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荀粲2  妻にベタ惚れ

荀粲じゅんさんは、夫人ととても仲睦まじかった。


そんな夫人がある冬の日、

熱病にかかった。


荀粲、中庭に出て自らの身体を

キンキンに冷やすと、中に入り、

自らの身体で夫人を冷やそうとした。


その看病の甲斐もなく、夫人は死去。

そして間もなく、荀粲も死んだ。


人々はバカなことをしたものだ、

と荀粲の行動を嘲笑っていた。


これに対し、

病床にあった荀粲は言っている。


「夫人の徳などどうでもよい。

 ただ美しければそれでよいのだ」


後世の人間はやはりこの発言も

バカにしたようである。

西晋後期の人、裴頠はいきが、

こうぴしゃりと切って捨てている。


「おおかた看病するご自身に酔っての

 放言であろうよ。

 およそ徳持てる者の発言とは思えん。


 後世の人びとが、このような妄言に

 トチ狂わねば良いのだが」




荀奉倩與婦至篤,冬月婦病熱,乃出中庭自取冷,還以身熨之。婦亡,奉倩後少時亦卒。以是獲譏於世。奉倩曰:「婦人德不足稱,當以色為主。」裴令聞之曰:「此乃是興到之事,非盛德言,冀後人未昧此語。」


荀奉倩と婦は至りて篤し。冬の月に婦の病熱せるに、乃ち中庭に出で自ら冷を取り、還り以て身にて之を熨む。婦亡かりせば、奉倩も少しき時の後に亦た卒す。是れを以て世の譏りを獲る。奉倩は曰く:「婦人が德は稱うるに足りず、當に色を以て主と為さん」と。裴令は之を聞きて曰く:「此れ乃ち是れ興の到りたるの事なれば、盛德なる言に非ず。冀くは後の人の未だ此の語に昧まさらざるを」と。


(惑溺2)




裴頠

惑溺と言うカテゴリは「女に溺れた」みたいな感じのエピソード集となるのですが、まぁぶっちゃけ後世の我々から見ると「あら~仲良しご夫妻でございますわね~」とほっこりするものにしか見えないものも多いです。ここもね、良い旦那さんじゃんって印象しかない。じゃあなんで裴頠がこうも激烈に叩いてるかって言うと、このひと西晋では賈南風政権に参与して、曲がりなりにも西晋の政治を安定させた手腕を振るってるんですよね。つまり、バリバリの政務家肌。対する荀粲はまともに政務に携わった気配もありません。同じ名家出身でありながら、こうも正反対なふたりであることを物語っている、と言えるのかも。考えすぎかも。

なお裴頠は後に八王の乱に巻き込まれて殺されました。


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