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第74話【再び引き抜かれた大剣〜まさかの出現〜】


「マズイこと?――って、ッ!!」

「なんや?ってあれは……」


 ミラボレアの声に反応して荷台から顔を出した2人は、もう数百メートル先にある中央大陸の方を見る。

 すると2人はどちらも先程のミラボレア同様、緊迫した声に変わった。


(ん?なんだなんだ?まさかまた変異種モンスターが?)

 そこで俺はそう思うが、すぐにその考えは頭の中から消す。

 だってもし本当に変異種モンスターが中央大陸に居る事がここから見えたんなら、そいつどんだけデカいんだよってなんじゃん?


 ――だが、どっちにしろミラボレアレベルの冒険者が見ただけでヤバいと感じる事なんだ、同じ冒険者として、これは俺も知る必要があるな。


 そこで俺も先程の2人と同じ様に荷台から首を出して中央大陸を見ると――


「……ッ!?!?」


 そこには中央大陸の上で、2つの大きな翼を広げたドラゴンが飛んでいた。――って!?


 ちょ、ちょっと待ってくれ……!?この距離からこんなにはっきりと見えるって……どんだけデカいんだよあのモンスター!?

 ラゴの乗ってるドラゴンの倍はあるんじゃねぇか……?


 もしアイツがどこかの街にでも行ったりしたら……


「ミラボレア!!早くあのモンスターの元まで行くぞ!!」

「分かってるわぁ」


 くそ……なんで俺たちが居ない間にこんな事が……

 ま、まさかまたソルクユポの仕業ってのか……?


 何はともあれ、一刻も早くあいつを討伐しなければ。

 俺はスピードが上がった馬車の荷台の中で、背中から剣を引き抜いた。


 ---


「着いたわよぉ」

「よし、早く降りるぞ。」

「せやな!」

「あぁ……!」


 俺たちは中央大陸に到着すると、すぐに荷台から降り、空を見上げる。そこには、先程見た時とは比べ物にならないくらい大きなドラゴンが咆哮を上げながら空を飛び回っていた。


「ギャァァァァァッ!!」


「えげつない咆哮しよるなあいつ……」

「どうやらまだあのモンスターは俺たちの存在に気付いていない。だから、まずはミラボレア、お前が出来る限りの最大火力魔法を放ってくれ。それで倒す事が出来たら一番良い。だからレザリオ、お前はまだその大剣は抜くな。とうま達は無理はしなくていい。あれはお前らがやれるレベルじゃない。」

「えぇ、分かったわぁ」

「よっしゃ、了解やで。」

「……」

「どうしたとうま?」

「どうしたの?」「どうしたんだ?」「大丈夫?とうま?」


 くそ……やっぱりこの中だと俺たちは力不足の役立たずなのかよ……そんなの……


「……ッ、分かったよ……」

「よし、じゃあミラボレア、頼む。」

「えぇ」


 その瞬間、ミラボレアは空を飛ぶドラゴンの方に杖を伸ばし、呪文を唱える。

 すると、杖の先端に水色と紫色が混ざった様な色のエネルギー弾が生成された。


「これは……」


 そう今ミラボレアが放とうとしているのは帝都ティルトル剣術祭魔法の部決勝戦でも使用した大技、コメットインプレスなのだ。


「堕ちなさい、コメットインプレス」


 途端、杖からまるで弾かれたピンポン玉の様にエネルギー弾は空に弾けると、ドラゴン目掛けて飛んで行った。――――が、


「くそ、外したか」

「あの速度の魔法避けるとはな、中々やる奴やないか」


 寸前でその存在に気付いたドラゴンは即座に進路を変え、コメットインプレスを回避。更に、その攻撃で俺たちがドラゴンに気付かれてしまった。


「ギャァァァァァ!!」


 ドラゴンはそう叫ぶと急降下、今にも地面に擦れそうな低空飛行で横から大きく口を大きく開いて俺たちを噛みちぎろうとして来る。


「お前ら下がれ!ここは俺がやるッ!」


 それに対してスザクは、十文字槍を構えると、何時でも突きを繰り出せる体制に入った。


 そして、ドラゴンがそのままスザクの攻撃範囲内まで来た刹那――


「乱れ三段突きッ!!!」


 スザクは相手の噛み付きを身体を左側に倒す事で回避。がら空きになった腹に目にも止まらぬ速さで3連続の突きを繰り出し、見事に全て命中させた。


「よし!攻撃が入った!!」


 ――はずだった。

 確かに攻撃はちゃんと全て入ったが、なんとドラゴンはそのまま何事も無かった様に再び高度を上げると、俺たちの頭上を先程と同じく旋回し始めたのだ。


 ど、どういう事だよ……?まさか当たった様にこちらから見えていただけで、実は外していたのか……?


