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王導13 犬猿の仲、蔡謨

人たらしの達人、王導おうどうさまにも

大っ嫌いな相手はいる。

それが、蔡謨さいも、と言う人だ。



ある会合でのこと。


王導さま、舞妓を呼び、

踊らせるための舞台を設けた。


さて蔡謨さん、

王導さまのこの行いにご立腹。

席を辞してしまう。


王導さまも、特に止めなかった。



なにぶんアレである。


「わしが西晋で王承おうしょう阮瞻げんせん

 ブイブイ言わしておった頃には、

 蔡克さいこくどのの小せがれの名なんぞ

 まるで耳に入ってこなんだにな」


とか王導さまは言ってるし、

蔡謨さんは蔡謨さんで、


「王導は妾なんぞに牛耳られているな。

 政もほとんど妾の言いなり、

 その妾どのの元にはわいろが流れ込む。

 そうだ、彼女の姓を取って、

 らい尚書、とでもお呼びしようか」


とか言ってる。



どっちもガキかよ。




王丞相作女伎、施設床席。蔡公先在坐、不說而去。王亦不留。

王丞相は女伎を作し、床に席を施設す。蔡公は先に坐に在れど、說ばず、去る。王も亦た留めず。

(方正40)


王丞相輕蔡公曰:「我與安期、千里、共遊洛水邊,何處聞有蔡充兒?」

王丞相は蔡公を輕んじて曰く「我と安期と千里の共に洛水の邊にて遊べるに、何處に蔡充に兒有るを聞かんか」と。

(輕詆6)


王丞相有幸妾姓雷。頗預政事、納貨。蔡公謂之:「雷尚書。」

王丞相に雷なる姓の幸いさる妾有り。頗る政事を預り、貨を納む。蔡公は之を謂えらく「雷尚書」と。

(惑溺7)




蔡謨

王導さんと仲が悪い、となると庾亮ゆりょう辺りとの仲は良いのかな、と思ってみれば庾亮には「お前ごときがホクバツしたところであのクッソつええ石虎せきこに勝てるわけねえだろバカじゃねえの」とか突き付けててやばい。とことんまでにロックな人。文学典礼系について化物じみた見識を示していつつ軍事方面の知識にも長けているとか、なんだか途轍もなく有能な人なのだが、寝技はだいぶ落第点である。と言うよりこんな打撃特化系論客が寝技全盛の東晋朝で権勢握れるわけないわな。


王承

東晋が設立された当時としては、功績ナンバーワンの誉れも高かった。今ではすっかり王導さまの陰に隠れてしまっているが。太原王氏たいげんおうし


阮瞻

竹林七賢ちくりんしちけんの影薄い方の阮氏、阮咸げんかんの息子。当時にはブイブイ言わせてたんでしょう。ブイブイ言わせるだけで実績はろくに残さなかったようですが。


蔡克

三国史上に名を輝かす大文人、蔡邕さいようのいとこの子孫。……という事が伝わる程度だ。まぁ尊敬された名士ではあったんだろう。


雷尚書

尚書と言うのは、単純に言えば皇帝の秘書官である。皇帝のあらゆる行動、決定に介在する存在であるから、当然権勢はものすごくデカい。もうちょっと言えば蔡謨さん、王導を「皇帝レベルの権勢者だな」って揶揄している事にもなる。いけない、蔡謨さんそれはいけない。ちなみにこの人の息子が王洽おうこうであり、劉宋スキー的にはこのひとの血筋が王弘おうこうに繋がるわけでウハウハするのである。


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