ショーンとリズ達は、豪華絢爛な応接室から逃げて、廊下に出ていく。
「よし、右は? ゾンビだらけだっ! この部屋は鍵が…………なら左に向かうかっ!」
「左からは、防弾兵が来ているわ」
「何としても、敵を押さえるっ! 防弾兵が来るまで、持ちこたえるのよっ!」
「この数では、押しきられてしまうっ!」
ショーンは、左右に首を振って、すぐに左側へと駆け出していった。
その背中を追って、リズも素早く、マジックロッドを抱えながら廊下を疾走する。
HK416を連射して、弾倉を取り換えながら、銀髪ポニーテールの海トカゲ団員は叫ぶ。
オークの海トカゲ団員は、両手でグロック17を握り、機銃掃射みたいに連射する。
スピットゲロー、ファットゲロー、マッスラー等を含むゾンビ達の大集団が走ってくる。
それに、左側の部屋から何人か、海トカゲ団員が飛び出てきて、銃撃や魔法を放つ。
「どうやら? あそこは、バリケードで防ぐ積もりらしいな?」
「前方にも、防弾兵たちが見えるわっ! まだまだ、敵は多いわっ!」
ショーンは、後ろを振り返り、ソファーや棚を運ぶ海トカゲ団員たちを見た。
リズは、十字路の左側に向けて、銃撃戦を行っている防弾兵たちを目にした。
「下がれ、エリート兵は何処に行ったんだっ! 連中なら、魔法も銃撃も平気だろう」
「とにかく、撃ちまくれっ! ぎゃああああっ!?」
「ガトリングガンだっ! 何発も喰らったら、貫通してしまうぞっ!」
「ダメだっ! タワーシールドでも防げないっ!」
ショーンとリズ達は、敵と戦う部隊を走りながら眺めるが、かなり苦戦しているようだ。
棚を橫だけでなく、後ろに三列も置いて、連中は敵の銃撃や魔法攻撃を防いでいる。
小弓から矢を連射する、青い漢服を来ている中華系の海トカゲ団員は、身を低くする。
ミニミから、銃火を吹かせ続ける白人の防弾兵は、連続で放たれるガトリングに殺られてしまう。
アラブ系の防弾兵は、弾切れしたため、撃つのを止めて、ミニミを抱えたまま床に伏せる。
タワーシールドに隠れながら、青髪白人の海トカゲ団員は、ステッキから氷結魔法を連発する。
「ここは、先を急ぐっ! 戦闘は無視だっ! 奴らが死ぬなら構わんっ!」
「そうねっ! 私たちの最優先目標は、敵の司令部を攻撃する事だしいっ!!」
「うぐっ! AK弾と魔法がっ! ぐわ?」
「反撃するわよっ! 後方に負傷者を連れてって」
ショーンは、リズを連れて、十字路を右に曲がっていき、どんどん最前線から遠ざかってゆく。
その間も、二人は流れ弾が当たらないうちに、廊下を必死で走り、奥へと逃げていく。
彼等が、逃走している事に気がつかない海トカゲ団員たちは、敵と交戦を続ける。
防弾兵は、絶え間なく発射される弾丸と雷撃魔法に肩を撃たれて、後ろに倒れてしまう。
青いターバンを巻いているインド系ワーウルフ女性は、虎型砲デグから、火旧を連発する。
「右に曲がるぞっ! いつまでも、背中を見せていたら、流れ弾に当たってしまうからなっ!」
「じゃあ、ここからは部屋を通りましょうっ! ここなら開くわっ!」
戦場を切り抜け、海トカゲ団の後方部隊を叩くべく、ショーンは曲がり角を左側に進む。
そして、リズは右側のドアを開き、室内に突入していくと、そこは広い食堂だった。
「誰だ、貴様らはっ! 敵の変装かっ!」
「いや、違うっ! 後退命令だっ! それを伝えに走って来たんだ」
「無線が壊されたり、故障したり、最前線が混乱しているのよっ!」
グロック17を向けてきた、白衣を着ている、ミイラの海トカゲ団員は、二人を怒鳴る。
おそらくは、医者や衛生兵だろうと思った、ショーンは出鱈目を話す。
リズも、適当な事を言って、何故ここに来たのかと言う、理由を、でっち上げる。
そうすると、奴は再び負傷者を治療するため、銃を下ろして、下がり始めた。
「そうか、だったら、この場を死守するんだなっ!」
「いや、後方に援軍を呼びに行かなくては成らないんだっ! 敵部隊だけでなく、ゾンビまで迫っているっ!」
