円卓に六人が着席した。
シャルロットから右にニーナ、ザザ、ディーン、サクラ、カーディナルの順番で腰を下ろす。
『では、これより第一回『魔女の茶会』を開催する』
カーディナルは仰々しく宣言すると、彼は右手を円卓からみた天井へ突き出した。
するとそこから突如黒い影が現れ、それはゆっくりと円卓の中心に降下する。
「モノリス?」
それは浮いている黒い長方形だった。
カーディナルはモノリスに対して言葉を続ける。
『六の者、集められる。六の卵、集合する。六の願い、結集する』
彼が唱えると――モノリスに青い光が走り、全く読めない文字が次々と浮かび上がる。
『――魔女よ、応え給え』
カーディナルが最後にそう云い、モノリスに最後の大きい文字が現れた。
その文字は数秒間映し出された後、静かに粒となり消えた。
そうして特徴的な声が響き渡る。
【思っていたより早かったわね、カーディナル】
それは声色から女性であることが分かる。
だが、声はモノリスに振動として伝わっているせいか、不思議と歪んで響いていた。
なので、今モノリスを用いて語り掛けている人物が、どの魔女なのか分からなかった。
『さて、あとの司会はお任せするよ。魔女』
とカーディナルは腰を下ろして息をついた。
モノリスに視線が集まる。
シャルロットの背後で円卓をみつめるカルとオト、そしてベニもその流れを見届ける。
【うふふ。さて、魔女の卵の皆様方に改めまして、茶会へようこそ。君たちには最高級のおもてなしを行おうと考えている。心の準備はいいだろうか?】
モノリスを通して喋っている人物がどの魔女なのかは不明だったが、やけに気取った言い方はシャルロットに既視感をもたらした。
「ふん。それにしても茶会というにはちと無機質すぎると思うが?」
とはディーンの言だ。
「もっとこう、茶会っていうならのどかな丘の上とか、王宮のベランダみたいな場所にしてほしいぜ。こんな殺風景な場所で、楽しんで茶を飲める気がしない」
【一理あるわね】
モノリスはディーンの言葉を肯定した。
――突如、真っ白い世界が暗転し、豪華な社交界のような様相で世界は再構築される。
頭上には豪華なシャンデリアが吊るされ、赤色の絨毯が円卓の下を通った。
「これは……」
【こういう感じかしら。それとも】
モノリスが合図するとまた世界は姿を変える。
山荘のような場所で焚火を囲みながら、魚を焼いていた。
焼き魚のさわやかな匂いが全員の鼻を刺激する。
綺麗な音色のオルゴールが綺麗な旋律を演奏し始めた。
「へえ、美味そうな匂いがしやがる」
とベニは興味深そうに一連の光景を見て、ざらざらな髭を右手で撫でた。
カルは景色の変化を目の当たりにし、目を輝かせた。
「これが、魔女の結界……」
「これはいいな。茶会ってよりは野宿だが、趣がある気がする。ありがとう」
【気にすることはないわ。それで、】
モノリスは声を潜めて呟くと、間を作ってから。
【これより、魔女の茶会を開始します。静粛に秩序を持って、推し進めましょう】
*
まず、各々の自己紹介を改めた。
「わ、私の名前はシャルロット。穹の魔女から卵を貰った旅人です。いつもは仲間のカルと、お使い屋という名義で活動しています」
「ボクは探偵! ニーナ・ヴァレンタインって言いまーす! 武器の魔女からオトを貰ったよ!」
「俺の名前はザザ・バティライト。傭兵をしている。武器の魔女から卵を貰った」
「俺はディーン! そちらのシャルロットさんと同じ穹の魔女からだ。職業『勇者』! 厄介事は俺に任せろ!」
「我の名はサクラと云う。流浪の者でギルドに属し、日々悪食(魔物)を成敗している。武器の魔女から授かった」
『わたしの名はカーディナル。研究者だ。黒魔術の解明、魔女のシステムに詳しいと自負している。いつもは孤島で右腕たちと暮らしている。植物の魔女から卵を受け取った』
と六人目の自己紹介が終わったところで、シャルロットは周囲を見回した。
(どの魔女から卵を貰ったかふんわりと気になっていたけど、
穹が私とディーン、武器がザザ、ニーナ、サクラさん。そして植物が、カーディナル。
死の魔女はいないのね。何か理由でもあるのかしら? にしても……)
シャルロットは順番に一人一人の顔を観察していき、異変がないか吟味した。
(怪盗ジェイ。今のところ一切尻尾を出さないけど、
彼がこのラカイムに来ている可能性は高い。どうやって関わる気なのかしら)
【自己紹介は済んだようだねぇ。では、最初の話題だ。『聖都ラディクラム、司教について』】
まだ不明瞭な事や理解が及んでいないことが多々あったが、時間はそれを待ってくれない。
こうして魔女の言葉により、茶会が始まった。
【聖都ラディクラムは魔女の卵へ接触し、その『焼印』の捕獲を目指している。その目的は具体的な事が判明していないため、一概には言えない。だが、彼らがその『焼印』に興味を示していることは分かっている。先の戦闘――シャルロットたちがオリアナで二人の司教と交えた】
話を聴いていると突然名を呼ばれ、全員の視線が自分に注がれた。
少しだけシャルロットは赤くなる。
【聞かせてほしい。奴らはどんな手段で目の前に現れた?】
と、シャルロットは問われる。「はい」と応えてから、自分なりに言葉を模索する。