ショーンとジャーラ達は、薄暗い下水道を進んでいくが、ここは湿っぽい臭いが漂っている。
「この下水道を進むのは、得策ではないからな? 何処から敵が出てくるか分からないし?」
「あそこの
ショーンは、薄暗い下水道の中を、慎重に進んでいったが、警戒心は抜かない。
足元には、水たまりが広がり、時おり下水の流れる音が響いてくる。
その後ろから、ジャーラは魔法を射てるように、マジックケーンを構える。
さらに、後方の仲間たちも、後ろや天井を眺めながら、ゆっくりと歩いていく。
そんな彼等は、右側にある側溝から漏れる微かな光が梯子を照らしているのを発見する。
「ここから、出るぜ? 周りは誰も居ないようだ」
「敵も居ないようですね? もう戦いはコリゴリです」
マンホールの蓋を開けた、ショーンは外に出て、すぐに辺りを見渡す。
その後ろから、身を乗り出した、ジャーラも周囲を注意深く観察する。
この先には、何が待ち受けているか分からないが、期待と不安を持ちながら彼等は歩きだす。
「お前ら、安全だっ! ゾンビやチンピラ達は存在しない? もう出てきていい」
ショーンは、マンホールを覗き、中で待機している仲間たちを呼ぶ。
「分かったぜ、今上がっていく」
「これ、俺の体重は支えられるのか?」
「とにかく、先に進もう」
「私達は、安全区域を目指すのみですっ!」
テアンとゴードン達が、梯子を上がって、外へと出てくると、二人とも眩しそうに目を細めた。
カーニャとサヤ達も、地上まで登ってくると、キョロキョロと視線を動かして、周辺を観察した。
「ここは、アジア人街の一角のようだが? あっちに海が見えると言う事は? 安全区域はこっちだろうな」
「西の方角ですね? 取り敢えず、いって見ましょう」
「後ろの警戒は、任せてくれな」
「もし、チンピラが飛び出てきたら、串刺しにしますっ!」
ショーンは、マンホールの蓋を閉めると、綺麗な北に見える綺麗な水平線を眺めた。
そして、十字路に出た後、西に向かって、みんなを連れながら進みだした。
ジャーラも、彼に続いて、街中を慎重に歩いていき、アイスバールを強く握り締めた。
敵の襲撃に対応するべく、彼女は目を鋭くさせながら街並みに見惚れる事なく足を動かす。
クロスボウを構えながら、テアンは後ろから、奇襲されないように見張る。
サヤは、火炎薙刀を両手で強く握り締めながら、戦闘になった際、突撃できるように身構える。
「おっ? 見張りが立っている? チンピラ達か?」
「不味いですね…………私達は、安全区域を目指しているのに?」
そんな彼等が、街中を歩いていくと、遥か前方に何人かの人影を見かけた。
ショーンとジャーラ達は、それを見つけた瞬間、右側の路地に隠れた。
二人が見つめる方向には、大きな駐車場があり、トラックや木箱などが、大量に設置されている。
これらは、要するにバリケードであり、その上には、見張りに屈強な連中が立っていた。
「どうする? 奴ら、チンピラだろうが、あの人数じゃあ? こっちが殺られちまう」
「さて、どうしましょうか…………んっ! 別なチンピラ連中が来ましたよっ!」
「戦いが始まっただとっ! どうする、逃げるか? 俺のピストルの弾は後わずかだがっ!」
「私の魔法なら、まだまだ射ちまくれるよっ? しかし、戦闘は出来るだけ避けたいしーー」
ショーンは、柄の悪い男たちが大勢で、車上に陣取っている姿を見て、ここは引こうかと提案する。
それを聞きながら、ジャーラは引き返した場合、どこから安全区域に向かうか思案していた。
だが、いきなりバリケードで、戦闘が発生したので、彼女は驚いてしまった。
チンピラ集団が、トラックやピックアップで、攻撃を仕掛けてきたのだ。
ピストルのグリップから、ゴードンは素早くマガジンを引き抜いて、残弾数を確かめる。
カーニャは、両手を前に出して、強気な笑みを浮かべながら、魔法を放つ準備をする。
「狙撃するなら、建物の屋根に上がるぜ」
「戦うなら準備は、出来ていますが?」
