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04家庭を顧みたいが世界がそれを許さない

「私は師匠の弟子ですのよ! あんなに毎日、あんなことやこんなことをして私の色んなところを鍛えてくださったのに!」


 リーシャ嬢は可愛らしく怒りを顕にしながら僕に詰め寄るが。


「うんダメだね。確かに君は思った以上に色々と上手にはなったけど、帰りなさい」


 僕は即却下する。


 使えるものは何でも使うということは、使えないものは使わないということでもある。


「へえ……、なんの話?」


 リーシャ嬢とのやり取りを聞いていたセツナが、僕の後ろから静かに尋ねる。


「セツナ待て、違う。本当に誓ってこれは違うんだ。何もない、何もしてない、僕はセツナ一筋で家族第一だ。世界で一番愛してる」


 僕は疑似加速を用いて残像を置きながら振り返って答える。


 いやはやヤバい。

 今回に関してはマジにやましいことは何もない。

 二十年の結婚生活で数回、いい女を口説いて関係を持ったことがあるがピッタリ同じ数だけ『転移阻害転移結晶搭載型完全固着拘束魔道具』で縛られて『融合装着型強化外装先行試作実験機』で海に投げ飛ばされて海底まで沈められたりした。


 流石に死にかけた、マジで。

 実は子供の頃以外で経験したマジの命の危機はほぼ全てセツナによるものだ。

 なまじ僕が何でも対応出来てしまうので、セツナは怒るとちゃんと僕を殺しにかかる。


「……これは違うって、へえ……まだ別件があるんだ?」


「ない、あるのは別件ではなく前例の話だ。落ち着けセツナ、そもそも彼女はまだいい女足りえてない」


「…………まだ?」


 そんな失言だらけの僕とセツナの会話を聞きながら。


「あれってリーシャさんか? ライラちゃんのお友達の」


 のんきにチャコールが跳んできたリーシャ嬢を見て漏らす。


「あーそうだな。つーかクロウはあんな若い子誑かしてんのか? あいつそろそろ五十だろ……まだそんなんやってんのかよ。俺は愛妻家界隈世界代表だから全然わからねえが、セツナに引くほどベタ惚れされてんのわかってんなら弁えとけよな」


 煙草に火をつけながらバリィはそんな馬鹿なことを垂れる。


「いや流石にあれはクロウも手出してなさそうだけど、セツナの愛の重さにも問題はあるでしょ」


 呆れるようにリコーはそんな感想を述べて。


「クロウはギリギリの節操はあるからね、私もリコーも口説かれてはいるけど手は出されてないし。まあ逆に関係値がない女とはめちゃくちゃ遊んでるってことでもあるんだろうけど」


 バリィから貰った煙草に火をつけながらキャミィはそんなことを言って。


「はークロウさんはやっぱすげーな、モテるんだなぁ」


 ブラキスは間抜け面でそんな感想を述べると。


「え、モテたいの……?」


 ブラキスの妻である賢者が夫の失言に反応する。


 ああくっそこいつら……。


「聞こえてるぞテメェら、腹ただしさより懐かしさ勝つからやめろ。一杯ひっかけてる暇は流石にないぞ。セツナも後で僕の無罪を証明するから落ち着いてくれ」


 僕はそう言って、目から黒い炎がチラつくセツナのなだめてから。


「チャコール、久しぶりだな……と言っても覚えてないか。大きくなったな、前会った時は四十センチくらいだったが」


 チャコールに声をかける。


 少し落ち着いた様子というか、冷静を装っているので今のうちに最低限のコミュニケーションをとっておこう。


 その方が使いやすいからね。


「まあそうですね、体感としては初めましてですクロウさん。このままライラちゃん助けに行くってことなんすよね」


 冷静を装いつつもチャコールはストレートにこれからの行動についてを口にする。


「ああ、まあ他にも捕まってる人がいたら助けるが……おまえはライラのことだけ考えていればそれでいい」


 僕はチャコールに、余計なことで煩わせないようにそう伝える。


 これで僕は【ワンスモア】を畳むことだけに専念出来るからね。


「クロウさん無理だ……、助けるだけじゃ収まらない……っ」


 じわりと身体中から黒い熱を滲ませながらチャコールは、熱量を言葉に纏わせて。


「ライラちゃんを攫ったナナシ・ムキメイは百回殺す……っ‼」


 真っ黒な殺意を吐き出した。


 うーん…………、まあいいか。


 今回の【ワンスモア】って輩は、ここ二十年の間に出てきたスキル再現やらを目論む組織の中でぶっちぎりの規模と再現率を誇る。


 今までも似たような組織はあったが、基本的に魔法や魔力回路からのアプローチでスキル再現を行おうとしていた。


 それがサポートシステムやエネミーシステムの答えである、人間の脳というところに目をつけて不完全ながら効果自体の再現はほとんど完璧だと言っていい。


 さらに宇宙空間に基地を建造……、どう考えても異世界からの知識……ビリーバーの知識が絡んでいる。


 リーダーのナナシ・ムキメイはビリーバーを自称しているらしいが、それは有り得ない。

 全帝大会の放送で見た限り、若者だった。

 ビリーバーはクロス先生やタヌー氏が最後の世代だ。生きていたら老人だ、明らかに若すぎる。


 だが、何かしらビリーバーから強い影響を受けている。

 僕らが把握していないクロス先生やタヌー氏のような最終世代のビリーバーがまだいたのか、それともかつてのビリーバーたちが遺した資料などをどこかで手に入れたのか……。


 まあなんにせよ一応拉致って記憶読取だけはしておきたいって思っていたけれど。


 どちらにしろ殺すことにはなる。

 下手に欲をかいて殺し損ねるようなマヌケを晒すくらいなら、確実に目的を達成させるべきだしね。


 そこから『魔動ロケット』の発射準備が終わり。


 各方面の対魔物モドキ氾濫対策の配置も決まって、動き始めた。


 僕、チャコール、ステリア女史、テナー君、ゾーラ君が拉致被害者救出隊となり。


「準備はいいかな? じゃあ、行こうか。善は急げだ」


 僕は『魔動ロケット』に乗り込んだ拉致被害者救出隊にそう言って。


 ギリギリまで号泣駄々こねして着いてこようとしていたリーシャ嬢と、この星の重力を振り切るように。


 上空四十万メートルを目指して、飛び出した。


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