ついに、ショーン達は安全区域にまで、無事にたどり着いて、アジア人街の中枢へと向かう。
「そいじゃ、街に向かうぜ」
「ショーン、女漁りは夜にするんだな? ギャハハッ!」
ショーンは、歓楽街になっているアジア人街へと進み始めると、またカラチスが余計な事を言った。
「下ネタは、女性の前で言う物では有りませんよ…………」
「はあ? 何なんだ、コイツは? 医者の俺でも、どうにも出きんな? 精神科医に連れていくしかない」
「ギャハハッ! 済まん、済まん、紳士の使うべき言葉じゃなかったなっ!」
あまりの酷さに、ジャーラは注意して、ゴードンも呆れてしまう。
謝りながらも、相変わらず、カラチスは反省していないらしく、豪快に笑い続ける。
「ここは、安心できると聞いたが? どうやら、内側は本当に安全なようだな? 奥に行っていいか?」
ショーンは、カラチスの暴走を止めるべく、真面目な話を始めた。
「ここの見張りを、俺たちは任されているから離れられない…………だから、お前たちは商工会議所に向かってくれ」
「巡回している連中には、俺たちの知り合いだと、言えよ? あと、ルドマンさんや区長たちが居るから話してこいよ」
真剣な顔をするショーンに対して、カラチスは流石に下ネタを言わず、まともな返答をした。
パルドーラは、商工会議所に向かえと、奥に見える歓楽街を指差した。
「分かった、二人とも、また後で話そう? おい、みんな着いて来てくれな? 今は商工会議所を目指す」
「ラーメン屋と武器屋は後回しか? そろそろ、飯も食いたいし、矢を補助したいんだが? 仕方ないな」
「取り敢えず、そこに行けば、マルルン達とも合流できるかもね~~」
「そうだと良いのですけど? 皆さま、ともかく前に進みましょう」
ショーンは、二人に別れを告げると、仲間たちを率いて、歓楽街へと足を運んでいった。
テアンは、背中の矢筒を背負い直すと、腹を擦りながらも、有城だし始めた。
カーニャも、呑気な言葉を言いながら、背伸びしながら
サヤは、火炎薙刀を背中の帯に差し込み、みんなの後を着いていく。
「へいっ! いらっしゃい」
「親父、ラーメンを一杯くれ」
「きゃっ! きゃっ!」
「アハハ」
「大根、安いよ~~」
「あ、買わなきゃっ!」
「取れたてのホヤを運ばんと」
「新鮮な内に売らないとね」
街には、中華料理屋が店を開けており、店主と客のやり取りが聞こえてきた。
白人と黒人の子供たちが、歩道から道路を、元気に走り回る姿も見えた。
カナブン人間が、大根を振るうと、吸血鬼の主婦が買いに行こうとする。
ダニ人間の夫婦が、リヤカーを引っ張り、山積みされた、海産物であるホヤを運ぶ。
赤や緑色に彩られている、アジア人街は、外の災害以前と同じ活気に包まれていた。
建物の外観もそうだが、漢字を含む様々な文字が描かれた、看板も目立つ。
「アジア人街と聞きましたが、アラブ系やアフリカ系の店も多いですね」
「そうだな? 店は色んなのが、前に来た時から、存在したが? 今じゃ、色んな連中が見えるな…………みんな、ここに逃げて来たのかも知れない」
「南側にまた、チンピラが出ただと? 行くぞっ!」
「ああ、すぐに向かうっ! 出撃だっ!」
ジャーラは、実に多種多様な料理屋を見ながら、何気なしに呟く。
すると、ショーンも普段とは違う人々が、道路を賑やかに歩いている事に気がつく。
そんな中、道路を青い制服を着ている警察官が、ピストルを握りながら走ってきた。
同じように、フリッツ・ヘルメットを被る兵士が、アサルトライフルを抱えて、向かってくる。
「軍や警察の生き残りか? 連中も、ここに着ていたのか」
走りながら、何処かへと向かっていく、彼等の後ろ姿を眺めながら、ショーンは呟く。
「あっ! お前は、教会のっ!」
「どうやって、侵入したのっ!」
「うわっ! ビビらすな、俺は自警団員のカラチスとパルドーラの知り合いだっ!」
