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09そして無様に蘇る

 私、ソフィア・ブルームは魔動研究会セブン地域第二支部に所属…………いや除籍されてるかも。


 私は残留思念における魔力変換についての研究を行ってきました。

 魔法の半分は魔力、もう半分は思念だ。魔力に思念情報を伝達させて魔力を魔法という現象に昇華させるのが魔法なのです。


 だから私は魔法という現象をより深く知るためにも、この思念という部分を研究対象に選んだ。

 そんなニッチな研究を追求し探究し続けた、結果。


 私は擬似的な死者の蘇生を実現してしまったのでした。


 死者の重い思いや想いと記憶が土地の魔力に焼き付いて残った残留思念。

 内骨格に『魔力変換導通金属』を使い、その他回路や人工筋肉に『思念影響魔力金属』を用いた自動人形。


 残留思念に送り込んだ魔力が反応。

 人の記憶を持った魔力が『魔力変換導通金属』を通じて『思念影響魔力金属』の形を変え。

 人形内部に人体構造を再現、脳に残留思念から記憶が駆け巡り。


 色々な要素が噛み合って、生前と同じように考えて自律的に行動をする自動人形が出来上がった。


 蘇ったのは、かつて【西の大討伐】で命を落としたセブン地域は東の果てトーンの町の冒険者。

 アカカゲ・ブラッドムーン氏だった。


 当初はこのアカカゲ氏の戦闘経験値だけを用いて、全帝大会にて実証実験と研究成果の発表を行えればと思っていたのですが。

 全帝二回戦で、チャコール・ポートマン氏との試合でアカカゲ氏は蘇った。


 恐らくアカカゲ氏の記憶がチャコール氏の姿で刺激されたことにより『思念影響魔力金属』が一気に生前の状態へと身体を再現させた……。

 どうにもチャコール氏の父はアカカゲ氏のかつての冒険者仲間だったらしい、ライラさんのご両親やシロウ・クロス氏のご両親も同じく仲間だったとか。


 チャコール氏をかつての仲間と誤認したことで……いや理屈はいいか。


 これは……世界のバランスを崩壊させる出来事だ。


 この研究はもはや死の克服。

 不老不死の実現させようとしている。


 アカカゲ氏は現状、内蔵された『予備魔力結晶』に蓄えた魔力での稼働で六百秒程度。もしくは魔力操糸で魔力を送り続けていないと、稼働できない。


 不完全な死者蘇生、不老不死には程遠い……。


 しかし……正直既に解決策を思いついてしまっている。

 これは私じゃなくても、ある程度この手の魔力研究に携わっている人間なら思いつく。


 サウシス魔法学校のミーシア研究室で開発が進められている魔力増幅器の『マイクロ賢者の石』と『魔動列車』などに使われる星の魔力を吸う機構があれば、動力問題は解決してしまう。


 わりと簡単に、不老不死は手の届く位置にある。


 とんでもないものを造ってしまった。

 そりゃあ、ライラさんのママには殴られるしメリッサさんにも説教される。


 私が現在、造り出した残留思念魔力変換機構搭載型半自立行動戦闘用『自動人形』は二体。


 アカカゲ氏の残留思念を有した、通称『赤』と。

 最近スペアパーツを用いて組んだ『黒』だ。


 この研究はここで凍結させる。

 これ以上踏み込むのは……、人の在り方を変えてしまう。


 既に私は後悔している……『黒』の起動は行わないにしても。

 魔力供給を絶たれ、メンテナンスを怠り肉体が朽ちた時。


 アカカゲ氏は二度死ぬことになる。

 一人の人間に二度の死を与えるなんて、そんなに残酷なことはない。


「いやおまえなんかめちゃくちゃ考えてるけど、それどころじゃねーからな」


「……えっ、あ! はい‼」


 ぐちゃぐちゃと思案する私にアカカゲ氏は端的に現実に引き戻し、私はマヌケに驚いて返事をする。


 現実、そう今はそれどころじゃあない。


 トーンの町で【ワンスモア】の襲撃に遭い、ダイルさんが攫われた後。


 私たちは帝国軍の要請で、魔物モドキの討伐に参加することになった。


 私たちというか……要請を受けたのは元勇者パーティの面々だ。


「ソフィアちゃん、集中! アカカゲをひたすら前に出させて‼」


 元勇者のメリッサさんが、私に向けて檄を飛ばす。


「すっごいわね……この子。世が世なら賢者でしょ」


 旧公国賢者の称号を持つポピーさんが、私に向けて評価……いや『赤』についての評価を述べる。


「医者からすればこんな命を愚弄したもの許容できんがな」


 現役で帝国軍医の回復役であるクライスさんが、その通りでしかないことを言うと。


「まあそう言うな、命なんてものはそんなに尊いもんじゃあねえ。殺しゃあ死ぬし、死ななきゃ生きてるだけだ」


 あっけらかんと、アカカゲ氏が独特な死生観を語る。


 アカカゲ氏を前衛回避盾として。

 メリッサさんが前衛火力。

 ポピーさんが後衛火力。

 クライスさんが回復役。

 私がアカカゲ氏のサポート。


 つまり本来ダイルさんが行う前衛盾役にアカカゲ氏を組み込んだかたちの擬似的に編成した勇者パーティです。


 アカカゲ氏の技量の高さと、元々メリッサさんがアカカゲ氏の動き方を把握していた為なんとか成立しているパーティです。


 この氾濫が第何波続くかわからないので、メリッサさんとポピーさんによる戦略級極大殲滅魔法は温存しなくちゃならないにも関わらず。


 ポピーさんの魔法火力や援護が凄まじすぎる。これが賢者……、魔法使いとしての格が違いすぎるでしょ……この人がいて何で帝国は旧公国に勝てたんだろ。


 さらにはメリッサさんの近接火力……チャコール氏との模擬戦の時よりも苛烈というか、他の役割を仲間に任せて攻撃に専念出来るだけでこんなにも伸び伸びと動ける。やっぱり連携って偉大なのね。


 クライスさんの回復役としての性能も高すぎる……、後衛位置から遠隔で前衛のメリッサさんの負傷や疲労を即座に癒すだけでなく魔物モドキに回復役として狙われても棍で捌いて援護の隙を作るどころか囮としても動いている。


 アカカゲ氏も伸び伸びと、魔物モドキのヘイトを稼いで撹乱して後衛火力や前衛火力を通している。なんかアカカゲ氏は対人性能の方が高いみたいな話だったけど……そもそも【西の大討伐】に参加要請されるほどの技量を持つ魔物討伐のスペシャリストなんだ。隙はない。


 私はそんなアカカゲ氏に合わせて魔力操糸を追従させて魔力を送り続ける。これに関してはかなり慣れた、アカカゲ氏の動きもかなりわかってきた。


 こんな感じの連携で毎分二体くらいのハイペースでどんどん魔物モドキの数を減らしていく。


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