目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

01そして無様に蘇る

 俺、ショッテ・マーケンはレイト流道場で武術を学び教えたりもしている【総合戦闘競技】の選手だ。


 元々は鍛冶屋の息子で、鍛冶屋を継ぐかどうかって流れだったが戦闘競技ブームという転機で俺は選手となり。


 まあまあ勝ち続けてセブン地域ならまあまあな有名選手となって、目指すは全帝制覇しレイト流の強さを帝国中にしらしめてやろうと思っていたが。


 鉄壁天使ライラ・バルーンの巨乳に負けて、このあいだのセブン地域予選でもチャコール・ポートマンに負けて、流石に技量の違いから競技を続けていくかどうかを迷いながらも鍛錬を続けていたところに。


 更なる転機が訪れた。


「ショッテ! 無駄に下がるな! ラインを下げると後衛の射程管理に影響が出る! 駆け引きは捨てろ‼ ひたすら対応、分析、攻略、連携ッ‼ 勝利ではなく処理を徹底しろ‼」


「……っ、はい‼」


 テンプ師匠は魔法を纏わせた三叉槍で魔物を釘付けにしながら俺に激を飛ばし、それに返す。


 現在、ライト帝国は【ワンスモア】とかいうとんでもテロ組織が生み出した魔物モドキの氾濫に襲われている。


 対魔物戦に明るい帝国軍人や元冒険者が集められ、二十年ぶりの大討伐が行われた。

 俺は【大変革】の頃は物心がついたかついてないくらいなので、俺自身は魔物を知らないんだが。


 俺の師匠であるテンプ・レイトは元冒険者で、セブン地域の西の果てで起こった【西の大討伐】の生き残りだ。


 故に帝国軍より討伐戦参加要請がかかり。


「やっとこさ来たな、俺の番だ」


 そう、テンプ師匠は目から静かに炎を揺らしながら二つ返事で参加した。


 かつての【西の大討伐】で、テンプ師匠は同じ討伐隊に居たトーンの町から来た凄腕冒険者たちの命を使い切るほどの尽力により生き延びた。


 話聞く限り本当に絶望的な状況だったらしい、そんな状況の中でトーンの町の冒険者たちは殿を務めて迫り来る魔物を請け負って師匠のパーティは撤退することが出来たという。


 テンプ師匠はその経験から、一人でも多くの人々が目の前の脅威に対して生存率を上げられるように道場を開いた。

 それも【西の大討伐】で一度滅んで復興を遂げた新シャーストで、師匠は武を教え続けた。


 そもそも元冒険者のテンプ師匠が作り上げた技術体系のためレイト流の技や身体操作などは対魔物戦をベースに対人戦へと落とし込んだものが多い。

 だから俺も自分で思っている以上に初の魔物討伐をこなせてしまっている。


 無理に着いてきた甲斐があった。

 本当は元冒険者のテンプ師匠だけで参加するつもりだったみたいだが、俺はレイト流免許皆伝。


 道場の看板を背負っている身、レイト流が必要な場面ということは俺が出るべき場面ということさ。


「――――ッ‼ ぐ…………おおおおおおらあああああああぁぁあああぁぁ――――ぁああっ‼」


 俺は魔物の攻撃を槍と部分硬化魔法で関節を固めて受けて、弾き返す。


 大きさは俺よりややでかいくらいの馬鹿でかい鹿みたいな角の生えた二足歩行の猫みたいなやつで、中々に圧力があるが。

 そのまま魔物の体勢を崩したところに、槍に風魔法を纏わせて身体強化も重ねて叩きつける。


 この部分硬化を用いた防御方法や武器に風魔法を纏わせる『山割り廉価版』は師匠が【西の大討伐】で出会ったトーンの町の冒険者たちが使っていた技を師匠が【大変革】以降に自身の行える範囲で再現した技だ。

 まあ威力としては、師匠の『山割り廉価版』でもオリジナルの三十分の一程度だという。それでもこれが俺の使える最大火力の技、対人戦ならこれで不足はないどころか過剰な近接火力だ。


 さらに槍はうちの親父が鍛えた力作だ、折れることはない。


 全帝予選では不発だった奥義である『土竜叩き』もそうだが、レイト流のいくつかの技はテンプ師匠が持つトーンの町の冒険者へのリスペクトで出来上がっている。


 それほどまでにテンプ師匠は、当時旧公国で最も苛烈で屈強で頑強な魔物が発生する山脈を狩場としていたトーンの町の冒険者たちに強く影響を受けている。


 脳を焼かれている、その火を絶やさないのがレイト流だ。


「あまり気負いすぎて前のめりになんなよショッテ! 大討伐では連携と徹底、そして継戦能力! 疲労や緊張はなるべく溜めないようにしろ、そんでもって必ず限界の寸前で一度引け! 下がらないことと前に出ることは同じじゃねーぞ!」


 テンプ師匠は魔物を蹴散らしながら、いつもより砕けた口調で俺に檄を飛ばす。


 …………うーん……なんかこう、本当に申し訳ないというか不謹慎な感想にはなるが……。


 楽しそうだな、師匠。


 いや別に師匠は懐古主義者ではない、スキルやらステータスやらに特に未練もないし魔物についての嫌悪は多分魔物を知る世代の中でもトッブクラスに持っている。【西の大討伐】を地獄の再現というほどに魔物との戦いに疲れきっている。


 でも、やっぱどうしようもなくこれが師匠の青春だったんだ。


 人生の中で一番命を燃やした瞬間、それがこれなんだ。


「――っ! ショッテ! ちょっとデカめの来んぞ‼ 『土竜叩き』の準備に入れ‼」


 俺の思考をぶった斬るように、テンプ師匠はそう言って多重空間魔法を展開する。


 師匠の言う通り、四メーター近くはあるかなり大きな二体の魔物が迫って来ていた。巨大な熊と蛇のような姿だ。


「了解ッ‼」


 状況を確認し、俺も返事をしながら魔物の前に多重空間魔法を展開。


 同時に空間魔法の出入口を伝うように移動し、蛇のような魔物を撹乱する。


 このレイト流奥義『土竜叩き』は対人戦でもかなりの効果を生み出すが、元々は対魔物戦で最大の効果を発揮するものだったらしい。


 空間魔法の出入口全てから、使用者の魔力や気配が出る。魔物はその全てに反応し、どうにも突然同じ人物が増えたように錯覚し対応ができなくなるとのこと。この状態を魔物の挙動バグと呼ぶらしい。


 師匠が【西の大討伐】で出会ったトーンの町の前衛回避盾役が用いていた技だ。


 これで大型魔物を前衛回避盾一人で止めて、前衛火力を安全に通し、後衛火力で消し飛ばしていたという。


 今回もその通りに、使わせてもらう。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?