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10「四の瞳」

 ※ディーン視点



 眼前で神々しい光を纏い、なんかすんごい恰好になった灰色の髪の少女を見た。

 ディーンは目のやりどころに困っていた。


「なぜ目を逸らす?」


 少女は囁き声で訊いた。


「いやっ、肌面積ありすぎでしょ。見ない方が君の為かなって」


 少女は白衣を肩と腰に着てお腹と胸あたりは大事な部分は隠しているが、なかなか露出していた。

 ディーンは目を逸らしている。


「な、なんかキテクレ」

「私を舐めているの?」

「そ、そぉいうわけじゃないけどさ。てか、それが聖装? 君は何者?」


 ディーンはやっと少女の素性を尋ねたので、少女は息を落として名乗った。


「第九司教、『瞠目』のシトラス。あなたの力を――確かめに来た」


 シトラスと名乗る少女は右手をかざすと、ディーンの脇腹に黒い歪みが生まれる。


「――!」


 ディーンはぎりぎりのところで回避し、その場所に視線を戻した。

 するとその黒い歪みは、空間をねじり取ったように空白になっていた。


「第九の司教のシトラスさんね。意外だな。君みたいな少女も司教になれるのか」

「私は二十三歳だ」

「俺と同い年かよ」


 ディーンは落ち込んで肩を落とし、シトラスは頬を少し赤らめてディーンを睨んだ。


「おっと」


 続けざまにシトラスの追撃がディーンを襲うも、ディーンの軽やかな身のこなしにシトラスの攻撃は一向に命中しない。

 同時に黒い歪みを何個も展開しても、ディーンの素早いパルクールで避けられてしまう。


 (この攻撃に頼ってばかりだな。

 とはいえ懐に入ってダメージを与えるっていうのも何だかやりづらい。

 はあ、前に戦ったガディライカさんとかが良かったよ。

 今頃あの大男は何をしているんだろうな。

 この歪みの攻撃が聖装の能力?

 だとしても地味すぎるし、さほど強力でもなんでもない。

 さっき、あの子は自身を『瞠目』だと名乗った。

 第一、瞠目ってなんだよ。肩書で瞠目なんて聞いた事がないぞ……)


 ディーンは歪みの攻撃を避けながらも鏡の壁を蹴り、立体的に移動しながらシトラスの追撃を避け続けた。

 しかし、シトラスはその素早いディーンから一度たりとも目線を外さなかった。

 彼女はそうして小さく、そして長く息を吐くと、呟いた。


「―― 一の目」

「え?」


 突如、ディーンの体が重くなる。

 空中でバランスを崩し、ディーンは流石に懐から剣を抜き、鏡の壁に突き刺して地面への衝撃を緩和した。

 横を見ると、自分が抉った鏡の壁は切り傷にそって酷く割れており、それなりの分厚さがあった。


「……ねえ、何か言ったよね?」

「…………」


 ディーンはシトラスが、何かを行ったと理解している。

 だが今、自分の体に起こっていることが一体何なのかを掴めない。

 とにかく体が重かった。

 というより、あの俊敏さを失くしてしまったような気がした。

 ディーンは彼女が危険であると判断し、剣を構え、そして重いながらも強く地団太を踏みしめた。


「剣技、刺突流」


 剣を突き出し、ディーンは迷いなくシトラスへ突進した。

 だが剣先がシトラスの顔に当たる直前、彼女はまた息を吐いた。


「――二の瞳」


 刹那、ディーンは握っていた剣を手放した。

 というより剣を振るう感覚が、まるで泥の中を泳いでいるかのように鈍くなり、手放さずには居られなくなったのだ。


「は?」

「――三の目」

「黒魔術!」


 ディーンは自分の体に起こっている異常に混乱し、そんな中、右手を突き出し黒魔術を行使する。

「真天・『火葉』!」


 速度の速い火球が手のひらで形を成し、ディーンはそれをシトラシに向けて押し込もうとしたその刹那、


「――四の瞳」


 火球は霧散し魔術は術式を失った。

 ディーンはその行動で何かを察し、霧散した火球に後追いで魔力を放出する。

 すると、まだ残っている魔術式に魔力は行き届き、拡散された魔力は炎へと変わった。

 ディーンは手をつきながら後ずさる。


 すると、自分の体の異変が、更に分かりやすく表れていた。

 今度は体の重さは消えていた。

 体は軽くなり、いつも通りの感覚は帰ってくる。

 だが、ディーンはそんな事に反応できるほど余裕がなく、早々と自身の中の空白に気が付いた。


 (……おかしい。

 さっき使った『剣技、刺突流』と、黒魔術の真天・『火葉』が使えない……⁉)


 使えない。

 そう、先ほど繰り出そうとした剣技と、黒魔術が使えなくなっている。

 使おうとすると何故か魔力が突っかかったような感覚で止まり、上手く魔術が行使できない。


「私の聖装――」


 動揺しているディーンを見て、シトラスは囁くように淡々と語った。


「私の聖装『封印魔眼ベシュタウネン』は見た能力を『封じる』ことができる」

「何?」

「今、あなたが扱った二つの技を永遠に使えないように封印した」

「……」


「『目』は一時的な封印を意味する。『瞳』は完全な封印を意味する。これ以上、私と戦わない方があなたの為だと思う。あなたが人生で磨き上げて来た技を二度と使えなくするのは、いくら私でも心が痛い。――投降を、オススメする」


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