俺と師匠の『土竜叩き』によって魔物は動きを止め、その隙に後衛魔法使いたちが攻撃魔法を撃ちまくって仕留めた。
よし、通用する。
やはりレイト流は実戦でこそ輝く武術――――。
「気ぃ抜くな馬鹿野郎ッ‼ まだまだ来るぞ! この程度の中型未満のやつらなら前線を下げる必要はない‼ 『土竜叩き』で釘付けにしていくぞ‼」
師匠はそのまま別の地点に多重空間魔法を設置しながら、一体止めて気が緩みかけてた俺に声を荒らげる。
中型未満……? このサイズが?
今の魔物ですら前脚で弾かれただけで致命傷となるようなプレッシャーだった。
このサイズで中型に満たないなら大型に分類されるものはどんな大きさなんだ? それは人が相手できるようなものなのか……?
納得した。
たまに【大変革】以前に戦っていた大人と……なんというか危機感とか脅威とか安全基準に関するスケールが噛み合わないことが度々あった。
師匠はもちろん、鍛冶屋の父親とも噛み合わないことが多かった。
極端に言えば『死ぬか死なないか』とか『動ける怪我か動けない怪我か』とか『ここで死ねるか明日死ぬか』とか。
そんな今に生きる俺たちにはピンと来ない価値観がうっすらとある。
それもそのはずか……、こんなものをが日常的に彷徨いている環境での常識が今と同じわけがない。
大人たちの中に【総合戦闘競技】を模擬戦モドキと揶揄するやつがいることにも納得だ。
こんなもの相手にしていたら、俺たちがやっていることは競技スポーツでしかない。いやまあ事実としてスポーツなんだけども。
命には触らない、どれだけ命懸けと言っても比喩の域を出ない。
さあ、集中しろ。
一応『纒着結界装置』は起動しているが、あんなん相手なら一発で剥がされ二発でお陀仏だ。この状況は命に触っている。
あんなわけのわからん怪物に後れはとらん。
俺はレイト流免許皆伝……看板背負ってんだ、絶対に負けられん。
俺は次々に『土竜叩き』や部分硬化防御法を用いて、魔物を釘付けにして回る。
よし、問題ない。通用する。
流石レイト流奥義、隙はな――――。
「――うおっ、なんだおまえアカカゲみたいなことしてんな。何処で知ったんだ? 懐かしすぎてびっくりしたぞ」
突然、空間魔法の出入口を移動しているところに首根っこを掴まれ『土竜叩き』を止められながら謎の男に話しかけられる。
「っっっ⁉ 雑談してる場合か⁉ これはレイト流の奥義だ‼ 邪魔するんじゃあ――――」
と、俺が謎の男に返そうとしたところで。
俺が移ろうとしていた出入口に、地面から棘のようなものが突き出て貫いた。
地中からっ⁉ な……っ、このまま移動していたら死んでいたのか……? 俺は……。というかこんな地面の中にいるやつの不意打ちをどうやって……地面の中にまで魔力感知を張り巡らしていたのか?
「ああ、まあ何でもいいか。でもそれが土竜叩きなんだったら、もっと居着きを無くして流れ続けるように移動してかないと効果薄いぞ。そもそもそれはアカカゲの異常な機動力と身体操作や勘の良さを含めて完成する技だからな」
驚愕する俺に謎の男は気だるそうに、そんなアドバイスをする。
なんだ? 『土竜叩き』を知っている? 師匠の知り合いか……?
「ブライ! やる気ないのは構わないけど他の人を邪魔すんな馬鹿! ごめんなさいね、前衛ありがと」
「助けたんだよ馬鹿! つーかこんな魔物モドキにこの俺がやる気なんか出てたまるか! あ、前衛ありがとな」
男と共に現れた謎の魔法使い風の女が謎の男を叱りつけ、男も返す。
こんな前線に……二人とも軍人には見え……って。
「危ねえ後ろ――――」
俺は二人の後ろから迫り来る魔物の影を捉えて、同時に叫ぶが。
男は武具召喚で喚び出した双剣で迫り来る魔物が振り下ろす鋭い爪を、流れるように前脚ごと斬り飛ばし。
同時に、魔法使いの女が巨大な『魔動兵装』というか、巨大な右腕を召喚して高出力の光線魔法を放って魔物を消し飛ばした。
流れるように、さも当然かのような瞬殺だった。
「……あーやっぱ魔物戦っておもしろくねーな。あっけねえ上に駆け引きもねえ、作業的な感じが……これやるんならジャンポール畳んでた方がマシだ」
「あんたそうやって舐めてるとまた腕食いちぎられるわよ。まあ私は私で楽しいけどね、人には撃てない兵装試せるし」
とてつもない瞬殺劇からすぐに、二人は緊張感のない会話を始める。
「な……何者なんだ? あんたらは」
俺はド直球に目の前で起こったことについて、質問を投げかける。
「ああ、おまえが使った技を作った奴の仲間だったやつだ。オリジナルの土竜叩きはもっと殺意が高かったし捕まえきれなかった」
謎の双剣男はにやりと笑を浮かべながら、端的に答えた。
これ以上ない納得の回答。
レイト流『土竜叩き』のオリジナルを知る者……つまりこの人たちはトーンの町の冒険者だった者たち。
二十年前のセブン地域……旧セブン公国で最強の冒険者たちだ。
あのチャコール・ポートマンやライラ・バルーンの親と同じ……そりゃあ強いわけだ。納得以外が出来ない。
「おいセツナ、バリィと合流しようぜ。あいつの指示で使われてた方が楽そうだ。こんなくだらねえことで怪我もしたくねーし疲れたくもねえ」
「まあ確かにここは前衛後衛共に手練が多そうだし、手練の人たちと魔動兵装部隊に任せちゃっていいかもね。じゃあ跳ぶよ」
トーンの町の冒険者たちは、そんな会話をして。
俺に礼も言わせる隙も与えずに『小型転移結晶』でどこかへと跳んでいった。
「ショッテ、あれがトーンの町の冒険者だ。俺が目標とした連中だ……いつか辿り着け、慢心するなよ」
様子を見ていた師匠がそう言って、俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。
俺は師匠からのそんな言葉に。
「…………ちょっと、自信ないっすね……」
と、素直な言葉を返した。
ああやっぱり、トーンの町の冒険者ってやべえんだなって。
改めて痛感させられたのだった。