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第102話 ミネアでの再会

―――八雲とカタリーナ、エディスが部屋に閉じ込められた翌朝。


ディオネの悪ふざけから部屋の解錠条件がひとり十回というノルマ制に扉の条件が書き換えられていて、条件達成により鍵は解錠されたが疲れた三人は風呂で汗を流した後にそのままベッドで眠ってしまった―――


―――朝になり、八雲が目を覚ます。


そして三人で身嗜みを整えて昨夜の暴挙というよりも八雲に醜態を晒したカタリーナとエディスの悔いだけを残してその部屋から出るのだった―――






―――リオンのアサド評議会議事堂前の広場。


八雲とノワール、サジテールにスコーピオとジェミオスがその場に集って八雲からサジテール、スコーピオ、ジェミオスの三人に黒麒麟が渡された。


三人はメイド服の上から八雲やノワールと同じ黒地に金の刺繍が施されたロングコートを羽織って立っている。


そんな三人に鞍と手綱をセッティングして騎乗用装備を取り付けた黒麒麟三頭をそれぞれに与えて龍の牙ドラゴン・ファング三人に従うように命令を付与してあると説明し扱いは簡単になっていることを伝えた。


「―――調べて欲しいのはレオパールの動向と輸出を滞らせている品物をどうしているのかということ。本命はレオパール魔導軍の魔術研究所で何をしているのか、ルドナ=クレイシアは何を画策しているのかということだ」


すると八雲の任務オーダーを聴いていたサジテールが、


「―――その件は承知した。それと万一にも戦闘状態になった場合はどうする?」


「無駄な殺生は避けてもらいたいが、お前達の身に危険が及ぶなら―――すべて薙ぎ払え」


八雲の号令に皆が頷いて返した。


「―――了解した。ノワール様、再びお傍を離れることをお許しください」


「我はお前に八雲の補佐をせよと命じた。今回は八雲の指示だ。気兼ねなく行くがいい。だが、必ず戻るのだぞ」


「―――ハッ!!」


深々とお辞儀するサジテール。


「スコーピオとジェミオスも気をつけて。何かあれば『伝心』を飛ばしてくれ。すぐに駆けつけるから」


「―――その言葉ありがたく頂戴しよう。御子から与えられた任務、このスコーピオ全力で応える」


「―――ありがとうございます兄さま!あと帰ってきたらカタリーナさんとのこと、お話聞かせてください♪」


ジェミオスに見透かされているようで八雲は一瞬怯んだが、


「気をつけてな!」


そう言って三人が砂埃を上げる黒麒麟に跨ってレオパール魔導国へと向かう背中を見送っていた。


「それで?―――この後はどうする予定なのだ?八雲」


ノワールが八雲に問い掛けると、


「今日は昼頃にミネアへ行こうと思ってるんだ。今日定休日だけどティーグルから来た俺達のためにピッツァや他のリオン料理も用意して歓迎会してくれるってさ。シェーナもピザ好きだしな」


「おお~♪ いいではないか!お前が教えた秘伝のピッツァというヤツをまた是非とも味わいに行こう!」


美味しいモノ大好きノワールさんがご機嫌になったことを見て八雲も楽しみにしてミネアに向かうのだった―――






―――そして、リオン料理の店ミネアでは……


「ソフィー姉さん!タラのガーリックバタームニエルあがったよ!」


「―――ありがとうサリー。こっちも鯛の白ワイン蒸しができたわ♪」


「ソフィーさん。甘えびとホタテのカルパッチョはもうテーブルに運んでもいいですか?」


「―――ええ、お願い。大体テーブルも埋まってきたわね。後はピッツァを焼いていくくらいかしら」


カタリーナからリオンにまた八雲が来ている知らせを受けて、八雲が今日ミネアに顔を出してもらえるようソフィーとサリーがカタリーナに頼んでおいたのだ。


カタリーナからの使いが来て八雲が承諾してくれたとの知らせを受けてから、店の自慢の料理を従業員達も手伝って準備していた。


従業員達はミネアでピッツァが販売されるようになってからカタリーナが聖ミニオン女学院の学友達に声を掛けて、所謂アルバイトに誘ったところ、そこは商人の都市に住む将来有望な若者達だけあって人気商品のピッツァの店ということもあり、すぐに募集に人が集まった経緯がある。


