、もう既に見飽きた表情でそう言うレザリオ。

 コイツ、昨日昼ごはんを食べた後の、「まぁお前は料理出来なそうだもんな」という俺のセリフを相当引きずっているらしかった。


「ふぁ〜、じゃあ食べましょうかね――」

「だな――」「うん――」

「よし、じゃあ俺も食べるとするか――」


 まぁとりあえずコイツが料理を出来るかどうかの判断はこの朝ごはんを食べてからにするかね。

 俺たち4人は同時にレザリオが目の前に置いた料理に視線をやる。――って!?


「「な、なんじゃこりぁ!?!?」」


 いや、こんなもん食いもんじゃ無いって!

 なんとレザリオが作ったおそらく卵焼きと食パンは、全て炭のように真っ黒焦げになっていた。


「こんなもん食えるかぁ!」

「ん?――あぁすまんなぁ!ワイ料理とかしたこと無かったから焦がしてもたんや。まぁでもちょっとだけやで?」


 どこがちょっとだけなんだよ!?食ったら死ぬレベルだぞこれ!?


「少し……苦いね……」

「ってくるみお前なんで食べてんだよ!?」

「え?こういう料理なんじゃ無いのかな?」

「んな訳あるかぁ!それはもう純粋とかじゃなくて普通にバカだぞ!」


 こうして、今日こそは平凡に行きたいと思っていた帝都ティルトルでの2日目がスタートした。


 ---


「よし!お前ら準備はええか?」

「準備って――本当に武器は持たなくて良いのか?」


 俺はレザリオ家のすぐ前で、再度確認を取る。

 というかさっきから何度も確認を取っていた。


 時は朝ごはん丸焦げ事件から約30分後。

 レザリオは俺たちに「今日はこの街を案内したるわ!」そう言い、早速開始する事になった。――のだが……


 今確認をしている様に、なんでも「案内だけやから武器は持たんくてもええ」だそうだ。

 いや、俺はもしかしたら今日は依頼を受けたりするかもしれないから持って行きたいところなんだが――レザリオが頑なに「武器を持ってると重いから動きづらい」からと武器を持って行くことを禁止にしたんだよ。


 その割にはレザリオのやつ、初対面の時からずっと重そうな大剣背負ってるしな。

 本当によく分かんねぇやつだ。


「武器はさっきも言ったやろ?邪魔やからいらん」

「はぁ……分かったよ。」

「で?紹介と言ってもどこに行くのかしら?」

「最初はベイユ競技場に行って、そこから戻ってくる途中にも色々あるからそれも紹介する――って感じに考えてるで」

「なんだか思ったよりも小規模ね」


 な、それ俺も思った。

 だってこの街――帝都ティルトルは中央大陸の中でも大きい部類に入る街だろ?

 だったらもっと他にも紹介する場所がある様な気がするんだが。


 しかし、そのことをレザリオに聞くと、頭を掻きながら「悪いな、ワイ、実はそこまでこの街のこと詳しないんや」

 そう言った。


 なんせ帝都ティルトルはベイユ競技場を中心として、北部と南部に別れているらしく、俺たちの居る南部以外の場所はよく分からないらしい。(だとしても、南部にだって他に紹介する建物がありそうなもんだが――まぁそれは言わないでおくか)


 とりあえず、ベイユ競技場はそれだけこの街ではシンボル的存在なんだなって事は分かった。


「よし、じゃあまずはベイユ競技場から案内頼むぜ」

「おう!任せてくれや!」


 こうして、俺たちは帝都ティルトルの中心、ベイユ競技場へと歩き始めた。


 ---


「よっしゃ、この辺まで歩けば全体が見えるやろ。あれがベイユ競技場やで」


 そこから約30分、俺たちはやっと街の中心へと着いた。

 昨日こそは街並みを見るだけで楽しかったから全然疲れは感じなかったんだが――流石にもう見慣れたし結構疲れたぜ。

 でも――


「す、すげぇな……」

「まるで本物のコロッセオじゃない……!」


 そんな移動の疲れが吹き飛ぶくらいには、目の前のベイユ競技場の迫力は凄まじかった。


 俺たちは今ベイユ競技場から200メートル程離れた場所に居るんだが――昨日の俺のイメージは全然間違っていない――いや、むしろ的を得ていたのかもしれない。


 競技場の周りには、この街の特徴でもあるぎゅうぎゅうに並べられた建物は無く、広場の様になっているのだが、それのお陰で建物全体をよく見ることが出来た。


 さて、じゃあ早速そのベイユ競技場の外観を説明して行きたい所なんだが――先程も言った様に、昨日俺が思っていた「ローマのコロッセオ」というイメージはほとんど正解で、説明するよりもその写真を見た方が早い、というレベルだった。


 それでも、やはり本物のコロッセオとは違い、こっちはまだバリバリの現役な訳だから、壁が崩れたりしているところも見えないし、ものすごく綺麗なんだが。


 何よりも円形では無く、楕円形だからより一層迫力が感じられた。


「なぁ、これって近づいたらもっと迫力あったりするのか?」

「いや、こういうもんはこのくらいの離れた距離で見るんが一番ええんや」

「なるほどな」


「中には、まだ入れたりしないのかしら?」

「あぁ、剣術祭の準備とかがあるやろしな」


 とりあえず、近くで見たり中に入ったりするのは帝都ティルトル剣術祭の時に。そういう事だった。



 それからベイユ競技場を後にした俺たちは、別の道で引き返しながら酒場やら昨日行ったのとは別の冒険者ギルドやらをレザリオから相変わらずのドヤ顔で紹介してもらったんだが――いまいちベイユ競技場に匹敵する建物は無かった。


 いや、もちろんその建物たちがすごく無い訳ではなくてな?(その中の1つでもラペルにあれば異彩を放つレベルだ)

 きっとこの2日間でこの街をいっぱい見たもんだから、慣れて来たんだよ。


 そしてそんなこんなで歩いていると――気が付けば昨日訪れた冒険者ギルドの前まで来ていた。


「――よっしゃ、この建物がワイの家から一番近いギルドやで。ここには昨日も来たから分かるやろがな」

「だな」「だね」「おう」「うん」


 それにしてもこの冒険者ギルドはさっき紹介して貰った他の冒険者ギルドよりも迫力あるよな。

 もしかするとこの街でも大きい方なのかも知れん。


 すると――そこで冒険者ギルドの入り口付近にいた2人の冒険者であろう人物がレザリオに声を掛けた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?