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第70話 ここは天国


 ついに、ショーン達は安全区域にまで、無事にたどり着いて、アジア人街の中枢へと向かう。



「そいじゃ、街に向かうぜ」


「ショーン、女漁りは夜にするんだな? ギャハハッ!」


 ショーンは、歓楽街になっているアジア人街へと進み始めると、またカラチスが余計な事を言った。



「下ネタは、女性の前で言う物では有りませんよ…………」


「はあ? 何なんだ、コイツは? 医者の俺でも、どうにも出きんな? 精神科医に連れていくしかない」


「ギャハハッ! 済まん、済まん、紳士の使うべき言葉じゃなかったなっ!」


 あまりの酷さに、ジャーラは注意して、ゴードンも呆れてしまう。


 謝りながらも、相変わらず、カラチスは反省していないらしく、豪快に笑い続ける。



「ここは、安心できると聞いたが? どうやら、内側は本当に安全なようだな? 奥に行っていいか?」


 ショーンは、カラチスの暴走を止めるべく、真面目な話を始めた。



「ここの見張りを、俺たちは任されているから離れられない…………だから、お前たちは商工会議所に向かってくれ」


「巡回している連中には、俺たちの知り合いだと、言えよ? あと、ルドマンさんや区長たちが居るから話してこいよ」


 真剣な顔をするショーンに対して、カラチスは流石に下ネタを言わず、まともな返答をした。


 パルドーラは、商工会議所に向かえと、奥に見える歓楽街を指差した。



「分かった、二人とも、また後で話そう? おい、みんな着いて来てくれな? 今は商工会議所を目指す」


「ラーメン屋と武器屋は後回しか? そろそろ、飯も食いたいし、矢を補助したいんだが? 仕方ないな」


「取り敢えず、そこに行けば、マルルン達とも合流できるかもね~~」


「そうだと良いのですけど? 皆さま、ともかく前に進みましょう」


 ショーンは、二人に別れを告げると、仲間たちを率いて、歓楽街へと足を運んでいった。


 テアンは、背中の矢筒を背負い直すと、腹を擦りながらも、有城だし始めた。



 カーニャも、呑気な言葉を言いながら、背伸びしながら欠伸あくびをしつつ進み出す。


 サヤは、火炎薙刀を背中の帯に差し込み、みんなの後を着いていく。



「へいっ! いらっしゃい」


「親父、ラーメンを一杯くれ」


「きゃっ! きゃっ!」


「アハハ」


「大根、安いよ~~」


「あ、買わなきゃっ!」


「取れたてのホヤを運ばんと」


「新鮮な内に売らないとね」


 街には、中華料理屋が店を開けており、店主と客のやり取りが聞こえてきた。


 白人と黒人の子供たちが、歩道から道路を、元気に走り回る姿も見えた。



 カナブン人間が、大根を振るうと、吸血鬼の主婦が買いに行こうとする。


 ダニ人間の夫婦が、リヤカーを引っ張り、山積みされた、海産物であるホヤを運ぶ。



 赤や緑色に彩られている、アジア人街は、外の災害以前と同じ活気に包まれていた。


 建物の外観もそうだが、漢字を含む様々な文字が描かれた、看板も目立つ。




「アジア人街と聞きましたが、アラブ系やアフリカ系の店も多いですね」


「そうだな? 店は色んなのが、前に来た時から、存在したが? 今じゃ、色んな連中が見えるな…………みんな、ここに逃げて来たのかも知れない」


「南側にまた、チンピラが出ただと? 行くぞっ!」


「ああ、すぐに向かうっ! 出撃だっ!」


 ジャーラは、実に多種多様な料理屋を見ながら、何気なしに呟く。


 すると、ショーンも普段とは違う人々が、道路を賑やかに歩いている事に気がつく。



 そんな中、道路を青い制服を着ている警察官が、ピストルを握りながら走ってきた。


 同じように、フリッツ・ヘルメットを被る兵士が、アサルトライフルを抱えて、向かってくる。



「軍や警察の生き残りか? 連中も、ここに着ていたのか」


 走りながら、何処かへと向かっていく、彼等の後ろ姿を眺めながら、ショーンは呟く。



「あっ! お前は、教会のっ!」


「どうやって、侵入したのっ!」