「そうそうっ! もう、そこまで、敵が迫っているのよ?」
ミイラの医者は、床に寝かされた負傷者を手当てしながら、二人に留まるように命令する。
だが、ショーンとリズ達は後方に行って、敵の司令部を破壊するか、指揮官を殺害する目的がある。
「だったら、エルフは残れっ! お前が援軍を連れてこいっ!」
「はいっ! 仕方ないが、俺が先に行ってくる、お前は負傷者を頼むぞ」
「分かったわ、私は手当てを手伝いながら、ここで殿をするわ」
ミイラの医者は、命令してきたので、ショーンは仕方なく、リズを残そうとするしかない。
「リズ、頼むぞ…………」
「ショーン、こっちも頼んだわよ」
ショーンは目配せすると、早々に反対側のドアへと向かっていき、リズは負傷者に近寄る。
「ふぅ? 一人だけの戦闘かっ! だが、それでも冒険者として、やる事を、やるだけだっ!」
「こっちから、アリ人間が来ているっ!」
「連中を止めに行くぞ、とにかく走れっ!」
ショーンは、次のドアを開けて、部屋を通って行こうとするが、そこに海トカゲ団員たちが現れる。
左側に見える十字路では、キリギリス人間の海トカゲ団員が、ベレッタを撃っている。
さらに、奴の上では、天井に取り付けられた紫水晶が、レーザーを放っていた。
右側からは、ロングソードとヒーターシールドを持っている、エリート兵が走ってくる。
「ここは、オフィスに成っていたのか? こっちは武器保管庫か? 懐かしいな…………」
ショーンは、海トカゲ団員や警備システムを無視して、ひたすら前に進み続ける。
オフィスでは、騎士型ロボットやゴーレム等と出会い、廊下では様々なゾンビを見かける。
「混乱しているし、押され気味だな? おっ! ここが、後方司令部か?」
そう呟きながら、ショーンはドアを開くと、ついに裏側ホールへと飛び出た。
ここには、大量の物資と武器が置いてあり、棚や土嚢まで積まれて、バリケードが構築されている。
当然ながら、海トカゲ団員が大慌てで、弾薬箱を運んだり、木箱を持ってくる。
さらに、陣地には、M2ブローニングが三丁ほど、三脚に載せられていた。
「おいっ! お前、何しに来たっ! 敵前逃亡は、即座に射殺するっ! その格好から察するに、バイトで雇われた、チンピラ社員かっ!」
「た、隊長っ! ここには援軍を呼びに来ましたっ! また、各所が敵やゾンビに突破されつつ有りますっ! 自分は武器弾薬を取りに来るように言われたから来たんです」
青いベレー帽を被る白人の指揮官から、ショーンは先程と同じような罵声を浴びる。
彼は、何時も着ているカーキー服の上に、ベストを着用して、帽子を頭に被っているだけだ。
つまり、中途半端な服装なため、向こう側から見れば、下っ端が勝手に逃げてきたように思える。
そして、多数存在する、エリート兵や防弾兵から睨まれて、クロスボウや魔法武器を向けられる。
「無線機は壊されるわ、無事なのは故障するわ、かなり最前線は混乱していますっ!」
「なら、弾薬箱を持って、今すぐ走れっ! 直ぐに定位置に戻り、死守してこいっ!」
ショーンの言い訳を聞いて、指揮官は彼を叱責しながら、棚の上に置いた水晶玉に目を向けた。
「分かりましたっ! では…………」
命令を素直に聞いた振りをして、ショーンは左側にある弾薬箱が、山積みにされた場所へと走る。
「…………よしっ! 梱包爆薬、C4、火炎瓶、グレネード、派手な花火が上がるぜ」
ショーンは、弾薬箱を拾う次いでに、時限爆弾のタイマーをセットする。
さらに、火炎瓶とグレネードを幾つか入手すると、何気なく部屋に戻ろうとする。
「では、私は前線に戻りますっ!」
そう言って、部屋から最前線に戻る振りをして、そこから彼は火炎瓶を、そこら中に投げた。
さらに、グレネードを転がしまくり、バリケードは連続して、爆発による炎と煙に包まれた。
「やったか?」
室内に入った、ショーンはドアの右側から、敵が反撃して来ないか、慎重に様子を伺っていた。