今か今かと待ちわびていると、店の扉に付いているベルがカラン♪ カラン♪ と子気味良い音を響かせて開かれる。


カタリーナが扉を開いて八雲とノワールにシェーナ、ヴァレリアにシャルロット、ユリエルとエディスが入店して、その後ろからクレーブス、シュティーア、レオ、リブラ、コゼロークに葵御前、そしてジュディとジェナが来店してくる。


「―――いらっしゃいませ♪ ようこそ黒帝陛下」


「陛下はやめてくれサリー。ソフィーさんも元気だった?」


「―――はい♪ おかげさまで毎日忙しいですけど、とても楽しく過ごしています♪ カタリーナちゃんが集めてくれた手伝いしてくれる子達も、ホントに良い子ばかりで助かったわ」


「ソ、ソフィー姉さん?!そんな、わたくしは別に……/////」


ソフィーに感謝されたことが余程照れ臭かったのだろう、カタリーナが顔を赤く染めて俯く。


「おい八雲!もう食べてもいいのか?いいのだよな?どうなんだ?じゅるり♡」


「腹ペコノワールさんマジ可愛い。そうだな。皆グラスは回ったのか?」


「―――大丈夫です!!」


サリーの元気な返事を聞いて八雲がグラスを掲げながら一言挨拶をする。


「リオン料理の店ミネアが繁盛しているようで良かった。初めにピッツァを始めてからすぐにリオンを離れてしまったから様子が気になっていたけど、今は手伝ってくれている従業員達も優秀だと聞いて何よりソフィーとサリーの元気そうな顔を見られて安心した。これからもミネアを盛り上げていって欲しい!乾杯!!」


「カンパァ―――イッ!!!」


貸し切り状態の店内にあるテーブルに所狭しといった風に並べられたリオンの魚介料理は、どれも絶品の味付けで八雲はあれもこれもと味わって自分の料理レシピを更新していく。


ノワールもミネアの料理が気になったようで次々と皿の上の料理をモキュモキュ♪ と平らげていき、アルバイトの子達を驚愕させていた。


シャルロットとヴァレリアはピッツァが焼き上がると、喜んで色々な種類のピッツァに手を伸ばして食べ比べをしている。


ユリエルも―――


「この世界でピザが食べられるなんてぇ~!神よ!感謝します♪」


―――と泣きそうな顔をして食べていたがサリーから、


「ピザじゃないです!ピッツァです!」


と発音の注意を受けていた―――


サリーもまさかそんな相手がフォック聖法国の聖女とは知らず後から聴いて卒倒していた……


龍の牙ドラゴン・ファングの面々も料理を楽しみ、ジュディやジェナも珍しい海の魚介料理に喜んでいる。


そこでふと八雲が葵御前に目を向けると魚のムニエルを持参の箸で葵が食べているのを見て、


「―――葵、箸を持ってきたのか?」


と尋ねると、


「妾は元々、箸で食事をする大陸から来ましたから。それに魚を食べるなら箸に限ります」


と答えて嬉しそうに魚を食べているのを見て―――


(アンゴロ大陸って聞けば聞くほど日本の文化に近いよなぁ……)


