使いをひとっ走りさせた。用件は
「王導さま、うちの娘を
あんたの一族のどなたかの
嫁にもらってやってくださいよ」
というもの。王導さまもちょう乗り気。
「オッケー! うちに行って、
これはって奴を見繕ってよ」
郗鑒さま、そのまま使いに
王導さまんちに行かせて
一門の御曹司どもに会わせた。
郗鑒さまの元に戻ってきた使いは言う。
「さすが
と言いたいところでしたけど、
私の要件が郗鑒さまのお嬢様の
婿探しだと知ると、
途端に取り繕ってくるんですよ。
ただ、その中でお一方、
居間のほうで寝ころんだままで、
まったくこちらに
関心のない風でいた方が
いらっしゃいました」
郗鑒さまの頭上に、電球が灯る。
「そ い つ だ」
で、そいつに会ってみれば、
こうして郗鑒の娘は、
王羲之に嫁ぐのだった。
郗太傅在京口、遣門生與王丞相書、求女壻。丞相語郗:「信君往東廂、任意選之門生。」歸白郗曰:「王家諸郎亦皆可嘉、聞來覓婿咸自矜持。唯有一郎在東床上坦腹臥如不聞。」郗公云:「正此好!」訪之乃是逸少。因嫁女與焉。
郗太傅は京口に在りて、門生をして王丞相への書を與え、女が壻を求む。丞相は郗に語るらく「信君は東廂に往きて、意に任せ、之を選ぶべし」と。門生は歸りて郗に白して曰く「王家が諸郎は亦た皆な嘉なるべきも、婿を覓め來たるを聞かば、咸な自ら矜を持す。唯だ東床が上に在りて坦腹して臥し、聞かざるが如き一郎有り」と。郗公は云えらく「正に此が好し!」と。之に訪ぬらば、乃ち是れ逸少なり。因りて女を嫁に與う。
(雅量19)
郗鑒
東晋北方守護を語るにあたり、大きな存在感を示す。