ショーンは、静かな深夜の小部屋で、段ボール箱で作られた簡易ベッドに寝そべり、悩んでいた。
「ふぅ? カラチス、パルドーラ…………ナカタニさん」
窓の外では、潮風が木や葉などを揺らして、廊下を行き交う、冒険者たちが巡回する。
そんな中、ショーンは倒れていった仲間たちや、ゾンビ化してしまった恩人を思い出す。
「連中が居なきゃ、今の俺は居ない…………ナカタニさんは、ずっと美味いラーメンを食わせて貰った」
ショーンは、眼を瞑りながら、死んだ人々を偲び、涙を流しながら深い眠りについた。
「アハハ、ゾンビが来るぞっ!」
「にっげろ~~!!」
「こら、待ちなさーーいっ!?」
子供たちの笑い声が、耳に心地よく響き、リズが騒ぎながら走る様子が伺えた。
「はっ! ゾンビだとっ! いや、子供か」
すぐに飛び上がり、ショーンは武器と防具を構えながら、部屋から顔を出す。
しかし、ゾンビではなく、マンドラゴラとアジア系の子供たちが、どうやら悪戯をしたらしい。
彼等の逃げている後ろ姿と、リズが走っている足音が背後から聞こえてきた。
「リズ、何があった」
「アイツら、私の尻を叩いたのよっ!」
ショーンが追跡する理由を聞くと、リズは顔を真っ赤にしながら答えた。
「はあ…………マセガキがっ! リズ、あんなガキ連中は放っておけ? アイツら、アホなんだからっ! それに、これから本当のクズどもを殺しに行くんだからな」
「ま、まあ、そうね? はぁーー! つい、大人気ない事をしてしまったわ? でも、後で叱っておかないと、彼等のために成らないわ」
ショーンは、子供よりも海トカゲ団員の始末が、重要であると、眠たげな目で言う。
リズも取り乱したと思ったが、子供たちを真面目な大人にするべく、二人を注意しようと決意した。
「まあ、確かに
「でしょう? チンピラや海トカゲ団員にさせないためにも、きちんと今から教育しないとね」
二人で、長い廊下を歩きながら、ショーンとリズ達は階段を目指していく。
「武器は用意したか?」
「準備完了ですっ!」
「腹が減ったな」
「さっき、食ったばかりでしょうっ!」
右側の部屋では、隊長が兵士たちに命令を下し、部隊員を集めている。
左側の部屋からは、太った白人冒険者と黒人女性冒険者たちが、話す声が聞こえてきた。
「空は暗いな? 日が射さないし、寒そうだな」
「本当にそうね? なんだか、寂しく感じるわ」
屋内の喧騒とは、裏腹に、廊下奥にある窓を眺めると、外は重い雲に覆われていた。
「ショーン、でも絶対に、カラチス、パルドーラ達の仇を討ちましょうっ! スバスも今日は二人のために派手に暴れてやると言ってたわ」
「そうだな、天候が悪いからと言って、俺達まで暗くなる必要は無いなっ! リズ…………やっぱり、お前も、スバスも、死んでいった連中の仇は討ちたいよなっ!」
「よし、それじゃあ、行くかっ!」
「ええっ! あ、私は仲間たちを外に集めてくるわ」
ショーンとともに、リズは歩こうとしたが、いきなり用事を思い出して、眼を見開いてしまった。
「ショーン、まだ朝食を食べてないでしょう? 先に私達は東側の駐車場に行ってるから、はやく来てね?」
「分かったぜ? じゃ、俺は軽食だけで済ましておくわ」
そう言って、リズは先に階段へと向かっていき、ショーンは食堂へと歩いた。
「はあ…………
そう言いながら、ショーンは腹を擦りながら、長い廊下を歩いていく。
彼は、外の空気を吸って、疲れきった体から、中々ぬけない眠気を覚まそうと考えたからだ。
「町は、安全な雰囲気を取り戻したか? ん?」
ショーンは、ビルから外に出ると、向かい側の店内で、楽しそうに食事している母子を見た。
「はい、食べてね」
「うん」
その時、テーブルに座っていた子供が、母親に向かって夢中で話している様子を耳にした。
「ジャック君も、きちんと野菜も食べないと、大人に成れないわよっ!」
