目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

20『謎は解き明かされた』

 ※ニーナ視点


「――犯人は、この場所にいるよ」


 大きな揺れの後、聖装を着たまま椅子に着席していたジグラグラハムとカルの近くに、そのほかの容疑者であるシャティアとシャルロットが合流した。

 ジグラグラハムとカルはお互いに戦闘態勢のままだが、

 二人はここで戦う事より『このゲームを終わらせた方が決着がつく』ということを、

 ジグラグラハムは推測、カルはオトから聞いて理解している。


 だから二人は大人しく椅子に座り、ニーナの言葉に耳を傾けた。


「それってどういうこと?」


 と尋ねたのはシャルロットだ。


「つまり、犯人はこの五人の中にいるってこと? ありえないわ」

「何故ありえないのか、聞いてもいい?」


 ニーナはシャルロットをまっすぐ見つめる。

 その視線に気圧されたように、シャルロットは逡巡した後、ついに打ち明けた。


 停電時、地下の階段の入口で――クラーラを殴り階段から落とした『謎の男』を見たことを。


「でも……今、ここにいる五人の中に、その男はいないの」


 静寂が落ちる。


「ちょっと待て」


 ジグラグラハムが声を荒げた。


「つまりお前が言いたいのは、この五人以外にもう一人、男がいるということか?」

「た、多分」


 シャルロットはジグラグラハムの威圧に押されながらも肯定した。

 すると、ジグラグラハムは右手を机に叩きつけて左手を力み、それを否定する。


「違う! 犯人はニーナ・ヴァレンタインだ! それを今から証明してやろう!」

「証明の必要はないよ!」


 ジグラグラハムの声を遮ったのはカルだった。


「さっきニーナは言っていたよね? 弟を探していたって」


 「そんなのは出鱈目だァ!」ジグラグラハムは両手を振り下ろす。


「違うよ、ジグラグラハム」


 カルは冷静に言葉を紡ぐ。


「ジグラグラハム。お前はまだ、僕らが『さっき意識を取り戻した』と思っているみたいだけど……それは違う」

「何……?」


 ジグラグラハムは右目をぴくぴく痙攣させる。


「僕とシャルロットはニーナの弟、オトくんの存在を知っている」

「……!」

「僕に至っては、オトくんが屋敷のどこで隠れていたかも、知っている!」


 驚愕に目を見開くジグラグラハム。


「……やっぱり、隠れていたんだね」


 ニーナは呟き、カルは静かに言い放った。


「ジグラグラハムは知らなくて当然だ」

「……」

「君は僕らの仲間じゃない。敵だから」


 鋭い冷気を孕んだ言葉が、ジグラグラハムの心臓を貫く。


「ッ……だが!」


 ジグラグラハムは腹から声を上げた。

 彼はカルに言い負かされることに、何んとも言い表せない憤りを覚えていた。

 故にこうして、みっともなく憤慨している。

 「ニーナが犯人ではないという証拠はない!」ジグラグラハムは立ち上がって叫んだ。


「私はクラーラさんを瓶で殴った男を見た!」


 ジグラグラハムの言葉に呼応してシャルロットは立ちあがる。


「お前は虚言を口にするな!」


 ジグラグラハムは右手で空気を薙ぎ払い、惨めに騒ぎ立てた。

 彼は自分が負けかけていることに腹立たしさを覚え、そして激昂していた。

 その時である。


「うるさいな」


 ジグラグラハムの横に座って大人しくしていた――シャティアが、そう云った。


「……な」


 シャティアはこれまで見せた事がないような鋭い目つきでジグラグラハムを睨みつけた。

 ジグラグラハムは呆気にとられ、シャティアの態度の豹変にしばらく硬直した。


「やっぱり、そうだったんだね」


 ニーナが喋り出す。


「書斎から瓶を持ち出して裏口近辺に隠し、クラーラさんを階段前に呼び出して、停電を起す。そして隠していた瓶を持ち屋敷へ戻り、待っていたクラーラさんを殴って階段から落とした。そして、装を着直して声を荒げた」

「――――」

「君が犯人だ」

「まて」


 ニーナがシャティアを見つめながら淡々と推理を告げ、そして〆の台詞を言い放ちそうになった刹那、ジグラグラハムは静止を求めた。


 彼は既に冷静ではなかった。

 この領域では焦り、不安、恐怖は特に顕著に出るから、

 彼ももしかしたらそれに翻弄されているだけなのかもしれない。


 ああ、哀れな事に冷静ではないのだ。

 だからジグラグラハムは人差し指をシャティアに向け、

 自分が謎を解き明かす為に、犯人の名前を大声で叫んだ。


 彼の目算では、これでこの推理ゲームは終わり、自分が勝者になる。


「犯人は、シャティアだ!」

「……」

「……」

「……」


 はずだった。

 ゲームは終わらなかった。

 ジグラグラハムは何も言わず、一歩後退り、一言、失意を文字にして口から滑らす。


「嘘だ……」

「――犯人は」


 筋の通った声が、空間に反響した。

 そしてニーナは座っているシャティアの方を向いて、その名前を告げた。


「怪盗 ジェイ。君だ」


 どこか遠い場所で狩猟用のライフルが慟哭を上げた気がした。

 その音で森はざわめき、鳥たちは飛び立ち、そして一つの生命が狩られる。

 そんな音が、その場の全員に届いた。

 ジグラグラハムは次の瞬間、聖装の能力で空間を思いっきり破壊しようとした。

 この場にいる全ての人間を殺そうとした。

 だが寸前に、この推理ゲームの終了が告げられる。



『謎は解き明かされた』



 推理領域は閉ざされ、あの滝の近くで全員目を覚ます。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?