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05そして無様に蘇る

 俺、トラジ・トライは元冒険者で傭兵派遣会社の専務をしながら【総合戦闘競技】に勤しむジジイだ。


 なんか【ワンスモア】とかいう、懐古主義のテロリスト集団が魔物モドキを帝国中に放って氾濫を起こしたとかで。

 帝国軍から魔物討伐経験のある民間人への協力要請があった。


 そうなりゃあ、もちろん俺たち傭兵派遣アドベントも参加するしかない。


 とは言っても、俺や社長のドランやら古参のタートやらノトリやらの魔物討伐をやってたことのある元冒険者組での参加だが。


 しかし数奇なもんだ。

 二十年前に旧公都のギルド前で大盾の姉さんと一緒にやり合った帝国軍と魔物討伐するなんて。


 別に旧公国生まれだからといって、帝国に思うところがあるとかは全然ない。騎士団だとか軍はともかく民間人に関しては冒険者相手にも帝国軍は制圧以上のことはして来なかったし。

 何より【大変革】で起こった混乱を迅速に収めたのは、スキル至上主義の旧公国体制では無理だったろう。


 女房子供食わせられたのも、帝国がしっかりしてくれてたからだ。正直起業に関して色んな制度を使わせてもらったし基本的には感謝しかないが……、それでもやはり根っこのところでは未だに敵として感じてしまってるんだよな。


 まあ軍への民間協力ではなく、かつての敵との共闘の方がテンションは上がる。


「トラジ! 久しぶりに行くぞ! ジェットストリームアタックだ‼」


 パーティリーダーで後衛魔法使いで傭兵派遣アドベント社長のドランが叫ぶ。


「却下だ! おまえは後ろから援護しろ馬鹿! 魔法使いが前に出ようとすんな‼ 光線撃ってろ!」


 前衛火力で専務の俺は即座にドランの提案を却下する。


 ジェットストリームアタック……確かに昔っから好きだったなこいつ、孤児院にあった本に出てきた必殺技だ。


「トラジも前出過ぎだ馬鹿‼ 俺が弾いてからでしょうが! ジジイがはしゃぐなハゲ‼」


 前衛盾役で人事部長のタートが俺に怒鳴り散らす。


 確かに前出過ぎたか……、俺もはしゃぎすぎてるか。


「タートも前出んのが遅れてんだよ! 太り過ぎだデブ‼ だから娘に無視されんだよ‼」


 後衛弓使いで事業部長のノトリがさらに怒鳴り散らす。


 ちなみにノトリはシングルファーザーで俺らの中だと一番モテたが子供が独り立ちするまで女を作らないようにしていたら、気づいたらおっさんになり過ぎてモテ期が終わっていた。


「だあー! うるせぇぞおまえら‼ だったら魔法撃たせろ! 目標は百! 百体は討伐すんぞ‼」


「ノルマ低いだろ‼ 現場舐めんな!」


「設定値がチキン過ぎるんだ馬鹿!」


「文句は達成してから言うんだよ人事部! 事業部飛ばして数字に文句出すんじゃねえ‼」


 がちゃがちゃと言い合っていたところに。


 中型魔物三体が襲いかかる。


 タートが盾とランスで二体を崩して止める。

 ノトリが残り一体を矢で動きを止めて。

 俺が魔法剣でノトリが止めた魔物を斬り刻み。

 ドランがタートの止めた二体を直角操作光線魔法で纏めて撃ち抜く。


 想像以上に全員動ける。

 もれなく全員五十代というのに、なんなら全盛期よりも動けている。


 最近俺が【総合戦闘競技】で全帝予選に出たりそこそこ勝ったりしたことで、社内のおっさんたちが奮い立って鍛え直し出した。


 競技者としてはまだまだ未熟だが、美化した昔の自分を追いかけたおっさんたちは往々にして鍛え込み過ぎる。


 こいつらも俺も、間違いなく今が一番強い。


「二時方向、中型四体! 引きつけるぞ!」


 ノトリが索敵をしながら、矢を放って魔物のヘイトをこちらに誘導する。


 さーて、働くか。


 こんな調子で討伐を進めていく。

 あっという間にドランの想定した百体を突破。

 途中で新技の天空落としやら、結局ジェットストリームアタックを行いつつ。


 ガンガンいこうぜの精神で、どんどん精神年齢だけが現役時代に戻っていく。若返っていく。


 ああ、不謹慎だが……


 なんなら昔はマジで生活かかってたし、明日も明後日もこれしかねえし、魔物に親食い殺されて施設で育ったし、西の大討伐でドランの兄貴のドラムも死んだし、タートは右耳と右手小指と薬指を食われたまんまだし、ノトリの女房も魔物に殺された。


 嫌なことも多かった、いつも何処かが欠けていた。


 でも、今日だけでいいのなら。

 今日だけ、子供が健やかに育って会社も何だかんだ軌道に乗ってて部下も食わせて行けるくらい余裕がある今の俺たちが。


 あの頃にように、暴れ散らかす。


 申し訳ねえけど、楽しい。今だからこそ明日のことを考えないで、全力で今この瞬間だけを駆け抜けている感が気持ち良い。


 動けば動くほど疲労を上回る高揚感で、疲労を感じない。ランナーズハイならぬ討伐ハイ……いや討バーツハイか、いやなんだ全然面白いこと思いつかねえ。


 まあとにかく俺たちは暴れ散らかした。


 そして、討伐数が二百を超えて三百が近づいてきたところで。


「……っ、減らねえな。流石に一回撤退すんか、そろそろ魔力が怪しい」


 ドランが『予備魔力結晶』を使いながらそう漏らす。


「了解、トラジ! 移動力確保の為にランスは外す! 迎撃は任せるぞ!」


 それを聞いて、タートがランスを武具返還させながら俺へと撤退陣形の指示を出す。


 妥当なタイミングだな。

 いくら楽しくても、俺たちゃ元冒険者の傭兵会社の社員。どれだけはしゃいでも撤退に関しちゃクレバーに判断する。


 ドランは馬鹿だが、冒険者から傭兵になって孫までいるほどジジイになることができた生き残りだ。無茶も馬鹿もやるが、その全てにおいてギリギリで引いてきたから生きている。


「任せろ……つーかやっぱおまえ痩せろ! 足が遅すぎる‼」


 俺はそう返しながら、殿で迎撃態勢をとるが。


「――ッ! 七時方向小型多数高速接近! 数六十以上‼」


 ノトリが索敵結果を叫ぶ。


 タートが盾を構えて、俺は迎撃のために飛び出す。


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