そんなこんなでやっとこさ、僕は解放され。
家族やライラちゃんの無事な姿を確認して。
どろどろに溶け合うように爛れたりはもちろんしたけれど、この辺は流石に語らないとして。
帰還の実感が湧いてきたくらいで、すぐに全帝国総合戦闘競技選手権大会の準決勝が行われた。
相手は八極令嬢キャロライン・エンデスヘルツ。
全帝最強の武術家。
魔力掌握と近接格闘に優れた選手。
競技の女子選手と言ったら、鉄壁天使か八極令嬢のどちらかを指すと思っていいくらいに有名人。
実際、準々決勝では帝国軍人のステリアさんに激闘の末勝利している。
超弩級の実力者なのは間違いない。
しかしマジで帝国に帰って来てからエッチなことしかしてなかった為に、準備不足も準備不足。
とにかくがむしゃらに戦って、会場を半壊させながら。
最後はお互いの一撃必殺がぶつかり合い、空間がひび割れるという謎の現象を起こしつつ。
様々な審議の末にギリッギリ僕が勝利した。
『纏着結界装置』に内蔵されていた勝敗判定アラートが動いたタイミングがコンマ一秒、僕のほうが後に動いていたらしい。
こうして僕は決勝戦に進んだけど、会場を壊しすぎたのでまた延期となり。
そして今日、全帝決勝戦。
「じゃあ行ってくるよ、ライラちゃん」
「うん、畳んで来なさい。チャコ」
そんな言葉を交わして。
「西側より入場……世界を砕くはその一撃ッ! 一撃必殺マジカルマッスル、チャコオォォ――――――――ル・ポオォオォ――――トマァァァァァァァァァアン‼」
アルコ・ディアール氏の高らかなアナウンスと共に、僕は入場する。
会場から歓声が上がる。
おお、盛りがってる……流石決勝戦だ。
悪い気はしない。
「東側より入場……、世界を置き去りにするその速度ッ! 瞬殺王者、シロオォォォォォオウ・クロオォォォォ――――――ォォォオスッ‼」
さらに続けてアルコ氏のアナウンスで、対戦相手のシロウ・クロスが入場する。
会場から割れんばかりの歓声が上がる。
流石、現役チャンピオン……そりゃ僕より盛り上がる。
悪い気しかしない。
「疑似加速は無しでいいんだよな?」
僕は、対峙するシロウ・クロスに投げかける。
「ああ、マジで死ぬほど怒られたからな……。貴様が使ったとしても俺は使わない、それでいいなら使え」
シロウ・クロスはバツが悪そうな顔で答える。
ちなみに僕も帝国軍から注意を受けた。
先の同時多発テロの際に、僕が疑似加速改を使えることはバレている。
バレてなかったら全然使う気だったけど、バレてるんなら仕方ない。
「あーいや、それだと君に吠え面かかせられないからいいや……無しでも勝てるし」
僕はシロウ・クロスの言葉に軽口で返す。
「ああ全然言い訳にしてくれていいからな、疑似加速使わなかったから負けたって。甘んじて受け入れてやるよ」
僕の言葉にシロウ・クロスも軽口で返す。
「…………一撃で畳む」
「ダメだね、瞬殺だ」
互いに喧嘩の売買成立な言葉を交わし。
同時に『纏着結界装置』を起動したところで。
「試合開始ィ――――――――ッ‼」
高らかな掛け声で試合は始まった。
まあここからなんやかんや螺旋光線やら。
背面空気圧縮ジェットやら。
目視転移読み置き爆撃とか身体強化ガチ格闘やら。
色々やるしやられて、歴史に刻まれるほどの熱戦を繰り広げるわけなんだけど。
まあ別に、これはそんなに語るべき内容でもない。
僕とシロウ・クロスのベストパフォーマンスを競技ルールの中でぶつけ合っただけだ、想像に容易いだろう。
聞いてほしいのは、この世界についての話だ。
【ワンスモア】の人造魔物や再現スキルを用いた大規模な同時多発テロは、最小限の被害に抑えたとはいえ世界に大きな傷を残した。
潜在的なスキルへの憧れは膨れ上がり。
闘争に身を置くことへの生き甲斐を思い出させ。
世界は今の時代が平和であると再認識したのと同時に、やはりつまらないものなんだと自覚してしまった。
何より僕も、そのクチだ。
僕はナナシ・ムキメイの言う通り、世界に不満を持っていた。
時代にそぐわない存在なんだと。
一人で冒険者ギルドで心をすり減らしながら、そう思っていた。
そして、超常的なスキル持ちとの戦いや異形の魔物との戦いを疑似体験して。
不謹慎にも、僕は僕の存在を実感してしまった。
と、言っても。
だからといって僕が【ワンスモア】の意志を引き継いで世界を変えようなんてことは思わない。
ロマンや夢は持ってはいるけど、根がリアリストなんだ。
単純にめんどくさいし、世界を顧みないほどの情熱はない。
そして実は、この世界は少し変わりつつもある。
潜在的な憧れは憧れのまま、代わる何かを模索して世界は少しでも面白くあるように動きつつある。
というか、今回の【ワンスモア】が行った様々な超常的な現象によって世界は魔力や魔法という現象についての深さを見せつけられた。
潜在的な憧れは今、うっすらとした期待に変わろうとしている。
まだこの世界には何かある、そんな期待に。
僕はこの後、サウシス魔法学校を卒業して。
団体を設立した。
その名も、戦闘冒険者ギルド。
【総合戦闘競技】の選手の育成と輩出するのと同時に、既存の冒険者が行うような業務をいかに魔法や魔動機械で効率化するかという団体。
つまり、僕は冒険者になった。
確かにかつての冒険者と同じことは出来ない。
でも、今の冒険者と同じことをするつもりもない。
この世界にはまだ何かある。
それを全力で、一番前で楽しもうって団体だ。
帝国の西の地方都市で。
超ブラックギルドのワンオペ職員が、ついに辞めて。
超常的なスキルや魔物なんていない、現実の中で溺れることしか出来ない世界で。
様々な影響の連鎖と伝播など色んなもの受けた。
世界が少し、面白く思えた。
やっとね、僕はここから始まる。