目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

05この物語の主人公はこれしか出来ない

 そして。


「ふ――――っ……、よし。もうこのまま終わらせよう」


 現れる【ワンスモア】をちぎっては投げで蹂躙したクロウさんは、深く息を吐きながらそう言った。


 かなりの人数、最終的には百人以上のスキル持ちと戦った。

 実際、それなりに疲れた。

 魔力も結構使った……、なんか星から遠いからか魔力回復が悪い。ここまで来るための疑似加速改やら続いた戦闘で、わりとがっつり使った。

 体力もまあまあ使った、まだ戦えるけど飯食って風呂入ったら即寝れる程度には疲労感がある。


 各員最後の『予備魔力結晶』で魔力を回復させてから人気のなくなった拠点内を進み。


 

 木の年輪でいうなら髄の部分に位置する、この拠点の中心地。


 僕らを招き入れるように扉が勝手に開き、中は遠近感が狂うくらいに真っ白なだだっ広い部屋だった。


 部屋の奥には何かの装置……あれが『転送装置』か? 『置型転移結晶』よりも機械的なデザイン、おふくろやスズなら見たら何となく色々わかるんだろうけど僕にはわからないな……。


 ただあれがここへの出入り口となっているのだろう。


「やあ、来たね。ようこそ【ワンスモア】の本拠地へ。まさかお客さんが来るとは想定してなかったから歓迎の準備は出来ていないけど、歓迎するよ」


 真っ白な部屋から語りかけられる。


 部屋に溶け込むような真っ白な格好のナナシだった。

 特殊迷彩過ぎる……、パっと見だと見逃してしまいそうなくらいに部屋へと溶けて混ざっている。

 僕は北の生まれだから雪で目が慣れてるけど魔力感知をしておかないと見失うぞ……、馬鹿にできない保護色だ。


 ナナシを確認し、即座にステリアさんとテナーさんとゾーラさんが疑似加速で動き出す。


 即断即決、サーチアンドデストロイ。

 相手は弩級テロリストの親玉、帝国軍人に躊躇う理由はない。


 しかし、ほぼ同時。

 ステリアさんとゾーラさんは接触式の雷魔法で疑似加速を解除されて、隠れようとしたテナーさんも空中に設置された電撃に捕まって落ちる。


 疑似加速対策……っ、確かにこいつはライラちゃんとシロウの試合で疑似加速を見ている。

 そして、こいつ自身もベスト4インタビューの時に疑似加速のような動きを見せていた。


 疑似加速だけでは、こいつに対して必殺足りえない。


 そのままナナシは加速した世界から弾かれ麻痺状態のステリアさんとゾーラさんの頭を掴む。


 人質状態……、まあ僕らは帝国軍人じゃあないし正直見捨てて動いてもいいけど戦力が減るのは素直にマイナスでもある……ここまで一緒に戦った仲間を見捨てるのも後味も悪いしここはクロウさんの判断に任せよう。


「……せっかくここまで来たんだから少し話そうよ。君たちも僕から聞きたいことあるんだろう?」


 二人の頭を掴んで持ち上げた状態から、ナナシは飄々と述べる。


「まあそうだね。君は間違いなく殺すし、変に拘束してとか面倒くさそうだから今のうちに色々と話は聞いておきたいかな」


 全く動じることもなく、余裕綽々にクロウさんは返す。


 一旦様子見を行うみたいだ。

 確かに今疑似加速を使っても、ナナシが二人を殺す方が速い。

 隙を伺うのが良いか。


「良かった、少年漫画みたいに戦いながら喋るって実際やると全然無理だからね。マヌケだけど、クライマックスに対話シーンは欲しいし仕方ないよね。ちゃんと場を設けないと」


 へらへらとナナシはよくわからないことを語る。 


「で? おまえはビリーバーなのか? そこだけ確認しておきたい。おまえがビリーバーだとして、今後またビリーバーが現れる可能性があるのかとかも併せて答えてくれると助かる」


 クロウさんは全く気にすることもなく、ナナシへと問いかける。


「あーお兄さんビリーバーとかわかるクチなんだ。だから【ワンスモア】狩りなんてことを……納得したよ。確かにサプライズモア解体時にGIS装置は破壊され異世界に関する情報は全て破棄され、異世界を知る社員もみんな口封じで処分されたり自ら命を絶ったりしてビリーバーは打ち止めとなった……んだけど」


 不敵に歪んだ笑みを浮かべ、やや嬉しそうにナナシは与太話を語りだした。


「サプライズモア大量殺人並びに集団自殺事件の約三年後、ひっそりとGIS装置は復刻されたんだ」


 つらつらと与太話は続く。


 あーこれ知らない固有名詞多そうだな……、一応推測で整理しながら聞いていこう。


 ビリーバーってのが異世界から来た人間で。

 サプライズモアってのが異世界からこの世界に介入していた組織で。

 GISってのは……異世界からこの世界に人を送るもの……かな。


 一応、こんな感じで聞いておこう。そこまで興味あるわけでもないけど、わからなすぎると戦いで後れをとることに繋がるかもしれない。


「異世界企画を進行していたサプライズモアには二人、途中で解雇された者がいたんだ。それが吉良之巣樽次と庵田升斗、サプライズモアで相互GIS装置開発の担当をしていた人たちだ」


 つらつらとナナシは語り続ける。


 キラノスタルジィ、アンダーマスト……。異世界の技術者か。


「正確にはGIS装置そのものではなく異世界に魂を送った後のビリーバーたちに、この世界で活動するための肉体……を造る担当だった。まだまだビリーバーの胎児同調率は安定してなかったからね、いっそのこと肉体もこちらで用意してよりスムーズにビリーバーとなれるように開発を進めていたんだ」


 技術者について語る。


 また新語……プレイアブルアバター?

 この世界で活動するための肉体……、GISってので異世界から意識を飛ばしているのか。


「相互GIS装置と併せて、装置に保管した生身の肉体と異世界のプレイアブルアバターを行き来できるようにしたら、ログイン感覚で異世界転生が可能になる。サプライズモアの異世界企画においてかなり重要なものだった」


 続けて具合的な利用想定を語る。


 簡単に異世界とこの世界を行き来させる……、異世界人はそんなことを計画していたのか……。別にこの世界そんなすげえ面白いことなんてないと思うけど……。


「でもクビになった。デイドリーム上がりの馬鹿ジジイ共には、二人のやり方は認められなかった」


 ナナシはやや低い声で言う。


 デイドリーム……? いや帝国最大の企業、『魔動ケトル』から『魔動兵器』まで魔力で動くものは何でも作る魔動結社デイドリームの話ではないのか。

 異世界にもデイドリームという組織があったのか……? いや、こっちのデイドリームが異世界の影響を受けて居るのか? この辺はさすがにこの話だけではわからないな……。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?