※ディーン視点
目が覚めると、ディーンは知らない場所に立っていた。
『鏡の迷路』とでも言うべきか分からないが、とにかく自分が目の前に反射していた。
見回すとその場所は、どこもかしこも鏡が設置されており、迷路のように入り組んでいるのが見て取れた。
「おいおい、なんだここ」
ディーンは頭の後ろを掻いて困ったように声を落とした。
すぐに自分の腰のポーチに巣くう自身のグレーとオレンジ色をした使い魔のドラゴンを呼び出し、高い場所から周囲を偵察させた。
だが目立った情報はなく、上へ移動しても天井に到達する気配もないし、どこまでも壁の鏡が伸びていることが分かった。
「魔女の結界、ではあるんだよな。そういえばここ、『鏡の間』とか名前がついてたっけ。もしかして、その『鏡の間』っていうのがここか?」
腕を組んで首を傾げるも、しかし、答えはみえない。
とにかく今が異常事態であることは分かっている。
「『秩序』の司教ってことは、第一の司教ってことか。司教なら、魔女の結界を逆に乗っ取ることもできるのかもしれない。つまり、俺たちは今、孤立させられたってわけか」
(そして隔離した孤立無援な俺たちを、各個撃破みたいな感じかね)
ディーンは冷静に状況を分析して、ポンと手をつく。
「なら、やる事は決まっているな。あの円卓目指して道を探すか、それとも結界から脱出する方法を探せばいい。簡単じゃないか。それに、物語としてよくできている」
と言い、ディーンは懐から手帳を取り出した。
彼はその手帳、『勇者の行く道』に自分の経験を書いて記録していた。
その理由は分からないが、それが彼の趣味みたいなものだった。
ディーンは手帳に書き込みながら歩き出す。
「敵の襲撃で隔離された勇者ディーンは、鏡の迷路を果敢に進んだ。円卓への帰宅、または脱出を目指し、勇者は素晴らしい一歩を進んで……ん?」
ディーンはぶつぶつと呟きながら歩いていると、目の前に人の気配がした。
「…………」
そこには灰色の長髪を垂らす、ジト目の少女が立っていた。
「……ええっと、こんにちは?」
「――――」
少女はじいっとディーンを見つめている。
とても可愛らしい顔立ちで、灰色のワンピースを揺らしている。
迷子。とも考えた。だが、妙にこちらを伺うような感じがする。
「あのぉ、そんなじろじろ見られても困るんだが」
「…………」
「聞こえてる? 喋れるか?」
「…………」
「弱ったなぁ。俺、内向的な子の扱いは慣れていないからどうすればいいか分からねえ。怖がらせたかな? でも、俺って別にベニみたいな強面でもないし――」
「……われわれは代弁者である」
「あらぁ?」