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6「“掟”が平和を想像させる」

「なんだと?」


 突然の言葉にザザが零すと、同時に遠くの方で地鳴りのような揺れが起った。

 【急襲だ。結界に誰かが侵入した】というモノリスの台詞は、全員の精神を釘付けにした。

 同時に起こった揺れも、その侵入者の説得力を強めて緊迫感を生み出す。


「カル!」


 シャルロットがカルの名を呼んだ。カルはシャルロットの横へ急いで移動する。


『おかしいな。結界へ突撃するのは自殺行為のはずだ。魔女よ、あちらの状況は?』


 カーディナルはそう冷静にモノリスに視線を閉じると、モノリスは間を作ってから云う。


【カーディナルの言う通り、天地創造の可能なこの結界への突撃は、自殺行為です。でも、何かがおかしい】

『おかしい? 何故だ。逆にこちらが侵入者を捕獲してしまえば――』

【結界の制御が徐々に出来なくなっている。もう一部が崩壊して……】

『……なんだと?』


 カーディナルは目を見開いた。

 魔女の結界の強力さはよく知っている。

 故に、その結界を逆に操り、そして制御を魔女から奪う……。


 この技術は、まさか――!

 シャルロットの脳内に二文字が浮かんだ刹那、突如、円卓のモノリスの目の前に亀裂が走った。

 空間にヒビが走り、破裂音が響き渡ると共に閃光が目を潰した。


 (耳鳴りがする。目も開けない。何が起こった⁉)


 混乱しながらも耳鳴りはゆっくり収まっていった。

 地面に手をついていたシャルロットは、ゆっくりと目を開いて表を上げた。

 ――空間は酷くひずんでいる。

 先ほどまで広がっていた山荘の景色が一変し、最初にこの部屋に来た時のような無機質な白い空間へと戻っていた。

 周囲を見回し、そしてモノリスがあった場所へ頭を向けると、


 そこには知らない人が、モノリスと同じ高さで浮いていた。


「誰?」


 シャルロットの言葉にその人物は振り返る。


 長く美しい金髪に黒色の修道女のような姿、それはあのシスターとも似ているが、どこか雰囲気が違った。

 彼女から感じる雰囲気はシスターより荘厳で、豪華で、キラキラしていた。

 彼女は丸い黒目をシャルロットに向ける。

 長いまつ毛を伸ばし、生気のない瞳でシャルロットをじいっと見つめる。


 ――生気のない瞳で、見開いた目でシャルロットを見ている。


「…………」

「――――ぇ」


 彼女は突然、切り裂いたような微笑みをシャルロットに見せた。

 ぞっとしてシャルロットが声を漏らすと、彼女は浮きながら口を開いた。


「“掟”が平和を想像させる」


 唱えると、彼女の頭上に金色の魔法陣が回った。

 その光輪は神々しい閃光を発し、そしてモノリスに向かって彼女は、言葉を投げかけた。

 同時に空間がまたひび割れ、シャルロットや他の卵は何かに引っ張られるような感覚に陥り、咄嗟にシャルロットはカルの手を握った。


 空間から切り離された。

 視界には遠ざかる円卓があり、自分がどこかへ飛ばされている感覚があった。

 シャルロットのみならず、全員が別々の場所に移動させられているようだった。

 意識が途切れるその瞬間、彼女の声が聞こえた。


「私の名はエナ。『秩序』の大司教と云います。やっと会えましたね、魔女――」


 そう。魔女の結界に侵入したのは他でもない。

 第一の司教、『秩序』だった。


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