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鄧艾   鳳や鳳や

蜀を落した名将、鄧艾。

彼にはどもり癖があり、喋ろうとすると


「あっ、あ……」


と詰まることが多かった。


司馬昭しばしょう、そんな鄧艾に戯れで言う。


「あっ、あって鄧艾お前、

 何人の艾がいるんだよ」


鄧艾はマジレスする。


「ろ、論語にも、ご、ございます。

 ほ、鳳や鳳や、と。

 な、なれど、孔子こうしは、

 た、ただお一人で、ご、ございます」




鄧艾口吃,語稱「艾艾……」。晉文王戲之曰:「卿云『艾艾……』,為是幾艾?」對曰:「『鳳兮,鳳兮』,故是一『鳳』。」


鄧艾は口に吃りあり、語りて稱せるに「艾艾……」と。晉の文王は之に戲れて曰く:「卿の『艾艾……』と云えるに、是れ幾つの艾を為さんか?」と。對えて曰く:「『鳳兮、鳳兮』たれど、是の故にても『鳳』は一なり」と。


(言語17)




鄧艾

現代日本でこそ「がい」と読まれているが、当時の発音では ngad 。間違っても「がいがい」ではない。どもりでもそんな言葉が出たらただの異常者です。


鳳兮、鳳兮

さすがにこれ解説入れないと無理ゲーでしょう。接輿せつよという隠者が孔子に向かって言い放った言葉。孔子のことを鳳凰として見立てて、けど今の世の中じゃアンタがいくら頑張っても意味ないからやめとけやめとけ、と告げて立ち去った(微子第十八の五)。つまり、何度その名前を呼んだところで、いるべきものは一人しかいませんよ司馬昭さま、というニュアンスになるだろうか。

一方で「鳳兮、鳳兮」は孔子の立身を諫めようとした隠者の言葉。となると世説新語は、鄧艾が司馬昭にこれ以上進んでしまうと危ういですよ、と言わせたかった、としたのかもしれない(こんなエピソードを史実だと思う意味がない)。まぁ結果として司馬昭は殺されず、アドバイスをしたはずの鄧艾が鐘会に殺されてしまうわけだが。

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