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07そして無様に蘇る

 俺、ニックス・ガーラはいわゆる魔族だ。


 魔族……まあ魔法族は基本的に単一民族国家である魔法国家ダウンで暮らしているが俺はライト帝国で暮らしている。かなり珍しい部類の魔族だ。


 普段は【総合戦闘競技】のファイトマネーだったり、魔動結社デイドリームで魔族向け商品開発のテスター協力とかして生活をしている。


 奇異の目を向けられることも多いが、全帝大会で準優勝やら謎のルーキーに一回戦負けとかしてたら流石に顔を覚えられた。


 ちょっとした有名人にはなったが、別に悪い気はしていない。角なしも強いやつは強い、そうなってくると別にダウンで暮らすだけが人生でもない気がしてくる。


 そんな日々の中、全帝準々決勝が終わりベスト4が決まった。

 ベスト4のインタビューにて、ナナシ・ムキメイが【ワンスモア】のリーダーとか言い出した後から人造魔物が帝国中に溢れ出した。


 ナナシ……いや一回話したことがある程度だが確かに変わり者というか単純にちょっとおかしな奴ではあった。


 なんか思想的な話だったりを振ってきたり……、煙のように姿を消していたのもなんかしらの再現スキルか。今更ながら色々と合点が行った。


 なんて考えつつ俺は家でカニ玉炒飯を食いながら『映像通信結晶』で色々と流れるテロ行為の速報を見て。


「……帰るか」


 俺は心からそう呟いた。


 なんか大変なことになってるが基本的にこれは外国の話だ。俺は帝国に住んではいるが、全然外国人だし関係ない。


 さっさと荷造りして超長距離転移でダウンに帰ろう。


 申し訳ないが外国でテロに巻き込まれてやる義理はない。むしろ俺が居ると外交問題になりかねん……、指示がない限りは動けんしな。通常通り、一般的な行動を――――。


 なんて考えながら荷造りを始めていると。


「ニックス少尉、指令だ。行くぞ」


 転移魔法で現れた魔法国家ダウン王族親衛隊隊長グリオン・ガーラは俺に向けてそう言った。


 突然だが俺、ニックス・ガーラは魔法国家ダウンの軍務局秘密作戦部は秘密部隊の兵士だ。


 まあ秘密部隊所属だからな、そりゃ秘密にしていた。

 ダウン国内ですら秘匿されている秘密部隊、主な仕事は国内外の諜報、撹乱、防衛、暗殺。


 表沙汰に出来ないようなことをやってる部隊だ。部隊員の俺ですら全容を把握出来てない。他の隊員は後輩のガンダラくらいしか知らないし、実質的な司令官は王族親衛隊長……つまり叔父さんってことと上王タヌー・マッケンジィ様であることしか知らない。


 俺の任務はライト帝国での諜報活動。


 交換留学制度で紛れ込み、市民権を得て長期滞在しながらデイドリームの技術力や角なしたちの魔力の親和率を調査することだ。

 まあつまり誰にも悟られず、ただの変わり者の魔族留学生として生活することである。

 考えてもみてくれ、不死鳥のグリオン・ガーラの甥がただの学生って方がおかしいだろう。ただの学生が全帝準優勝ってのもおかしな話だ。


 そして、ここに来て指令が下った。


 帝国軍と合流し、人造魔物による氾濫の鎮圧。

 つまり魔物討伐だ。


「ニックス、魔物は駆け引きを行わない。プログラムに記されたパターンの中から選択された行動しか行わない」


 跳んだ先で俺とガンダラに叔父さんは淡々と魔物相手の方法を語る。


 既に帝国軍やら民間協力者たちが人造魔物らと交戦中……あれが魔物か。記録では知っていたが……確かに異形で脅威だ。


「パターンを分析し把握して攻略に基づいて殺す……または」


 淡々と説明しながら、そのまま叔父さんはおもむろに手を伸ばし。


「出力でねじ伏せる、魔法族はこれでいい」


 そう言いながら、超多重ホーミング灼熱線魔法を射出し一気に魔物らを消し炭にしていった。


 流石の出力と魔力操作……、王族親衛隊の隊長は伊達じゃあない。


 魔法国家ダウンにおけるグリオン・ガーラは帝国で言うところのジャンポール・アランドル=バスグラムくらいには有名人だ。


 魔法族の中でも、叔父さんはかなりの技量を持つ。

 上王タヌー・マッケンジィ様の右腕とも言われ、今まで【ワンスモア】のような犯罪組織をいくつも壊滅させてきている。


 今も【ワンスモア】への捜査や根絶を行っていると聞いたが……今回の帝国防衛戦への参加もその一環なのだろうか……まあ俺が考えても仕方がないことだが。


 それに、これはわかりやすい。

 技巧派の叔父さんが特に何も考えずに魔法をぶっぱなすのは珍しい。

 【総合戦闘競技】のように競技ルールに基づく必要も、安全配慮も駆け引きもいらないのか。


 こいつはとても俺向きだ。


 俺とガンダラも両手から灼熱線魔法を発射。

 人造魔物を一方的に蹂躙していく。

 叔父さんも凄まじいペースで魔物を消し炭にしていく。


 なんか、思ってたより楽だな。

 確かに数は多いが、灼熱線は通る。

 驚異ではあるが親和率の低かった昔の話か。


 今なら余裕だな。

 魔族であれば驚異足りえない。

 子供でも討伐出来るだろう。


 やはりダウンの驚異は人……、角なしたちの技量や連携だ。


「――っ! 索敵に強力な反応! 数二百‼」


 俺がぼんやりと考えているとガンダラが索敵結果を共有し。


 直ぐに大量の人造魔物が出現する。

 しかも大きい……さっきまで殺してたのより二回りはデカい。


 灼熱線の通りも悪い、出力を上げても効率は落ちるな……。


 何処かから跳ばされてきているのか……?

 発生装置のようなものが帝国のどこかにあるのではなく、遠隔での召喚……。


 で、あれば数は有限……いや別の場所で無限に発生させているのか?


 まあわからんが……やや押されてきたな。

 戦術級やら、この三人でなら戦略級も撃てなくはないが……角なしも巻き込むことになるな。


「ニックス! 疑似加速使用許可ッ‼ 存分に暴れろ‼」


 叔父さんは俺に向けて、丁度欲しかった指示を出す。


「了解」


 俺はそう返し、疑似加速を発動する。


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