―――と八雲はひとり思っていた。


因みにクレーブスも箸に挑戦しているようだが、なかなか上手く掴めないで悪戦苦闘している姿が少し笑えてしまう。


レオとリブラはふたりでシェーナにピッツァを切り分けて、あ~ん♪ して食べさせている。


「シェーナちゃん♪ 美味しい?」


リブラがそう訊ねるとシェーナは小さな口をモキュモキュ♪ させて、


「おいちぃ……」


そう答えては口を、あ~ん♪ と広げて鳥の雛のように次を待っている。


その愛らしい姿に八雲は離れたところから胸が、きゅん♡ としたのを感じていた……


そんな賑やかな食事の中で、ソフィーとサリーがカタリーナに近づき話し掛ける。


「それでカタリーナ姉さん、八雲さんとはどのくらい進んだの?」


「ングッ?!ケホッ!ケホッ!―――き、急になにを!?/////」


食事が喉に詰まり掛けて咽るカタリーナの様子を見て、


「なにかあったんだぁ~♪ それは是非、お姉ちゃんにも教えて欲しいなぁ~♪」


ソフィーが揶揄いながらそう言って近づいてくると、カタリーナは慌てるよりも恥ずかしそうに顔を赤らめて、


「や、八雲様のモノになった……証し……頂きましたわ/////」


ふたりにだけ聞こえるように、呟くような声でそう伝えると、今度はソフィーとサリーの顔が見る見るうちに赤く染まっていく。


「―――そ、それって、カタリーナ姉さん!?/////」


「―――ま、まさか、妹に先を越されるなんて……/////」


と三姉妹で顔を突き合わせて照れ合っていたが、やがて三人とも吹き出して笑いが零れ、そして最後には―――


「―――おめでとうカタリーナ姉さん!」


「―――おめでとうカタリーナちゃん!」


―――と、ふたりから祝福を受けて、カタリーナも笑顔で一言、


「ありがとう姉さん、サリー……/////」


と祝福してくれたふたりに感謝の言葉を述べるのだった。


ミネアでの歓迎の宴は夕方の薄暗くなる時間まで続けられたのだった―――






―――その頃、朝からレオパールに出発したサジテール、スコーピオ、ジェミオスは……


既にリオンの隣国レオパール魔導国の首都ウィズドムの近郊まで街道を進んでいた。


通常の馬であればまだまだ距離は長く残っているところだが、三人が騎乗している黒麒麟は特別なので此処まで進むことが出来た。


八雲の『創造』した黒麒麟は全身を黒神龍の鱗で造られた馬の姿をした疑似生命体であり、その動作や仕草は普通の馬と変わらないが創造主である八雲の意志に従って行動する。


現在はそれぞれ騎乗しているサジテール、スコーピオ、ジェミオスに従うように八雲から指令を受けているので三人はまるで我が身のように思い通り黒麒麟を操れる。


さらに普通の馬との大きな違いは疲労を感じることがないという点が大きい。


ボディーを構成する黒神龍の鱗は金属疲労や摩耗といった消耗が起こらない。


そのため関節部などの可動部が消耗して擦り減ったり発熱したりといったことが発生しないので、昼夜問わずに走り続けることができるのだ。


普通の馬であれば一定の間隔で休憩を挟まなければ馬が潰れてしまう。


黒麒麟の場合それが必要無いので数倍の速さで目的地に到着するが、騎乗しているのが龍の牙ドラゴン・ファングではなく普通の人間であった場合この距離を休憩なしに進むことは出来ないという点も加味する必要がある。


そんな三人は目的地に近づき、馬上で左の牙レフト・ファング統括者のサジテールがスコーピオとジェミオスに指示を出す。


「スコーピオは俺と一緒にレオパールの魔導軍魔術研究所に向かうぞ。ジェミオスは首都で輸出されずにいる品目がどこかに備蓄されているのか、それがどこに流れているかを調べてくれ」