「うんっ! 僕、野菜を食べて、大人になったら、冒険者になるんだっ!」
二人が話す言葉が、ショーンの心に何かを呼び起こしたらしく、彼は天を仰いだ。
「あの二人のためにも、ヒーローは、悪党をやっつけなきゃ成らないなっ!」
純粋な夢や希望が、ショーンの英雄心や冒険心を刺激して、彼を励ました。
「さて、そうと決まれば、悪党退治の前に食堂に行くぜっ!」
ショーンは急に振り返り、すぐに建物の中にある食堂へと戻っていった。
「はあ、食パンとワカメのスープ、エナジードリンクも飲んだから、力が
あれから時間が立ち、ショーンは腹を満たして、仲間が待つ集合場所を目指した。
バリケードを上がり、安全区域から外に出た、彼は駐車場に飛び降りた。
「ガソリンで、焼き尽くさないとな? 酷い腐敗臭だ」
「コイツら、ゾンビか、海トカゲ団員か? それとも味方か、見分けが判別できん」
「迂闊に近づくなよっ! まだ、ゾンビとして動くかも知れないからな」
「やるなら、槍で突き刺すか、火炎魔法を使わないとな」
赤バンダナの茶色いゴブリンBB団員は、ポリタンクを持ってくる。
紅いスカーフで顔を隠している、アジア人のBB団員も、大鉈で、無数に転がる死体を警戒する。
青アリ人間は、ショートスタッフから炎を噴射しながら、死体を焼き払う。
アジア系男性は、物干し竿に巻き付けた、包丁槍て、海トカゲ団員の遺体を突っつく。
「これも、焼き払うぞ? 準備いいか?」
「ええ、離れて…………行くわよ」
大型オオトカゲの遺体には、グレイブで突っつかれた後、白人冒険者が、ガソリンをかける。
そこに、ピンク色の黒マントを着ている女性らしき、スケルトンが火炎魔法を両手から放ち始めた。
「待ってくれ、コイツらは一緒に頼む」
ショーンは、ガビアルの首を蹴って、彼がゾンビ化していないか、確かめる。
そして、頭と遺体を引き擦りながら、大型オオトカゲへと運んでいった。
「なんだ? お前は…………誰だ?」
「作業の邪魔しないでくれない?」
「いや、コイツの昔馴染みでな、敵とは言え、最後の願いを聞いてやろうと思ってな」
白人冒険者とピンクのスケルトン達は、いきなり現れた、ショーンを
「最後は、ペットの…………ガートだったか? このトカゲと焼いてくれだとよ」
「遺言か?」
「仕方ないわね、さっさとしてよ」
ガートの側に、首を載せた遺体である、ガビアルを置いて、ショーンは直ぐに離れた。
それを見て、白人冒険者とピンクのスケルトン達は、文句を言いながらも、火葬を行う。
「じゃあ、燃やすぜ」
「殺るわよ」
「ああ、済まないな」
白人冒険者は、草焼き用の火炎放射器で、ガビアルとガート達を、炎で包み込んだ。
ピンクのスケルトンも、両手から火炎魔法を噴射して、遺体を真っ赤な火で燃やす。
その様子を、じっと伺いながら、ショーンは様々な気持ちから、ようやく安堵する。
彼の悩みは、死体が黒焦げになっていく度に、少しずつ解消されていくのを感じた。
「はあ、ガビアル? お前は敵だし、憎い奴だったが、これで約束は果たした…………今度は、化けて出るなよ」
ショーンは、呟きながら、ガビアルとガート達の遺体に背を向けて、離れていく。
「ショーン、ここに居たのね? 彼とは、知り合いだったの? ワザワザ、遺体を運んでたけど」
「部隊は、違うが? よく顔を合わせてはいたな…………会話は、余りしなかったけどな」
そこに、リズが現れたので、ショーンは海トカゲ団在籍時代を思い出す。
ガビアルは、ライルズの部隊に所属していたため、たまに会話する事はあったが、それだけだ。
「まあ、これで、奴も安らかに眠っただろう、それより、待ってる連中の元に行こう」
「そうね…………みんなの仇と、海トカゲ団の壊滅が何よりも優先しなきゃ成らないからねっ!」
こうして、ショーンとリズ達は、仲間たちが待つ場所へと向かっていく。
二人は、これから最後の戦いに備えて、気を引き締めながら歩いていった。