※ディーン視点
(ぜんっぜん距離を取れない!! てか技を封印ってあいつやばすぎだろ!)
鏡の世界で乱反射する閃光は、ディーンが扱う魔術である。
だがそれら多種多様な技は一度扱えば、すぐに彼女に封印された。
ディーンはつい数分前、自分の元にやって来た小さな光の粒を覚えている。
それは彼の耳元に移動し、そしてその声を届けた。
光の粒は耳元で囁く。
「私は魔女の魔力が模倣した精霊です。今、司教からの攻撃を受けています。彼らの目的は魔女との接触、そしてこの結界の破壊です。破壊されれば中にいる人々は同じ場所に放り出され、そこで司教たちに確保されます。カーディナルが先行して『脱出用のポータル』を作ってくれたので、そこへ向かってください。道案内はこの光がします」
やけに慇懃に語る精霊とやらに従い、鏡の道を走っているディーン。
既にカーディナルとザザ・バティライトが安全な場所にいると伝えられるも、そのほかの卵の安否が分かっていないのだそう。
「っつっても、俺もちとやばいけどな!」
脳内でハイテンポな音楽が流れた。
身軽な体でガラスの壁を蹴り、そして高度を上げていく。
だが次の瞬間、体は一気にだるくなってずるずると危険な落ち方をする。
「めんどくさいな!」
起き上がってまた走る。
ただ、この逃走劇も手帳に記している『勇者の行く道』の事を思うと、ほんの少しだけ楽しく感じた。彼はそういう性格だった。
*
※シトラス視点
「な、なんなのあいつ」
シトラスは灰色の髪を垂らしてぜえぜえと息を急ぎ憤慨している。
豹の様に飛び、鏡を反射する赤髪の青年は止まる事を知らず、身体の機能を奪っても魔術で攻撃し、身体の機能を奪い返す。
『目』の弱点に気がつかれてからずっとこの調子だ。
「魔術! 徹頭徹尾!」
またディーンが魔術を使った。
彼は迷うことなく魔術を乱発させる。
「――百七十五の瞳!」
また封印する。
でもあの男は、封じても封じても別の魔術を使ってくる。
それほど魔術を覚えている様には見えなかったのに。
あの男の知識はなんだ!
それも魔術だけに飽き足らず剣術も多種多様に覚えている!
何者なんだ!
とシトラスは規格外な男に激怒していた。
(ぜんっぜん勝てる気配がない!! あいつやばすぎだろ!)