「―――スコーピオ、了解した」


「―――はい!分かりました」


サジテールの指示に頷くスコーピオとジェミオスだった―――






―――レオパール魔導国首都ウィズドム。


首都に入り黒麒麟を『収納』へと納めたジェミオスは首都にてサジテールの指示通り、輸出品目に該当する商品を取り扱う店を訪れていく。


まずはリオンで入って来ないと言われている魔法薬の店を訪ねることにして、それなりに大店で有名な店に入店すると、


「すみません。少々お尋ねしますがこの魔法薬は今在庫どのくらいありますか?」


いかにもどこかのお屋敷から使いで来たメイドを装って、店員に問い掛けるジェミオス。


すると店員が申し訳なさそうな表情をして、


「申し訳ないけれど、此処の魔法薬は表に置いてある分だけで最後だよ……」


と答えるのを聴いてジェミオスは魔法薬の棚を見回すが、置かれているのはどれも二本から五本程度の数の薬瓶しか並んでいない棚ばかりだった。


「此処にあるだけって……此方のお店にしては正直少ないように見えるのですが、いつもこのくらいしか置いておられないのですか?」


当然の疑問のようにして店員に問い掛けるジェミオスに店員の表情には暗い影が掛かり、


「いや、以前なら棚いっぱい、それこそ裏の倉庫にまで山積みしていたさ。でもここ二カ月ほどは軍の連中に殆ど持っていかれちまって、新しく入荷してもすぐに取りに来ちまうのさ……代金は一応払ってはくれているけれど、これじゃあ一般の市民達には薬が行き渡らないって話さ」


「―――そうなのですか!?それは此方のお店だけなのでしょうか?」


続けてジェミオスが問い掛けると店の店員はやはり暗い顔で首を横に振る。


「商人ギルドの知り合いともよく話しているけど、どこの店も魔法薬関係は買い占めされているって話だ。一体軍部はなにを考えているのか……悪いことでも起こらなければいいんだけどなぁ」


「そうですか……教えてくれてどうもありがとうございます」


御礼を言ってペコリと頭を下げたジェミオスは薬以外の品も調べるため市場のある道を早足で進んでいった―――






―――その一方でジェミオスと別行動を取ったサジテールとスコーピオは、


目的のレオパール魔導軍魔術研究所を目指す前に立ち寄る場所があった。


そこは―――エヴリン=アイネソンの屋敷だ。


サジテールは親交のあるレオパール三導師のひとりエヴリンに依頼されて東部の村に出向き、エルフの娘達を救出してからというもの、エヴリンに連絡出来なかったことと、あれから半年ほど過ぎてしまい、この国の現状がどうなっているのか訊ねるために訪れたのだった。


だが玄関まで来てすぐに様子が変だということは、よく訪ねてきていたサジテールにはすぐに分かった。


サジテールだけではなくスコーピオもエヴリンの屋敷から放たれる異様な魔力に警戒を上げていく。


本来なら屋敷に訪ねてくる者がいれば家令が表まで出迎えに必ず来ていたにも関わらず、今日はまるで無人であるかのように静かで、入口に手を掛けても鍵も掛かっておらず、そしてふたりが中に入るとネットリと絡みつくような魔力だけが全身に纏わりついてくる……


「……サジテール」


「分かっているスコーピオ……警戒を怠るなよ」


まるで別の屋敷に来たのかという錯覚さえ起こさせるいまのエヴリンの屋敷の様子に、入口を入ったサジテールは嫌な焦燥感を感じていた。


しかしそんなふたりの先で一階の奥の部屋の扉ゆっくりと開いたかと思うと―――


「……あれは?」


そこから出てきたのは―――あの自動人形オートマタだった。


しかも一体ではない……そこからリオンに現れた切り裂き魔がさらに二体、合計三体が姿を現す。


「―――どうやら待ち伏せされていたようだな」


スコーピオが静かにサジテールの背中に向かって伝えるとサジテールはギリッと歯を噛み締めていた。


「エヴリンがいないということは……」


そこまで口にしてサジテールはその先の言葉を呑み込んだ。


―――まだエヴリンの遺体を目にした訳でも、その痕跡もない。


あるのはただ目の前にいる切り裂き魔の自動人形オートマタだけだ。


そんなことをサジテールが考えている間にも自動人形オートマタ達は八雲が戦ったときと同じく鎌のような刃をした剣を両手に構えたかと思うと、真っ直ぐにサジテールとスコーピオに突撃してくる。


「スコーピオ!表に出る!」


「―――了解した」


入って来た扉から表の庭に飛び出したふたりと三体の自動人形オートマタとの戦闘が始まろうとしていた―――



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