店内をリズが歩くと、ショーンは驚いてしまったが、落ち着きを取り戻す。
「ショーン、心配してたのよ…………」
「済まん、ルドマンさんに会いに行こうとしたら、警備が通してくれなくてな」
リズは、悲しげな表情を浮かべたので、申し訳なさそうに、ショーンは謝った。
「謝らなくていいわ? それより、ここの食事が終わったら、私が事務所まで、案内するわ? ルドマンさんからの伝言だけれど、人手が欲しいから、警備の仕事に戻るようにってね?」
リズは、頼まれていた伝言を喋り、ショーン達に重要な報せを教えた。
「あ? でも、ショーン達は、今日の事があったから、明日は休んでもいいと言ってたわよっ! と、言うか、みんなも心配していたのよ」
「はあ、結局は仕事を任されるのか? しかし、やるしか無いが…………まあ、ここに来るのは遅れてしまったからな」
リズが仕事に関して教えると、ショーンは面倒だなと思い、嫌そうな顔をする。
「まあ、これで私は失礼するわね? 店員さん? ここは、肉まんと餡まんも持ち帰り用に売ってるのよね? 幾つか買うわっ! 邪魔するだけで何も買わないのは、アレだからね」
「分かりました、では、これを」
「アツアツですから、気をつけて~~」
仲間たちの土産と、自分用に、リズは肉まんを注文して、財布から代金を取り出す。
それを見た、キョンシー娘と中華娘たちは、肉まんと餡まんが、詰まった上袋を渡そうとする。
「ショーン、私は近くの広場にあるベンチで、待ってるからね? チャーハンを食べ終わったら、直ぐ来てね」
「ああ、分かった…………詳しい話は、後程しよう」
リズは、それだけ言うと、店内から出ていき、ショーン達の前から消えた。
「まあ、みんな? 難しい話は抜きにして、今は蟹チャーハンが冷めないうちに、食っちまおうぜ」
「そうですね、先に食べてしまいましょうか」
そう言いながら、ショーンは蓮華を口に運び、次いで、コップに手を伸ばす。
ジャーラも呟きながら、音を立てずに蟹をよく噛んで、甘い肉汁を味わう。
そうして、全員が蟹チャーハンを食べ終えて、代金を支払って、店を出た。
「リズの言ってる公園は、あっちだ? まあ、行ってみるか」
「そっちですか? 私は、よそ者ですから、この都市全体の地理が、分からないので」
店の前で、ショーンは左側に向かっていき、ジャーラは彼に着いていく。
すると、小さな公園が右側に見えてきて、奥にあるベンチに、リズが座っている姿が目に入った。
「リズ、その事務所の場所は何処にあるんだ?」
「この区域の外れね?」
ショーンから、離れた場所にある事務所を尋ねられた、リズは立ち上がり、そこに案内していく。
「そうそう? そこに行くまで少し時間がかかるから、説明しておくけど、観光街のビーチには近づかないでね」
「ビーチには、何かあるのか?」
「気になりますね?」
歩きながら、リズは後ろの仲間たちに、気になる事を語り出した。
ショーンとジャーラ達は、それを聞いて、いったい何だろうと思いながら、彼女に着いていく。
「豪華客船よ? どうやら、ゾンビの殲滅やバリケードの構築で、ここは安全になったけど、向こうは数百体のゾンビが、満載されているらしいわ」
「何だって…………つまり、乗客や避難民の殆どが、ゾンビに変わってしまったと言うのか?」
ビーチに停泊している、巨大な船に驚異があると、リズは真剣な顔をしながら淡々と語る。
ショーンは、船内に閉じ込められた溢れんばかりのゾンビ達を想像して、目を見開いて戦慄する。
「そこは、近寄らなければ、問題は無いだろう? 下手に刺激しなければ、ゾンビも来ないだろうしなっ? 来たら、注射器ではなくピストルを射ってやる」
「そうなんだろうが? それより、調査隊が向かったのか? それで、ゾンビの姿を確認したワケか」
「ゾンビの相手なら任せなっ! 例え、大群で向かってきても、私ならドンドン斬り伏せるからねっ!」
「私もです…………女侍として、薙刀を振るいまくって、敵をバッサバッサと切り裂いてやりますっ!」
話を聞いていた、ゴードンは自信満々に鼻息を鳴らして、意気込む。
テアンは、両腕を組ながら歩き、冷静な顔で、地面を眺めながら呟く。
勝ち気で、好戦的なカーニャは、ドンッと胸を叩いて、敵との戦いを待ちわびる。
火炎薙刀を背負うサヤも、ゾンビを
「そう、調査隊が向かったらしいわね? しかし、元から乗船していた客と、既に感染していた避難民が合わさった数百体のゾンビよ…………来たら、民間人を守るために戦うしかないけど、できれば戦いたくは無いわね」
「同感ですね? ワザワザ戦う必要がないなら、それに越した事は有りませんから」
彼等の会話を聞いて、リズとジャーラは、大量に飛び出してくるゾンビ達を警戒する。