「うわっ! ビビらすな、俺は自警団員のカラチスとパルドーラの知り合いだっ!」


 その時、教会で出会した、リオンとマーリーン達が現れて、腰から武器を取りだそうとした。


 もちろん、ショーンは両手を上げて、自らがチンピラではなく、敵意がないと彼等に示す。



「本当か? 彼等の知り合いってのは? 今一信用ならんな…………」


「怪しいわねーー! 本当は、チンピラの密偵じゃないのかしら?」


「じゃなきゃ、ここには入れて貰えないだろう? 商工会議所には、ルドマン商会のルドマンさんも、居るだろう? 俺は、あの人が経営する会社の者だ」


 リオンは、腰のホルスターに手を伸ばしたまま、警戒心を解かないで、真顔になっている。


 マーリーンも、鋭い眼光を放ちながら、警棒を手にして退治したままだ。



 そんな二人を前に、ショーンは困ったまま、両手を下げられないで、ずっと立っていた。


 警察官と敵対するワケにもいかず、他の仲間たちも、じっと動かずに様子を見つめる。



「ショーンじゃないか? お前、無事だったのか? ミーから、一緒に行動していると聞いてたが」


「にゃあっ! ショーン、無事だったんだにゃっ!」


「シューさん、ミー? 良かった…………この二人に、俺がチンピラじゃないと説明してくれ」


「ふぅ? どうやら、チンピラでは無さそうだな」


「もし、チンピラだったら、頭に火炎魔法を射っていたわ」


 対峙する両者の間に、コック姿をした中華料理人シューが現れて、驚いた表情を浮かべる。


 さらに、ミーも彼とともに歩いてくると、嬉しそうに笑顔になった。



 二人が来てくれた事で、ショーンは彼等の方に目を向けて、ため息を吐きながら助けを求めた。



 リオンは、素早くリボルバーを引き抜こうとしていたが、ホルスターから右手を離した。


 警棒を握る、マーリーンも真剣な顔をしてはいるが、どうやら警戒心を解いたようだ。



「ああ、そうだな? ショーンは私の知り合い? と言うより、店の常連客でして」


「それに、彼は私と一緒に、数々のチンピラやゾンビ達を倒して来たんだにゃっ!」


「それなら、信用はできるか」


「なら、問題は無いでしょうね」


 シューとミー達は、ショーンの事を、何も知らない二人に説明する。


 その話に、リオンとマーリーン達は、納得したらしく、どちらもうなづく。



「済まなかった、あの時は君を射殺してしまうかも知れなかった」


「私も、ご免なさい…………市民を守るべき警察官が、危うく市民を殺害するところだったわ」


 リオンは、素直に謝罪しながら、すぐさま頭を下げたのだった。


 気まずそうに、困った表情をしながら、マーリーンも即座に頭を垂れる。



「いや、気にするな? あの状況なら、チンピラに間違われても仕方ないっ! それより、先に行きたいから通してくれ」


 ショーンは、両手を振りながら、二人に頭を上げるように頼んだ。



「それよか? シューさん、後で飯を行くからなっ! ミー、俺は商工会議所に行くが、お前はどうする?」


「おおっ! 待っているぞっ! 必ず、後で来るんだぞっ!」


「私は、シューさんの店に居るにゃっ!」


 そう言いながら、ショーンは目的地に向かって、歩いて行こうとする。


 シューとミー達も、それに返事をすると、自分たちの店へと戻っていった。



「さあ、みんな、商工会議所に急ごう」


「遊ぶのは、それからですね」


「うぅむ? そろそろ、昼頃だが、先に用事を済まさねば」


「確かに、お腹が空きましたが、我慢せねば」


 赤や青の店が、ずっと並ぶ街中を、ショーンとジャーラ達は、喧騒を聞きながら歩いていく。


 ゴードンとサヤ達も、疲れてきたかのような顔を見せるが、それでも足を止めはしない。



「まあ、あと少しだ? 用事が済んだら、さっきのシューさんの店に行こう」


「できれば、今すぐ行きたいけどね~~」


「文句を言うな? どうせ、用事は直ぐ終わる」


 ショーンが、仲間たちを励まそうとすると、カーニャは愚痴を垂れ始める。


 そんな彼女に対して、テアンは呆れた顔で、軽く叱るのであった。

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