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04そして無様に蘇る

「っ⁉ 棒ヤスリ……⁉ おいなんだ、あのお嬢さんクロウの隠し子かなんかなのか……?」


「ないでしょ。だってあの子がライラと同い年ならあの頃クロウは絶賛超ブラックギルドのワンオペ職員として働いてたんだから、流石にこさえてる暇ないわよ」


「普通に現在進行形の愛人とか? クロウさんモテるでしょ」


 疑似加速を解いた私を見て三人の大人が好き勝手言い始める。


 あの三人はさっき『魔動ロケット』の前に居た黒仮面師匠のお知り合い……。

 クロウってのは黒仮面師匠の名前だ。さっきそう呼ばれていた。本名かどうかは知らないけど。


 とりあえず、なんか変な誤解をされているので目視転移で目の前に跳ぶ。


「ち、違いますわよ! 私はただの弟子ですわ! 結局エッチなことはなんにもしてません!」


 私はちゃんと黒仮面師匠の名誉のために否定する。


 何かあっても良いように勝負下着で稽古に行っていたけどあまりにも何もないのでだっさい灰色ボクサーパンツに切り替えるくらいに、黒仮面師匠は私に手を出してこなかった。


 肩透かし……いや別にいいけど私は未だにバージンのままである。


「ただの弟子ねえ……俺らですら基礎講習に留めて、ジャンポールにすらちょっと教えただけと言い、自分の息子にすら稽古付けてやらなかったあいつが弟子をとったってか?」


 訝しみながら男は私に疑念を向ける……っていうかこの人ライラの父親じゃない?


 何回か大会の会場でみたことある……っていうかこっちの女の人はライラの母親だ! に、似ている……おっぱいがおっきい……。


 ライラの母のおっぱいに驚愕しつつ、冷静に。


「それはあなた方に才能があったからでしょう。私には才能がなかった、習わなければどうにもならなかったから私には色々と教える必要があったのですわよ」


 疑念について答える。


 これは謙遜とかじゃなくて事実だ。

 私に才能はない、競技に関しても私は幼少の頃より誰よりも努力をしてきた。

 私よりも後に競技を始めた子たちにも、あっという間に抜かされていった。


 追い抜かれて追いかけて追いついて追い抜いて置いていってセブンスバーナーでナンバーツーの選手となった。


 それでもまた、ライラやソフィアやチャコール・ポートマンのような天才たちに抜かされて。


 黒仮面師匠という師の下で、一から学び鍛えて。


 あっという間に追いついて追い抜いて、置いていっただけだ。


「まあ確かに……いやお嬢さんに才能がないとかじゃあなくて、クロウは事実として凡才だった。あいつの師匠が超絶優秀で尊敬……まあ心酔していた。だからあいつ自身も師匠を見習って教えるってことをかなり頑張っている節があるからな。もしかするとお嬢さんに自分と重なる部分があったのかもしれねえ」


 ライラの父は少し考えてそんなことを述べる。


 というか、かなり黒仮面師匠と親しいみたいだ。

 友人……というかこの人も黒仮面師匠の系譜……ということはライラも……?


「いやリーシャちゃんが可愛いってのもあるでしょ。ちょっと若い頃のセツナに似てるし」


 ライラの母はあっけらかんとライラの父に言う。


「えー? 仮面着けてるから顔はわからないけど……あーでもシルエットいうか、雰囲気はわかるかも」


 間違いなくチャコール・ポートマンの父親であろう大斧大男がそう続く。


「なっ! わ、わたしはリーシャ・ハッピーデイではありませんわ! 橙仮面……そう! 私は橙仮面ガール!」


 私は慌てて否定して、ヒロイックなポーズをとる。


 ふー、危ない危ない。

 私がリーシャ・ハッピーデイだとバレるところだった。こんなところにセブン地域人気ナンバーワン選手がいたら大騒ぎになってしまう……。


「ふーん…………いや、いいか。橙仮面ガールは好きに動け、ほぼクロウなんだったら俺が戦略に組み込むより効果ありそうだ」


 ライラの父は煙草に火を点けながら、そう言う。


 あー……まあ確かに。私は連携の座学は受けているけど合わせられはしないし、疑似加速を使う私との連携はかなりやりづらいと思う。


「でもなんか困ったらすぐに俺たちんとこに跳べ、それはクロウには出来ない強さだ。俺たちは一応、君の兄弟子というか先輩ではあるからな。いくらでもどうにかしてやる」


 咥え煙草でにこりと笑いながらライラの父はそう続ける。


「ありがとうございます。困った時にはよろしくお願いいたします」


 私は素直に感謝を返す。


 まあ困るつもりもないけど、何かあった時に頼れる人がいるのは素直に有難い。


「それはそれとして、だ」


 やや低めの怖色でライラ父はさらに続ける。


「ライラよりだいぶ力つけちゃったみてーだが、ライラは必ずおまえを超えるからな。精々油断こいて泣きべそかいてくれ」


 煙草の煙を吐きながら歪んだ笑みで私にそう言った。


 ……そっか、そりゃそうか。

 今の私はもう、ライラより強い。 


「……なんか、こういう追われる立場というのは慣れてませんが…………悪くないですわね。楽しみにしておきますわよ」


 私もたっぷりと笑顔でそう言って。


 疑似加速を発動。


 この辺りはこの人たちが居れば問題なさそう。

 魔力も覚えた、いつでも戻ってこれる。


 さて棒ヤスリはまだまだある。

 せっかく強くなったんだ、このまま暴れ散らかす。


 だって考えちゃうから。

 無駄だとわかっているし、心配無用なのに。


 暴れてないと、ライラが心配とかそんな無駄なことを考えちゃうから。


 黒仮面師匠が動いた時点で救出は成功していると言っても過言じゃあない。

 でもライラは……まあカテゴライズとしては友人の枠にギリギリいるくらいのライバルだから。


 私は考えないように、拳に魔法を宿して加速した世界で暴れ散らかすのだった。



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