「まあ、待て…………ここは、見つからずに立ち去ればっ!?」
「カラチスッ!! 敵の襲撃だっ!! 援軍は、まだ来ないのかっ!!」
「待っているしかないっ! どうやら、他の場所も襲撃を受けているようだっ!」
左側の建物内から、テアンは奥に入り、屋上に行こうかと提案してきた。
そこから、サヤも火炎薙刀の切っ先を燃やし始め、目付きを鋭くさせる。
二人の案を聞いて、ショーンは待てと言ったが、知り合いたちが叫ぶ声に反応してしまった。
見れば、パルドーラが怒鳴りながら、トラックの上から、敵に包丁を投げている姿が目に入った。
カラチスも、木箱の山に登ってくると、息を深く吸い込み、空気砲を放ちまくる。
「ヒャハハハハッ! ここを突破して、女を奪い取ってやるぜっ!」
「ギヒャヒャ、食糧と酒を奪いまくるんだっ!」
「あそこのインキュバス、それに人食い花は、知り合いなんだっ! 助けに行くしかないっ! みんな頼む、着いて来てくれっ!」
「…………と言う事は、彼等が居る場所こそ、安全区域では? 彼等は、自警団や冒険者の集まりとっ!」
銀髪アフロヘアの黒人チンピラは、トラックの陰に隠れて、アサルトライフルを撃ちまくる。
マジックケーンを持っている黒髪リーゼントのチンピラは、雷撃魔法を放ちまくっていた。
チンピラ連中の攻撃に晒されている同僚たちを助けようと、ショーンは慌てて単騎突撃していく。
飛び出していった、彼を援護するため、ジャーラは氷結魔法で、無数の
「うわあっ! 後ろからっ! ぎっ!」
「ぐぎゃっ!? なんだっ! ぐおっ!」
「死にやがれっ! チンピラどもがっ!! 俺の仲間に手は出させないっ!」
「私の氷結魔法は、甘くは有りませんよっ!」
ワニ型リザードマンのチンピラを、ショーンは背中から胸を、ショートソードで貫く。
そして、奴を肉盾にしながら、彼は周辺のチンピラ連中から攻撃を受け止める。
背後から右肩に、ジャーラが放つ氷柱を食らった、アジア人のチンピラは痛みのあまり叫んだ。
さらに、もう一発を後頭部に喰って、前方に力なく倒れこんでしまった。
「後ろからも、敵が来ている? 回り込んでいたのかっ?」
「いや、俺達とは別のギャングだろうっ!」
「まだまだ、行くぜっ! お前ら、後ろにも敵が居るんだぞっ!」
「アイツらは、味方か?」
「分からないわっ! とにかく、目の前の敵に集中しろっ!」
赤モヒカンの白人チンピラは、樽型爆弾を投げながら、後ろに振り向いた。
一方、トラックに隠れながら、黒髪ダブルモヒカンのアラブ系チンピラは、ピストルを撃ちまくる。
連中の集中砲火を浴びるショーンだったが、それでも彼は、ゆっくりと前進する事を止めない。
何故なら、分厚い皮膚と弾力があるワニ型リザードマンを盾にしているからだ。
黒いパナマ帽を被る自警団員は、ライフルで敵を狙いながら、新たに現れた彼等を警戒する。
女性ゴーストの自警団員は、両手から紫ビームを乱射しまくりながら叫ぶ。
「ちょっと、もおっ! 行くしかないわねっ! オラ、オラッ!」
「突撃して行くしかなくなったか、やれやれ…………弾丸を撃ちまくるぞ」
「こっちは、狙撃支援するっ! 後ろは任せてくれ」
「私も、突撃に加わるしかないですねっ!」
両手から交互に、紫ビームと暗黒球を放ちながら、カーニャは走り出していく。
ピストルを乱射しながら、ゴードンは勢いよく疾走していった。
テアンは、屋上ではなく、建物の中からクロスボウで、敵を射ち抜く。
火炎薙刀を真っ直ぐ突きだし、サヤは敵陣に向かって、突進していった。
「死にやがれっ! これでも喰らうんだなっ!」
「ズタボロにしてやるっ!」
「くぅぅ? コイツは、もうダメかっ!」
チンピラ達による銃撃で、分厚い皮膚と弾力のあるワニ型リザードマンも、ズタボロになっていく。
肉盾にしていた、ショーンも流石に、これ以上は、ライフル弾や魔法には耐えられないと悟る。
仕方ないので、死体を捨てた彼は、トリップソードを片手に、敵部隊へと飛び出して行った。