「お、おいスザク――」

「当たった、確かに今の俺の突きは全て命中した。だが――」

「攻撃の刺さりが甘かったっちゅうことか」


 そのレザリオの言葉に、スザクは悔しそうに頷いた。

 どうやら、今繰り出した突き技、「乱れ三段突き」は、速度こそはピカイチだが、その分攻撃力は劣る様で、普段は小型のモンスターや木刀を使用した対人の模擬戦などに使用する技らしい。

 だが、スザク曰く相手の突進して来る速度が非常に早く、この技で応戦するしか無かったと。


「――ッ!みんな!また来るぞ!」


 するとその瞬間、再びドラゴンは先程と同じ様に急降下すると、横から俺たち目掛けて口を大きく開いて襲いかかって来た。

 しかも、今回は角度的に目標は俺だ。


「……ッ!!おいとうま!避けろ!」

「とうま!」「早く回避の体制を取れ!」「早く!とうま!」


 しかし、俺は回避の体制には入らなかった。

 だって……だってよ……こんなの、俺は居ない方が良いって言われてるのと同じじゃねぇか……


 エスタリが死んだと分かった時、思ったんだよ、「あの時俺がファスティ大陸に入れば結果は変わっていたかもしれない」って。嫌な程何も出来なかった自分を恨んだ、嫌な程次は絶対そんな事は起こさせないと誓った。

 だから、いつまでも無力な自分では居たくないッ!!


「――ふぅ、ッ!!」


 俺は剣を向こうから飛んでくるドラゴンに向けて構える。

 そして、いつまでも攻撃を繰り出せるように握る手に力を入れた。


「やめろとうま、お前が戦える相手じゃない!」

「おいとうま!」「やめろ!」「とうまーッ!」


 ……ッ!やってやる……!俺がこいつを倒してみんなを守るんだ……!


「ギャァァァァァ!!」

「……ッ!?」


 しかし、その瞬間、俺はドラゴンの咆哮に怯んでしまい、相手が攻撃範囲内に入っているにも関わらず、攻撃が1秒程遅れてしまった。


 確かに時間だけで見れば誤差の様に思えるが、相手はスザクのそれとも引けを取らないスピードの持ち主。そのミスは命取りだ。


 しかし、そう分かった時点でもう遅い。

 そのままドラゴンは大口を開いて俺の身体を――


「フッ」

「ギャァァ!?」


 噛みちぎろうとした刹那、横から誰かの斬撃がドラゴンを襲い、更に完全に動けなくなっていた俺を抱え、少し離れた場所で着地した。


「――って、」

「おい、何故スザクたちの命令を無視した」

「レザリオ!?」


 俺を抱えていたレザリオは、地面に下ろすと何時もの陽気な様子は無く、無表情でそう聞いて来る。

 完全にあの時と同じ、大剣を抜いた状態と同じだった。

 そして、抜かれた大剣にはドラゴンの血が付着している。

 そう、今俺を助け、ドラゴンに斬撃を放ったのはレザリオだったのだ。


「もう一度聞く、何故お前は回避しようとしなかった?」

「そ、それは……ッ!俺だってみんなを守りた――」


 パァンッ!!


「痛ってぇ!?」

「ここは遊びの場所では無い、本物の戦場だ。まずは周りを守れる力を付けてからそのセリフを吐くことだ。」


 そこで、俺も冷静になった。

 確かに今の行動は軽率過ぎたな、もし、あのままレザリオが助けてくれなかったら……


「――おいレザリオ、説教はあとからだ。ドラゴンの様子がおかしい。」


 すると、そこでスザクがレザリオにそう言った。

 その声に反応する様に俺もドラゴンの方を向くと――


「ギャァァ……!!」


 先程のレザリオの斬撃でやられた首筋から血をダラダラと流しながら空気を口から取り込み出していた。

 これは……


 そこで俺はエスタリを殺したサラマンダーも、ブレスを放つ直前にこの様な行動を取っていた事を思い出す。


「まずい……!あれはブレスを吐こうとしてる動きだぞ!」

「なら、俺がブレスごとあいつを斬り捨てる。」

「な……!?何言ってるんだよレザリオ!そんな事できる訳――ッ!」

「俺があの程度の火竜に負ける訳が無い。」


 そこでレザリオはそう吐き捨てると、両手で世紀すら破壊する大剣センチュリーブレイカーを構え、黒い刀身に赤いオーラを纏わせる。


 そして――


「ギャァァァァァ!!!」

「死ね、ファトゥーム・ジ・エンド確実した運命の死


 ドラゴンが俺たちに向けて灼熱の炎を吐き出した瞬間にレザリオも前に動き、言い放った魔法の効果により赤黒く変わった大剣を横に一振り。その刹那、ブレスは愚か、ドラゴンの身体ごと一刀両断に斬り捨てられた。

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