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郗鑒3  結婚したい御曹司

京口けいこう郗鑒ちかんさま、建康けんこう王導おうどうさまに

使いをひとっ走りさせた。用件は


「王導さま、うちの娘を

 あんたの一族のどなたかの

 嫁にもらってやってくださいよ」


というもの。王導さまもちょう乗り気。


「オッケー! うちに行って、

 これはって奴を見繕ってよ」


郗鑒さま、そのまま使いに

王導さまんちに行かせて

一門の御曹司どもに会わせた。


郗鑒さまの元に戻ってきた使いは言う。


「さすが琅邪ろうや王氏ですね、

 と言いたいところでしたけど、

 私の要件が郗鑒さまのお嬢様の

 婿探しだと知ると、

 途端に取り繕ってくるんですよ。


 ただ、その中でお一方、

 居間のほうで寝ころんだままで、

 まったくこちらに

 関心のない風でいた方が

 いらっしゃいました」


郗鑒さまの頭上に、電球が灯る。


「そ い つ だ」


で、そいつに会ってみれば、王羲之おうぎし

こうして郗鑒の娘は、

王羲之に嫁ぐのだった。




郗太傅在京口、遣門生與王丞相書、求女壻。丞相語郗:「信君往東廂、任意選之門生。」歸白郗曰:「王家諸郎亦皆可嘉、聞來覓婿咸自矜持。唯有一郎在東床上坦腹臥如不聞。」郗公云:「正此好!」訪之乃是逸少。因嫁女與焉。


郗太傅は京口に在りて、門生をして王丞相への書を與え、女が壻を求む。丞相は郗に語るらく「信君は東廂に往きて、意に任せ、之を選ぶべし」と。門生は歸りて郗に白して曰く「王家が諸郎は亦た皆な嘉なるべきも、婿を覓め來たるを聞かば、咸な自ら矜を持す。唯だ東床が上に在りて坦腹して臥し、聞かざるが如き一郎有り」と。郗公は云えらく「正に此が好し!」と。之に訪ぬらば、乃ち是れ逸少なり。因りて女を嫁に與う。


(雅量19)




郗鑒

東晋北方守護を語るにあたり、大きな存在感を示す。建康けんこうの東に位置する軍事拠点「京口けいこう」を開府した武将である。この軍府を拠点とした軍閥は、後に北府軍と呼ばれることとなる。即ち系列としては劉裕りゅうゆうの遠い先輩と言うことになる。もと司馬倫しばりん配下であったが病を理由に離脱(素晴らしい判断である)、八王はちおう永嘉えいかの難を避けて東晋入り。対峙した相手が石勒せきろく王敦おうとん蘇峻そしゅん、即ち当時に於ける最悪の敵ばかりであり、この全てを乗り越えた手腕は、やはり特筆されるべきであろう。

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