身体強化、魔法剣展開、魔力感知。
魔物の群れを目視確認。
確かに速い、でけえネズミの群れのような魔物。
だがチャコール・ポートマンの光線魔法の方が速かった。
俺はあの怪物の魔法を全て叩き落とした男、この程度の魔物は一匹だって通さねえ。
魔物群と接触し、一気に俺を飲み込もうとするが。
片っ端から斬り伏せる。
視界に映る全てを、一瞬で脅威順に並べ続けながら斬り続ける。
動き続ける、居着きはしない。刃筋を通し続ける。
さらに脅威度の低い位置のやつが、光線魔法と矢で貫かれて減っていく。ドランとノトリの援護は完璧だ、後衛にヘイトが向いてもタートが守り切る。
そもそも俺が通さない、今日の俺は俺史上最強の俺だから。
流れるように、常に動く。
全ての動きが回避であり、攻撃となる。
二十年前にブライ・スワロウ氏から習った基礎であり、あれから二十年経ってもこれ以上のものが見つからない答えだ。
あの【総合戦闘競技】ブームに火をつけた、帝国最強の軍人ジャンポール・アランドル=バスグラムとの伝説の模擬戦も百回見た。
映像では勝敗を濁していたし、引き分けとされていたが。相変わらずブライさんは後半マジで殺す気で、多分あれ誰かが止めに入らなきゃジャンポール・アランドル=バスグラムは殺されていたと思う。
つまり、俺たちは真の帝国最強に答えを教わった。
もっと鍛え続けていたら俺たちもセブン地域最強くらいには……いやあの大盾の姉さんとかチャコール・ポートマンみたいにはなれねぇか。
それでもこの程度の脅威で、死んでやれるほど弱くもねえ。
俺は思考と反射を乖離させて、ぼんやり俯瞰で自分を見ながらただひたすらと斬って動く機械になる。
死ねる気がしねえ。
斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って。
そして。
「ふ――――――――……っ」
ネズミ共を全滅させて大きく息を吐く。
流石に疲れたが、いい疲労感だ。このまま撤退を――――。
と、完全に俺の緊張感が解けて撤退に意識が向いた瞬間。
「危ねえ‼」
「あ、やっべ――――」
ノトリの声に反応して剣を構えるが、俺はマヌケな声を出して。
ネズミの死体の山から出てきた獣型魔物の爪に腹を裂かれながら弾き飛ばされる。
完全に油断した。
流れを止めてしまった、居着きを生んでしまった。
「――――トラジぃッ‼」
ドランが俺の名前を叫びながら光線魔法を連射して、俺を飛ばした魔物を撃ち抜く。
弾き飛ばされた先でタートが俺を受け止める。
「……っ、とら……トラジ!」
タートが慌てて俺の名前を呼ぶ。
ああそうか……、
「タート担いで走れ! まだまだ来るぞ‼ 次はもう無理だ‼」
ノトリがタートに向けて叫ぶ。
次来てんのか……、マジでやべえな。想像以上に魔物モドキのが減ってねえ。
「……っ、てめーらはトラジ連れて引け! 俺が泥沼重力コンボで時間稼ぐ‼」
状況を見てドランがそう宣う。
「てめ……っ、俺が――」
「社員如きが社長に稟議書も無しで意見すんじゃあねえッ‼ 行けえ‼」
盾役としてタートが口を挟もうとしたところで、ドランが社長として遮る。
「ごぶぉ……ォエ……っ、お、置いて……け……核熱……自爆……す……る」
俺はギリギリ解決策を提示するが。
「馬鹿言ってんな馬鹿! そんな魔法前衛のてめーが使えるわきゃあねえだろ馬鹿‼」
「ぐ……引くぞ……っ、社長命令だ……!」
タートは即却下して俺を背負い直し、ノトリは下唇を噛み締めながら言う。
馬鹿はてめーらだろ……っ、もう死ぬだろ俺は。
確かに核熱自爆とかできねぇけど、俺を食い殺してる間にてめーらは逃げられんだろ。
初孫も見れたし、職業柄良い保険にも入ってる。プロなら優先順位わかってんだろ……ここで判断鈍らせるほど若くねえだろ。
捨てていけ、俺で死ぬな。俺で生き残れよ……。
ああダメだそろそろ意識が……、痛みがねえからいつ死ぬのかわかんねえ。
くっそ面白……瞬きが怖え……、目を閉じたら次に開くとは限らねえ。ドランが囮になるんならせめて生き残ってやりてえ……。
どうせ死ぬんなら、生きてるうちに俺を囮に使って――――。
「――――はい、
目を開けた瞬間、目の前にいた
理解が追いつかない……が、完全に治ってる。
致命傷だったはずだが……とんでもない回復役だ。
超絶美人バトルヒーラーだ。
美人過ぎて現実味がねえ……、なんだこの人? 女神とかかと思ったぞ。
「その通り、生き残らせる為に俺たちがいる」
混乱する俺の横から、そう言いながら剣を抜いてマントをなびかせながら魔物に向かっていくのは。
帝国最強の軍人、ジャンポール・アランドル=バスグラムだった。
ジャンポール氏は残像を置き去りにする速度で、一瞬で視界に映る魔物を蹂躙していく。
な……っ、なんだこれこんな速さ……いや、覚えがある。
二十年前に冒険者ギルド前で大盾使いの姉さんと帝国軍とやりあった時に現れた。
黒い垂れ目の男。
あれってこういう次元の奴だったのか、良かった手出さなくて……俺の人生あそこで終わってたぞ。
呆気に取られながら周りを見ると、ドランもタートもノトリも無事だった。
……じゃあ、それなら、こう言うしかねえわな。
「はは……、なあにまだまだこれからさ!」
俺が目から炎を揺らしながらそう言って立ち上がると、仲間たちの目からも一斉に炎が揺れる。
「ふーん、こっちは問題なさそうね。ジャン! 私はバリィたちと合流する! 死なせたくないの」
超絶美人バトルヒーラーは熱の入った俺たちの様子と圧倒的に魔物らを蹂躙する帝国最強を見て、ジャンポール氏にそう述べる。
「行ってこいキャミィ、俺は死なんから心配いらん」
凄まじい速さで現れたジャンポール氏は、余裕そうにそう返し。
超絶美人バトルヒーラーは『小型転移結晶』で跳んでいった。
さて、終わらねえぞ。
俺たちの青春は、まだまだ続く。