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郗鑒5  キテルねお孫さん

郗鑒ちかんさまと言えば、

蓄財家として有名であった。

その財産は、数千万銭にのぼる。


一方の孫、郗超ちちょう

じいじとは正反対で、いわゆる

「財貨を軽んず」と言う性分だ。


そんな郗超、毎朝じいじのところに

挨拶に出向いていた。


郗家のルールでは、年少のものは

座につかず挨拶をすることになっている。


ある日の話題が、

郗鑒さまの蓄えている

財貨のことになった。


ははぁん、これはもしかして……?

じぃじ、ピンとくる。

そこで孫に水を向けてみた。


「お前、わしが抱えている

 財貨が欲しいのだな?」


オーケーオーケー、

お前も所詮俗物なのだ。

郗鑒さま、財貨の蔵の扉を

一両日の間、開放してやった。

好きに使っていいぞ、と。


郗鑒さま、高をくくっていた。

郗超が何をしたところで、

悪くても数百万銭くらいだろう、

そう見越していたのである。


が、郗超、友人知人に、

その財貨を配る。配りまくる。

見事に、蔵をカラにしてしまった!


「ファ!?」


ビビる郗鑒さま。

わけがわからないよ。


だが、自分が言い出したことだ。

なので郗超に、

どうのこうの言うのもお門違い。


全く、なんて奴だ。

郗鑒さま、あきれるやら

感心するやらだったとさ。




郗公大聚歛,有錢數千萬。嘉賓意甚不同,常朝旦問訊。郗家法:子弟不坐。因倚語移時,遂及財貨事。郗公曰:「汝正當欲得吾錢耳!」迺開庫一日,令任意用。郗公始正謂損數百萬許。嘉賓遂一日乞與親友,周旋略盡。郗公聞之,驚怪不能已已。


郗公は大いに聚歛し、錢は數千萬を有す。嘉賓の意は甚だ同じからず。常に朝旦に問訊す。郗家の法にいう、子弟は坐すべからず、と。因りて倚語し時の移れるに、遂にては財貨の事に及ぶ。郗公は曰く:「汝、正に當に吾が錢を得たるを欲せるのみ!」と。迺ち開庫せること一日にして、意に任せ用いらせしむ。郗公は始め正に數百萬許りの損ずるを謂ゆ。嘉賓は遂には一日にして親友に乞與し、周旋せるを略盡す。郗公は之を聞き、驚き怪しみて、已已たるを能わず。


(儉嗇9)




この「郗公」については、郗愔と解釈されることも多い。確かに郗鑒っぽくはない気もしますしねえ。これを郗愔にしておくと、郗愔と郗超の間に発生した遺言エピソードとかの厚みも増すんですよね。


まぁこれについては「面白いと思うほうで解釈しておけばいい」とは思います。

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