まあ、秘密部隊でグリオン・ガーラの甥で弟子。
疑似加速を使えない方がおかしい。
これはある種、魔法の極地といえる魔法だ。
魔法技術で世界のトップを独走する魔法国家ダウンですら、自力での到達は困難だっただろう。
有効な対策方法は存在しない。
対処法としては加速した世界でも前に飛ぶ光線魔法、接触発動する電撃魔法、または魔法を纒着させての接触攻撃とされている。
だが、ある程度以上の技量があればそんなもの対策可能だ。
事実上最強の魔法、それがこの疑似加速だ。
当然秘匿されている。こんなもの普及させたら世界は混乱に陥る、バランスが崩壊する。犯罪やり放題だ。
だから驚いた。
全帝大会二回戦第七試合にて、シロウ・クロスがライラ・バルーン相手に疑似加速を使用したことに驚いた。
疑似加速のオリジナルを開発したのはシロウの父親だ。だから疑似加速を使えるのは当然だとしても衆人環視の中での使用とは……。
だったら俺もチャコール・ポートマン相手に使ってたら勝てたんだけど。
つーかそもそもシロウにも勝てたんだけど、疑似加速有りなのかよ……帝国の情報統制ガバすぎだろ。
俺が使ってたら叔父さんに消されてるところだぞ。
まあシロウがどう叱責されるのかは俺には関係ねえけど。むしろいい気味だくらいに思うが。
強力な魔法や技術というのは、思いついたり習得したからといって見せびらかしていいものじゃあない。
公開や普及に関しては、細心の注意を払わなくてはならない。
抑止力のない力は、大義のない者が使えばただの災害でしかない。まさに今、そうなっている。
まあ俺は任務で動くだけだ、別に帝国を救いたいわけでも全帝チャンピオンになりたいわけじゃない。
……いやまあなれるんならなるけども、断ることはしないけども、全然満更でもないけども。
そんな加速する思考でどうでもいいことを考えながら。
手からは焦熱炎剣を伸ばし、加速した世界の中で人造魔物を斬り刻んでいく。
問題はなさげだな。
少なくともここは俺たちだけでどうにでもなる。
油断する気はないが、必要以上に気負うこともない。
だが、ここで魔力感知に二つの反応。
強力な気配が二つ、転移にて跳んできた。
「ああ? 魔物か? くっそ、やっぱこっちもこっちで大変じゃねーか……」
「うっわやべえ……今何時だこれ…………魔力が……っ」
跳んできた二人の男は、辺りを見渡してそう漏らす。
一人は双剣の男……魔力自体はそうでもないが、隙がない。かなりの手練だ。
もう一人は見覚えが…………ああ! ファイブ・セブンティーンだ! 何やってんだこいつ?
俺が疑似加速を解いて、声をかけようとしたその瞬間。
「おっと、捕まえた! あれ疑似加速使ってっから知り合いかと……いや、おまえ知ってるぞ。ポピーとブラキス君にぶっ飛ばされてた魔族だろ! 俺だ! 勇者パーティの戦士ダイル・アルターだ! パーティに合流してえから跳ばせ! 丁度よすぎるぞ、おまえ最高だな!」
双剣の男は疑似加速で動く叔父さんの首根っこを掴んで、捲し立てるように嬉々として言う。
ぎ、疑似加速中の人間を掴むだと……?
なんて反応速度……本当に人なのか? 勇者パーティ……旧セブン公国の最大戦力か。
二十年前、叔父さんも交戦したという……いやしかし旧公国はスキル至上主義でスキルの効果に依存した強さを追求していたはず。
スキルのない今の世で……ただの反射神経と動体視力だけで疑似加速に対抗……常軌を逸している。
「……っ、懐くな角なし! 結果的には俺たちが勝っただろうが! あー面倒だ、勇者のところだな! さっさと行け!」
叔父さんは首根っこを掴む手を振り払いながらそう言って、ダイル・アルターとやらを転移魔法で跳ばす。
やはり知り合いか……、わりと仲良さげだったな。
「ぐおぉぉ……、五時台か……っ、これ……マジでやべえ…………って……ぐぃ……」
一緒に跳んできたファイブ・セブンティーンがうずくまりのたうち回るように言う。
置いてかれたけどこいつ……いや待てなんだこの親和率は……⁉
「な……っ、なんだその魔力量……! 爆発でもする気なのか、貴様は?」
叔父さんも驚きながらもファイブ・セブンティーンに問う。
今、ファイブの魔力量は俺たち三人を足しても届かないほどに高まっている……。話には聞いていたし、ライラ・バルーンとの試合も映像では見たがここまでとは……。
「マジに爆発しそうだ……っ! 『強化予備魔力結晶』か……何でもいいからデカい魔法を撃たせてくれ……っ」
苦しそうにファイブは叔父さんにそう願うが。
「あー……いや流石に外国人の大規模魔法使用については判断が付かんな……よし、面倒だし上手く使ってくれそうな奴のとこに跳ばしてやる。上手いことやれ」
叔父さんはさらっとそう言って、ファイブを転移魔法でどこかに跳ばした。
いやまあ確かに、外国人の戦略級使用とか関わってられない。凄まじい魔力だけど俺たちじゃどうにも出来ないし関係もない。
「よし、面倒なのは消えた。ああいうのは関わらんに限る。ニックス、集中していくぞ」
叔父さんは切り替えて、俺に向けてそう言い。
「了解、焼き尽くしてやる……ッ!」
俺も切り替えて、そう返した。
ここから俺たちは、全てが終わるまで人造魔物を狩り続けた。
まあ帝国の行く末とかはあんまり俺には関係がない、外国の話だ。
でもやっぱり心のどこかで、全帝の続きを心待ちにしてしまっている。
どうにも俺は自分が思っている以上に【総合戦闘競技】にハマっていたようだった。