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簡文12 ナイトタイムラヴ

許詢きょじゅん簡文かんぶんさまのところに訪れた、

ある夜のこと。


風はそよよか、月あかりは清明。

小さな部屋の中で、

二人は思うさまに語らい合う。


その中で許詢は、胸中の思いを歌に託す。

元々それは許詢の得意技ではあったが、

この日の詩藻は、際立って冴えていた。


簡文さま、許詢とは

常日ごろ親しくしている訳であるが、

この日の許詢の言葉には、

はなはだ感嘆を禁じ得ない。


ずずいと近付き、許詢と膝を接し合う。

お互いの手と手を重ね、

夜が明けるまで語らい合った。


後日、簡文さまは述懐している。


「許詢どのほどの才覚と情念とは、

 いやはや、そうそうは

 出会えないことであろうよ」



さて、別の日のことだ。


王坦之おうたんしが許詢を吏部郎りぶろうに推挙した。

これを聞いた郗曇ちどん、思わず漏らす。


相王しょうおうの清談好きは相当だぞ。

 とつのやつ(※許詢の幼名)なんぞ

 近づけたらえらいことになるぞ」




許掾嘗詣簡文。爾夜、風恬月朗、乃共作曲室中語。襟情之詠、偏是許之所長、辭寄清婉有逾平日。簡文雖契素、此遇尤相咨嗟、不覺造厀共叉手語達于將旦。既而曰:「玄度才情、故未易多有許。」

許掾は嘗て簡文に詣づ。爾の夜、風は恬にして月は朗らかなれば、乃ち共に曲室中の語を作す。襟情の詠は偏えに是れ許の長ぜる所なれど、辭を寄するに清婉なること平日に逾ゆる有り。簡文は契素ありと雖も、此の遇にては尤も相い咨嗟し、覺えず厀に造り、共に叉手し、將に旦にならんと達せるまで語る。既にして曰く「玄度が才情は、故より未だ多くは有り易きを許さず」と。

(賞譽144)


王中郎舉許玄度為吏部郎。郗重熙曰:「相王好事。不可使阿訥在坐頭。」

王中郎は許玄度を舉げて吏部郎と為す。郗重熙は曰く「相王は事を好む。阿訥をして坐頭に在らしむるべからず」と。

(輕詆31)




王坦之

太原たいげん王氏。『晋書しんしょ』には、簡文帝が書いた桓温かんおんに全権を委任するという書状を、本人の前で破り捨てた人、として書かれている。何と言うか、どっちかって言うと王担之のほうが簡文さまと敵対してねえかこれ。


郗曇

郗鑒ちかんの息子、郗愔ちいんの弟、郗超ちちょうの叔父。謝万しゃまんと共に洛陽らくよう救援の大将として出撃したが病を得て一時後退。これを見た謝万が怖気づいて合わせて後退した、と言う。この洛陽失陥の経緯を見るだけでも、桓温かんおんさまプッツン行きそうですよね。

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