その時、教会で出会した、リオンとマーリーン達が現れて、腰から武器を取りだそうとした。
もちろん、ショーンは両手を上げて、自らがチンピラではなく、敵意がないと彼等に示す。
「本当か? 彼等の知り合いってのは? 今一信用ならんな…………」
「怪しいわねーー! 本当は、チンピラの密偵じゃないのかしら?」
「じゃなきゃ、ここには入れて貰えないだろう? 商工会議所には、ルドマン商会のルドマンさんも、居るだろう? 俺は、あの人が経営する会社の者だ」
リオンは、腰のホルスターに手を伸ばしたまま、警戒心を解かないで、真顔になっている。
マーリーンも、鋭い眼光を放ちながら、警棒を手にして退治したままだ。
そんな二人を前に、ショーンは困ったまま、両手を下げられないで、ずっと立っていた。
警察官と敵対するワケにもいかず、他の仲間たちも、じっと動かずに様子を見つめる。
「ショーンじゃないか? お前、無事だったのか? ミーから、一緒に行動していると聞いてたが」
「にゃあっ! ショーン、無事だったんだにゃっ!」
「シューさん、ミー? 良かった…………この二人に、俺がチンピラじゃないと説明してくれ」
「ふぅ? どうやら、チンピラでは無さそうだな」
「もし、チンピラだったら、頭に火炎魔法を射っていたわ」
対峙する両者の間に、コック姿をした中華料理人シューが現れて、驚いた表情を浮かべる。
さらに、ミーも彼とともに歩いてくると、嬉しそうに笑顔になった。
二人が来てくれた事で、ショーンは彼等の方に目を向けて、ため息を吐きながら助けを求めた。
リオンは、素早くリボルバーを引き抜こうとしていたが、ホルスターから右手を離した。
警棒を握る、マーリーンも真剣な顔をしてはいるが、どうやら警戒心を解いたようだ。
「ああ、そうだな? ショーンは私の知り合い? と言うより、店の常連客でして」
「それに、彼は私と一緒に、数々のチンピラやゾンビ達を倒して来たんだにゃっ!」
「それなら、信用はできるか」
「なら、問題は無いでしょうね」
シューとミー達は、ショーンの事を、何も知らない二人に説明する。
その話に、リオンとマーリーン達は、納得したらしく、どちらも
「済まなかった、あの時は君を射殺してしまうかも知れなかった」
「私も、ご免なさい…………市民を守るべき警察官が、危うく市民を殺害するところだったわ」
リオンは、素直に謝罪しながら、すぐさま頭を下げたのだった。
気まずそうに、困った表情をしながら、マーリーンも即座に頭を垂れる。
「いや、気にするな? あの状況なら、チンピラに間違われても仕方ないっ! それより、先に行きたいから通してくれ」
ショーンは、両手を振りながら、二人に頭を上げるように頼んだ。
「それよか? シューさん、後で飯を行くからなっ! ミー、俺は商工会議所に行くが、お前はどうする?」
「おおっ! 待っているぞっ! 必ず、後で来るんだぞっ!」
「私は、シューさんの店に居るにゃっ!」
そう言いながら、ショーンは目的地に向かって、歩いて行こうとする。
シューとミー達も、それに返事をすると、自分たちの店へと戻っていった。
「さあ、みんな、商工会議所に急ごう」
「遊ぶのは、それからですね」
「うぅむ? そろそろ、昼頃だが、先に用事を済まさねば」
「確かに、お腹が空きましたが、我慢せねば」
赤や青の店が、ずっと並ぶ街中を、ショーンとジャーラ達は、喧騒を聞きながら歩いていく。
ゴードンとサヤ達も、疲れてきたかのような顔を見せるが、それでも足を止めはしない。
「まあ、あと少しだ? 用事が済んだら、さっきのシューさんの店に行こう」
「できれば、今すぐ行きたいけどね~~」
「文句を言うな? どうせ、用事は直ぐ終わる」
ショーンが、仲間たちを励まそうとすると、カーニャは愚痴を垂れ始める。
そんな彼女に対して、テアンは呆れた顔で、軽く叱るのであった。