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06この物語の主人公はこれしか出来ない

「プレイアブルアバターは、相互GISが完成し体感型オープンワールドバトルRPGとなった際にプレイヤーたちがモンスターたちと戦うための肉体としても使われることも想定されていた」


 続けてナナシはプレイアブルアバターについての説明を語る。


 体感型オープンワールドバトルRPG……また知らないワードだ。この辺はざっくりと、この世界を異世界人の都合よくしたいみたいなこととして考えておこう。

 魔物を放って、スキルを使って討伐する異世界人たちの遊技場的なことなのか……?


「イメージとしてはソフィア・ブルームが造った『自動人形』にかなり近い。あれは残留思念を入れて動かすけど、プレイアブルアバターは異世界から来た電波かさせた幽体を入れて動かすかってくらいの違いしかない。だから是非とも彼女は手中に収めたいんだけど……まあそれはさておき」


 新語に疑問符を浮かべていると、さらりと知ってる名前が出てくる。


 なるほど、ソフィアさんの『自動人形』……。

 こいつはアカカゲさんと同じような存在なのか。

 荒唐無稽だけどアカカゲさんという実例がある以上、一気に信憑性が出てきた。


「吉良之巣と庵田はプレイアブルアバターをとんでもなく強くしたんだ。試作型だからね、どんなモンスターも倒してどんな人間にも負けない最強のアバターを作った。より面白く、楽しく、異世界を体験出来るようにさ」


 少し笑みを浮かべてナナシは語り。


「老いず朽ちず病まず、凄まじい魔力量に全魔法系統資質に使『EX管理者権限』最強のテストプレイ用アカウントとして造られた」


 そのスペックを開示した。


 マジかこいつ、老いず朽ちず病まないってのはまあわかる。ソフィアさんの『自動人形』みたいなものならそうなんだろう。

 魔力量やら全魔法系統資質に関しては魔力革命後の今となっちゃ別にそこまででもない。おふくろやらスズやらみたいな人間は少なからず存在する。


 でも……『EX管理者権限』ってのは……やばすぎるだろ。


 全ての覚醒前スキル……、あんまり詳しくははないけどスキルってのは覚醒ってのが起こると効果が強くなるみたいなことがあったらしい。

 メリッサさんの『勇者』とか、クロウさんの『超加速』とかがそうだったみたいだ。


 それ以外のスキルを全て使える……?

 今まで戦った【ワンスモア】の使ってたスキルをこいつ一人で全部……。


「まあとりあえずカリカリに強く、オーバースペックにしておいて後ほどレベリングシステムを導入して少しずつスペックを解放していくことを想定していたんだけど」


 慄く僕をよそに、つらつらとナナシの語りは続く。


「デイドリーム上がりの相互GIS担当のチーフに『世界のバランスが著しく崩れるような介入は駄目だ。そんな化け物を文明や文化的な発展を遂げつつある世界に放てるわけねーだろ、畳むぞテメーら……』って言われてね、それでも強行して試作が完成したところで凍結されなんやかんやでクビになった」


 やや苦い顔をして、異世界の話を語る。


 そりゃそうだ。

 そのチーフって人の言うことが正しい。

 実際こいつに、世界のバランスは崩されかけているわけだし。


 というか……こいつは誰なんだ? さっきからどの視点から語っているんだ?

 キラノスタルジィとアンダーマストという名前は出てきたけど、どっちかなのか? それともその二人によってこちらに跳ばされた者なのか?


「その後、ビリーバーとして社員をGIS装置で死なせまくっていたサプライズモアは内部告発によって崩壊し。日本最悪のカルト大量殺人事件として検挙される流れになった」


 ナナシの語りは続く。


 ニホン……、異世界の名前か? いや異世界にあるビリーバーたちが属する国家の名前か?


 あれ、あ? ニホンってこっちにもある言葉たぞ。

 鍛錬した鉄から作った打刀のことをニホン刀とかって言うけど、あれって異世界由来のものだったのか。


 それよりGIS装置で死なせまくっていたってことは、こちらに来るには異世界で絶命する必要があるのか……異世界でこちらと同じような法律があるのかしらないけど一つの団体が日常的に死人を出していたら大問題になる。大量殺人事件だ。


 というか思っているより話についていけているな、僕。


「異世界研究を他に漏らすことは出来ないと判断したサプライズモは、関係者や情報を消し去る為に設備を含めて自爆テロを行った」


 淡々と、ナナシは狂気の果てみたいなことを言う。


 自爆……そうか最初に言っていたか、サプライズモア大量殺人並びに集団自殺事件。

 隠ぺいの為に……いやわからなくないが、さんざっぱらこの世界いじくり倒してんのに他の人間にはそこまでしてこの世界存在を隠したいのか……。


 この辺の狂気というか熱量や感情は、正直全く僕には理解できない。


「そこで完全に異世界との絶たれたはずだったんだが……吉良之巣と庵田は生きていたんだ。本来なら異世界についてを知る二人は消されるはずだったが、それどころじゃなくなったサプライズモアは二人を見逃した。失念していた」


 さらに淡々と異世界での大騒動の続きを語る。


 かなりブラックな組織だったみたいだ。さっきから当たり前のように死へと直結している。異世界ってそんなハードな倫理観の世界なのか? 今んとこ異世界に関する情報がこいつからしか出てこないから、異世界人みんな頭がおかしいと思ってるけど。


 これはこの世界の代表としてバリィさんあたりにこの世界を語れせているような、誰が何語ってんだって話なのかもしれない。


「サプライズモアはデイドリーム上がりのイカれオヤジを筆頭に総じて異世界に取り憑かれた頭のおかしい奴しか居なかった。つまり吉良之巣と庵田もちゃんと頭がおかしかった」


 真っ白な姿には似つかわしくない、真っ黒に鈍い光を瞳に宿したナナシは狂気を語る。


「二人は秘密裏に異世界研究を進めた。それほどまでに、この世界は魅力的だったんだ。現実からの解放……デイドリーム上がりの言葉を借りるなら……、夢の世界」


 やや早口に、興奮気味に語り。


「そして吉良之巣と庵田は独自にGIS装置を復刻した」


 満面の笑みで、そう言った。


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