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10そして無様に蘇る

 想像以上に順調です。

 でもかなり忙しない、魔物討伐ってこんな忙しいんだ……。昔の人たちって凄かったんだな。

 なんとか着いていかないと、このパーティの中で明らかに未熟なのは私だけだ。


 せめて足は引っ張らないように、徹底的にアカカゲ氏への追従を――――。


 と、私が集中していたところで。


「あやべやったわマジごめんメリッサカバーたのぶ…………っ」


 凄まじい早口で謝りながらアカカゲ氏が魔物モドキに弾き飛ばされる。


 え、何が――――。


「ば……っ、忘れてただ! 今無理ポピー‼」


「待っ、射線が――」


「嘘だろ何故あの技量で……っ! 間に合わ――」


 勇者パーティ全員が予想だにしないアカカゲ氏のミスで一瞬の空白が生まれる。


 そんな空白の時の中で、真っ直ぐ私に向かって魔物モドキが首を狙って噛みつきに迫る。


 速……っ、嘘、私じゃ躱すのは――――。


 一瞬で私の中に死のイメージが駆け巡り、凄まじい速さで色んなことが思い浮かぶ。


 死ぬ。

 頸動脈からの失血死?

 頚椎損傷?

 痛いの?

 怖い。

 この場合でも私の残留思念は。

 死ぬ。

 窒息かもしれない。

 怖い。

 残留思念が残ってから奇跡の生還を果たしたらどうなるんだろ。

 死ぬ。

 窒息は苦しい。

 死ぬの?

 ああダメだ死んだ。


 ぐちゃぐちゃな思考の中で、最終的に私が死を覚悟したところで。


 凄まじい速度で、きらりと二振りの光が輝いた。

 そこから少し遅れて、魔物モドキは細切れになって地面に撒き散らされた。


 二振りの光……双剣を振って血を払い。


「あっぶねえ……、てめーら何やってんだ! ギリだったぞ‼」


 慄きながらそう言ったのは、セブン地域のお巡りさん。


 元勇者パーティ、旧公国最強の戦士ダイル・アルターさんだった。


「……ダイル⁉ あんた何で――――」


「話は後だ‼ 一旦ぶっ飛ばすぞ‼」


 驚愕するメリッサさんにダイルさんは即座に返して、動き出す。


 ダイルさんは前衛盾役として、双剣を巧みに振って流れるように魔物モドキたちの攻撃を捌いていく。


 捌かれた魔物モドキはメリッサさんとポピーさんに消滅魔法で消し飛ばされ、ほぼ同時にクライスさんの遠隔回復がダイルさんへと飛ぶ。


 旧セブン公国最大戦力、勇者パーティが復活した瞬間だった。


 帝国が旧公国統治の際に、勇者パーティを恐れて全員が揃って活動できないように様々な制限をかけた。故に勇者パーティが共闘したのは二十年ぶりのはずだ。


 それなのに……まるで昨日まで一緒に魔物討伐をしていたかのような連携……これが勇者パーティ。


 私は帝国統治後の生まれだけど、生まれも育ちもセブン地域。両親はもれなく旧公国民だから、勇者パーティについても話には聞いたことがあった。

 騎士団ですら敵わないとか、最強のスキル持ち集団とか。


 話以上とかの話じゃあない、話と違う。

 スキルなんて関係がない、この人たちは天才が努力をし続けたから最強なんだ。

 呼吸単位の連携が身体に染み付くほどの訓練量……一体何と戦うことを想定した訓練だったんだろう。


 この人たちを打ち負かした怪物が、この世界には存在するの?


「ソフィア! その者に回復魔法は効くのか!」


 クライスさんが私に向けて問う。


「え、あ! 効きます! ほぼほぼ人体と遜色ない状態です!」


 私は慌てて答えると、ほぼ同時にクライスさんはアカカゲ氏へと回復魔法を施す。


「……っふ――――、あっぶねえ……やらかした。助かった」


 回復したアカカゲ氏は立ち上がって言う。


 良かった……無事だった……けど。


「あのアカカゲさん、なんで急に……そんなに強い魔物が混ざってたんですか?」


 私はアカカゲ氏に負傷の理由を尋ねる。


 もしかすると私のサポートに不備があったのかもしれない、確認しなくちゃ。


「あー……いや俺は暗殺者だったんだ。生まれてから十五くらいまで、だから対人の癖が抜けきらなくてな。未だに魔物相手に駆け引きを挑んじまってわりとヘマをする。死んでも治らんかったみたいだ」


 アカカゲ氏に短刀の刃こぼれを確認しながら、つらつらと答える。


 なるほど……私も一応対人競技者だし対魔物が対人とはかなり違うってこともだいぶわかってきた。


「それと俺に『さん』とか敬語なんかはいらねーよ。気を使うのは……まあ、メリッサとかにしとけ。あいつは大人になった風だが根っこはブチ切れやすい悪ガキだからな、ちゃんとイカれてる」


 アカカゲ氏はそのまま、無い眉を上げて私へとそう語る。


「昔の仲間はわりと俺のヘマを踏まえて動いてたから、完全に共有不足だった。こういうのをできるだけなくしていくために意思疎通を気軽に行っておきたい、今はおまえが俺と連携してく仲間だからな」


 マフラーを少しずらして笑みを見せながら穏やかに私へと言った。


 そうだ。その通りだ。

 私はアカカゲ氏の……アカカゲの相棒だ。

 未熟だけど、本当に文字通り活かすも殺すも私にかかっている。


 彼のミスは私が埋めて、私の未熟さを彼が埋める。


「わかり……わかった。よろしく


 私は笑顔でそう答えると。


「ああ、よろしくな。ソフィア」


 マフラーで口元を隠しながら、アカカゲは返した。


「よし! ソフィアちゃん、こっちはもう大丈夫。でもごめん、ちょっと助けに行ってほしいところがあるの」


 揃った勇者パーティで、あらかた魔物モドキを消し飛ばしたメリッサさんが腰に手を置いて私に述べる。


「助けに……?」


 私はメリッサさんの言葉に返すと。


「そう、まあ私らよりも魔物相手には慣れてるんだけど手札があればあるほど有利に立ち回れるはずだから」


 メリッサさんはナイフの歪みを確かめながら淡々と言う。


「あー……なるほどな。理解した、行くぞソフィア」


「え、うん。え? 私わかってないんだけど」


 アカカゲが納得して私の腕を掴むけど、私は察しきれずに困惑する。


「まあ行けばわかるわよ、ありがとうホントに助かった! そっちもお願いね!」


 メリッサさんは笑顔でそう言って。


 転移魔法で私たちは跳ばされた。


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