いざ、そう言う事態に成った時を想定する二人は、真剣な顔をして話す。
「しかし、こっちにも事務所があるとはな」
「警備用じゃなくて、通常の事務所だけどね」
ショーンとリズ達は、中華街から離れた古いアパートが、立ち並ぶ場所にまで来た。
事務所は、石造りで、それなりに大きく、中世の要塞を思わせた。
「中は新しいわ、それに仕事仲間も常駐しているから、彼等に挨拶しないとね」
「そりゃ、そうだわな? 誰が居るんだ? こっちの警備は、任された事がないから誰が居るのか知らないが?」
二階建ての建物を前にして、リズは玄関へと向かっていき、ショーンも続く。
「会えば、分かるわ? 今居るのは、スケルトンのバート、リザードマンのラザーラ、冒険者のクロードだけね」
「そうか、挨拶しないと成らんな」
そう言って、リズとショーン達は、中に入っていき、室内を見てみる。
ここは、内装が、木製の床と天井で出来ており、
壁は黒いプラスチックだった。
部屋は、白い光に照らされており、非常に落ち着いた雰囲気だった。
そして、正面の木製カウンターに、黒いスーツを着ているスケルトンが見えた。
「おや、リズさん? 皆さんを連れて来たんですね?」
「そうです、それで彼等を奥に通したいんですけど?」
スケルトンは、リズを歓迎して、カタカタと笑うように顎を動かす。
「ええ? それは構いません…………皆さん、バートと申します? 私は事務職ですので」
「まあ、宜しくな? 俺はショーン、他の面子は俺を助けてくれた仲間たちだっ! だから、社員じゃないが、ここで済まないが世話になる」
「宜しく、お願いいたします」
「済まない…………泊まらせて貰う代わり、俺は医者だから、負傷者が出たら面倒を視させてくれ」
カウンターに座るバートは、ショーン達に名前を丁寧な態度で名乗った。
それに対して、ジャーラは礼儀正しく頭を下げて答え、ゴードンも申し訳なさそうな顔を見せる。
「はい、その時は頼みますねっ! では、彼方へ」
「みんな、着いてきて」
バートと別れてから、リズは彼が手を向けた右側の廊下に向かっていく。
そうして、奥に向かうと、幾つかのドアがある場所に来た。
「ん~~と? 右側は、ここの警備チームが使って居るからね? 左側が来客用の宿泊部屋になるわ」
「なるほど、ここがな? 結構、快適そうな場所に見えるな」
リズが部屋のドアを開けると、ホテルにあるような綺麗なベッドが左右に、二つずつ並んでいた。
ショーンは、それを見て、もっと古い感じがすると思っていたので、目を丸くして少しだけ驚いた。
「あとーー? それから、反対側には、待機室があるから? 向こうには、ソファーやテーブルがあったわ」
「じゃ、そこで、今晩は皆で出前を頼むか? あ~~! でも、今は無線機しか使えないのか?」
「スマホ、ケータイなど使えませんからね」
「んじゃ、夜店に行くしかないけど、ここら辺りの事は、私たちは分からんのよね~~」
反対側にある部屋の事を、リズは皆に教えながら、天井を見て呟く。
それを聞いて、ショーンは理由が分からないが、連絡手段が、限られている事を思い出す。
ジャーラは、ルビーを取り出すが、そこに写し出された画面には、アプリを見せるだけで使えない。
カーニャは、出前が無理なら外出しようと思ったが、土地勘が無いので困った表情になってしまう。
「それなんだけど、今は緊急事態だし、冒険者や警察官には自警団として、働いて貰ってるから、無料で飲食物が、出前に提供されるらしいから、夜は店に行かなくてもいいの」
困った様子の皆を前にして、リズは彼等を元気づけるべく、直ぐに笑顔で朗報を伝えた。
「好きな物が食べたくて、どうしても店に行くって、時は自費になるけどね?」
「なるほど? だったら、今晩は待機室で、出前が来るのを待つしかないか」
「取り敢えず、飯と寝床が与えられたんだ…………文句は言えないな? あと、やっぱり狙撃手は必要か」
「戦いは望むところですが、先ずは腹を満たさないと、戦は出来ませんからね」
さらに、説明を続けるリズに、ショーンは両腕を組ながら目を瞑り、夕食は何だろうかと考える。
明日は、見張り役などに駆り出される可能性があると、テアンとサヤ達は考慮する。
「まあ、そうね? それから、ショーンを含む皆は前線で戦うにしろ、後方勤務にしろ? ルドマン商会を通して、一応は自警団員として、扱って貰えるらしいわ」
「まあ、ここも物騒に成ってきているらしいからな? 安全な場所に来れただけでも、満足するしかないか? それに、ゾンビやチンピラが暴れるなら、冒険者として黙っては居られないしな」
リズの説明を聞いて、ショーンは戦いを面倒だと、やはり思う。
だが、同時に町の人々を守るためならば、どんや強敵でも倒そうと考えた。