目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

03そして無様に蘇る

 私、リーシャ・ハッピーデイはチームセブンスバーナーに所属するプロ戦闘競技者であり黒仮面師匠の弟子だ。


 ハッピーデイ家が管理する森の中で、打倒ライラ・バルーンのために修行していたところ。

 敷地内に不法滞在者の住処……というか、不届き者たちのアジトを発見。

 そこですったもんだの末捕まり、大ピンチなところを黒仮面師匠に救われた。


 黒仮面師匠は最強である。


 これはこれから私の言葉や思いや考えにおける大前提。私が黒仮面師匠を尊敬してるとか崇拝してるとか心酔してるとか全部度外視して差し引いても、過不足なく純然たる事実だ。


 格闘戦、武器術、戦闘思考、魔法理解度、魔力量、魔力の親和率、精神力。


 どこを切り取っても常軌を逸しているとしか思えない。

 私はこれでもセブン地域で一番の【総合戦闘競技】チームに属している程度には鍛えてきたし戦ってきた。


 セブン地域なら鉄壁天使ライラ・バルーンや人形遣いソフィアやチャコール・ポートマン。

 他の地域なら地獄兎ラビット・ヒットや八極令嬢キャロラインやシロウ・クロス。


 それらの猛者たちとも戦ったこともある。

 ライラとソフィアと八極令嬢以外には勝てたことがない。それもかなり前の話、ここ数年は一度も勝ててない。


 私は競技選手として中の上、良くても上の下くらい。これも過大も過小もしてない、客観的にも主観的にもぴったりこの評価。


 そんな私でもある程度相手の技量はわかる。


 黒仮面師匠の技量は、全帝出場選手全員が束になっても敵わないくらいに高い。


 合気ベースの身体操作やら多彩な武器格闘に徒手空拳の練度も高いのに、その何倍も卓越した魔法理解度。


 それに極めつけは、疑似加速という反則級の最強魔法。


 多分【総合戦闘競技】を始めたら、一年で競技として成立しなくなり【総合戦闘競技】自体が終わるまであるくらいに、規格外で想定外。


 そんな黒仮面師匠に、私は基礎の基礎から教わった。


 効率的な筋力の使い方。

 骨格構造や重心移動を用いた筋力に頼らない出力方法。

 合気の概念……場を含めた力の流れ。

 その感覚のまま直感的に流れるような魔力操作。

 魔法という現象の自由度、可能性の幅。

 それに伴い魔力との親和率の向上。

 徹底した遂行による目標達成思想。

 使えるものは何でも使うという、価値観。


 ナンセンスを押し通して正解を捻じ曲げる狂気。


 最後のは難しすぎるというか、私の生きている環境ではなかなか培うのが難しいようで教えて貰っても身についてはないけど。


 黒仮面師匠は教えるのが上手いというか、講習慣れしているというか……とにかく凄まじくわかりやすかった。

 さらには疑似加速や集団疑似加速を用いた成長加速カリキュラムという、通常の何倍も膨れ上がった時間の中での修行は文字通り加速度的に。


 私を最強の系譜に乗せた。

 簡単に言うと、私は強くなり過ぎたのだった。


 だから……黒仮面師匠が【ワンスモア】を潰して回っていると仰っていたのでお手伝いしようと申し出た。


 黒仮面師匠とお揃いで仮面とコートまで作って……色は私の髪色に合わせて橙色の特注品だったのに……。


 余裕で足手まといだと置いていかれた。


 まあ……、流石に命のやり取りを素人の私にやらせるのは無茶なのはわかる。

 私は単なる競技選手、世の中の軍人はみんな格闘家やアスリートではない。全然求められる強さや練度が違うのもわかる……けど。


 私めっちゃくちゃ強いのよ、いやマジに。


 多分単純なカタログスペックならジャンポール・アランドル=バスグラムより上で黒仮面師匠の教えを七割は出来るようになってるんだけど。


 要は殺人とかしないで捕まえればいいだけでしょ……? そのくらいの技量差はあると思うんだけど、置いてく? 超戦力だと思うけど……。


 なんか丸め込まれて納得した感じで置いてかれたけど……だんだんと腹が立ってきた。


 だからこれは憂さ晴らし。

 今から私は、暴れ散らかす。


 浮遊魔法で高所から目視と魔力感知で魔物モドキの数を確認。

 索敵範囲に小型六十八、中型二十九、大型二。

 疑似加速発動。

 多重空間魔法展開。

 同時に疑似加速付与を使用。


 棒ヤスリ、高速射出。

 この棒ヤスリという槍は黒仮面師匠専用の武器で、徹頭徹尾鋼鉄製でやたらに重く。長さは私の背丈よりやや短いくらい。うっすらと円錐状になっており、表面は粗いヤスリのようにざらざらとしている。

 握りづらいし重いし重心バランスも悪くて、使いづらすぎる武器だ。


 二十年ほど前に造りすぎたとのことで、八千本近く存在するので二千本ほど押し付けられ……いや譲り受けた。


 最大の特徴は円錐状で摩擦係数が高くて頑丈、つまり刺さったら非常に抜きづらい。


 小型はこれで仕留めて、中型以上は地面に打ち付けて釘付けにする。


 適当な戦術級魔法の連打で消し飛ばしても良かったが、魔力消費が凄まじい。

 ここには優秀な帝国軍人や冒険者たちがいる、釘付けにしておけば皆さんが討伐してくれる。


 こっちの方魔力消費が抑えられる、使えるものはなんでも使えって教えは守れる。


 釘付けにしたところで、私は大型の魔物モドキに接近して黒仮面式魔法拳を放つ。


 この黒仮面式魔法拳は私が黒仮面師匠から習ったこと全てを応用して魔法拳へと落とし込んだ魔法拳の改良型だ。

 単純に身体操作や格闘技術や込められる魔力量や魔法変換速度や精密魔力操作が向上し、文字通りの必殺技と化したのと。


 なにより、この黒仮面式魔法拳は疑似加速に対応している。


 疑似加速中は通常の魔法だと遅すぎて前に飛ばない。

 雷撃魔法や光線魔法、それとこの加速した世界に合わせて疑似加速付与で加速させた投擲物しかまともに使えない。


 でも魔法拳は私の体内、拳の中で魔法を発動させるために加速状態で使用が可能。


 まあ殴ってから実際に発揮するにはラグがあるんだけど、殴れた時点でもうこの技は完了している。


 私は大型魔物モドキ二体に黒仮面式魔法拳を通して、疑似加速を解除。


 同時に大型魔物モドキが爆発して消し飛ぶ。

 爆熱パンチャー、それが私の異名だからね。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?