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王羲之5  王羲之の声望

王羲之おうぎしさんは書聖として有名なわけだが、

若いうちは政治家としての将来を

嘱望されていた。


王敦おうとんからも言われている。


「お前は我が一門の若者の中でも

 図抜けているな。お前ならば、

 あの阮裕げんゆうにとて引けを取るまい」


阮裕と言えば阮籍げんせき以降

才人を輩出しまくってる阮氏の名士だ。

王敦も、その才覚を認めながらも、

あまりにも才気煥発過ぎて

うまく扱えなかった、と言うほどの人だ。


また、庾亮ゆりょうさまからも


「王羲之殿の育成は国の重大事だ」


とまで言われている。

そのためか、甥の庾倩ゆせんは、

王羲之について、

こんな碑文を残している。


「国を挙げ抜粋した」



王羲之おうぎしが若かった頃、

周顗しゅうぎさんの宴席にお呼ばれした。

とはいえ、席次は末席。


にもかかわらず、

牛の心臓をかっさばいて食ったため、

人々から見直されたそーな。


……?




大將軍語右軍:「汝是我佳子弟,當不減阮主簿。」

大將軍は右軍に語るらく:「汝は是れ我が佳き子弟なれば、當に阮主簿に減さざるべし」と。

(賞譽55)


庾公云:「逸少國舉。」故庾倪為碑文云:「拔萃國舉。」

庾公は云えらく:「逸少には國を舉ぐべし」と。故に庾倪は碑に文を為して云えらく:「國を舉げ拔萃す」と。

(賞譽72)


王右軍少時,在周侯末坐,割牛心噉之。於此改觀。

王右軍の少き時、周侯が坐の末に在りて、牛の心を割りて之を噉らう。此に於いて觀を改むる。

(汰侈12)





すごい。最後のやつのこの注がないとさっぱりわからないっぷり。


キーワードは篇名の「汰侈たしゃ」。いきすぎた贅沢の話である。となると、牛の心臓がド級の高級品なんだね、とわかる――のだが、さらにここに別口の話も持ち込む必要がある。


われらが羅友らゆうさんにご登壇いただきます。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054884883338/episodes/1177354054886483772

これね。


このエピソードから、当時の宴席、席次次第で振る舞われるものが違う、と推測できるのだ。となると、わざわざエピソード中に存在が見える牛の心臓、これきっと、主賓クラス向けのもの。


王羲之、末席にいたにもかかわらず、そいつをペロリといっちゃった。しかも、いかにも「自分以外の」人間の礼儀にはうるさそーな、あの周顗さんが催した席で。となると、王羲之にとっちゃ、牛の心臓なぞ、特筆すべき贅沢品ではなかった、となりますね。


やべえぜ東晋とうしん琅邪ろうや王氏。


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