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第106話 黒き魔女の野望

―――レオパール魔導国の首都ウィズドムから西方に向けて離れた暗い森の中


そこに堅牢な造りをした建物がある―――




『レオパール魔導国 魔導軍所属魔術研究所』




その場所を目指して月明りも届かないような闇に染められた森の道を、魔術平行艇エア・ライドが闇を切り裂く灯火で照らしていく。


空中に浮かんで滑走する魔術飛行艇エア・ライドの風属性魔術が付与された推進部から吹き出すジェット気流で通り過ぎた跡には砂煙が吹き上がっていく。


暗い森の先にあるルドナの魔術研究所まで残り僅かの距離に差し掛かったところで―――


「八雲……気がついているか?」


―――八雲の背中に抱き着いているノワールがその耳元で囁く。


魔術飛行艇エア・ライドはエンジン音が無いため比較的普通に会話しても、十分に聞こえるくらいなので囁き声でも八雲の耳に届いた。


「―――ああ、どうやらお出迎えが来たみたいだな」


八雲とノワールが気づいたのは周囲の森の木々を飛び交う『切り裂き魔リッパー』のことだ。


暗闇の森にある一本道を疾走する魔術飛行艇エア・ライドを、左右で木々の枝を飛び交って、ふたりの周囲に増えてくるリッパー達にイラつきを覚えたノワールは―――


「―――上の蚊とんぼ共は我が相手する!八雲はこのまま研究所まで突っ走れ!!」


八雲から身を離して魔術飛行艇エア・ライドの後部シートに立ち上がったノワールは、自分の『収納』から黒大太刀=因陀羅の柄を出して握ると鞘を『収納』に残してその大太刀を抜刀した。


闇深い森の中で抜刀された因陀羅は僅かに差し込む月明りに鏡面の黒い刃を反射すると、次の瞬間そこに映り込んだリッパーを一振りで袈裟斬りに分断した―――


―――勿論その『コア』を斬り捨てている。


「フンッ!ハアッ!―――手応えのない奴等だ!もっと来い!我の因陀羅の斬れ味を土産に冥府に逝くがいい!」


左右に袈裟斬りを繰り出してリッパーの持つ鎌型の剣ごと切断し、一息に斬り捨てていくノワールのことを八雲はチラリと背中越しに見て確認してから、


「―――飛ばすぞ!ノワール!」


「おう!行け行けぇええ!!―――ヒャッハァアアア~~~♪」


危ない人みたいな奇声を上げながら、魔術飛行艇エア・ライドの上で右に左に『切り裂き魔リッパー』を逆に切り裂いていくノワールの姿を確認した八雲は、推進部に魔力をさらに込めて速度を上げていく。


既に数十体のリッパーがノワールの因陀羅で切り裂かれ、暗い森の道端にはその残骸が転がり落ちていった。


そのうち遂に暗い森が途切れてその奥に施設として区画整備された土地に立つ巨大な建物―――


―――レオパール魔導国の魔術研究所がその姿を現した。


外壁に囲まれた建物の警備の兵達は正面から光を放ち突っ込んで来る謎の物体に驚愕しているのが見えたが、八雲は構わず右手を前に真っ直ぐ突き出すと―――


「―――火槍ファイヤー・ランス!!」


―――火属性魔術の《火槍》を発動して正面にある施設の門を轟音と爆炎で粉々に吹き飛ばした。


噴き飛んだ門の跡を抜けて施設の敷地に突入すると―――


―――そこにはおよそ二百体はいる『切り裂き魔リッパー』が、既に腕を四本状態にして待ち受けていた。


「随分とヤル気みたいだな。すぐに開放してやる……」


リッパーの『核』に使われてきた多くの人間の魂を八雲はすべて開放すると決意している。


ノワールも同じ意志であり手に握った黒大太刀=因陀羅を構えていた。


そこに―――


「これは♪ これは♪ 態々あの黒神龍様自ら乗り込んで来られるとは……隣にいるのが御子ですかな?初めてお目に掛かる。私がお目当てのルドナ=クレイシアだ!」


リッパー達の後ろで空中に浮かび、ノワールと八雲を見下ろす黒き魔女ルドナがニヤリと歪んだ笑みを浮かべながら言った。


「……お前がルドナ=クレイシアか。単刀直入に訊く。サジテール達はどこだ?」


言葉と同時に『威圧』を放つ八雲だが、ルドナはサジテールの時と同じく魔力の障壁でそれを受け流す。


「おお~怖い!御子は私がその者達を拉致しているという証拠がお有りで?」


「―――エルドナ=フォーリブスが見ていた。人を攫っておいて目撃者を見逃すなんて、エルフの導師とか言う割にはおつむの中身は全く足りていないらしいな?言葉分かる?その長い耳飾り?言っている意味理解出来てますかぁ~?」


そう言って自らの側頭部に人差し指をツンツンとして頭大丈夫?とジェスチャーで返す八雲を見て、ノワールは隣で―――


「ブフッ?!」


―――と吹き出し、空中のルドナは顔面に青筋を立てながら歯ぎしりをする。


「俺の国では『馬鹿と煙は高いところが好き』という言葉があるが、まさにその言葉通りだな」


見上げながら更に煽る八雲にノワールが笑いながら肩に手を置き、


「クッハッハッ!―――や、やめろ!八雲!ア、アイツの顔オーガみたいな顔になっているぞ!!」


「―――いやノワールさん。それオーガが可哀想だよ……」


完全に空気を読まず、只管にルドナを馬鹿にするふたりに騒動を察して集まって来たレオパールの騎士軍と魔導軍のエルフも、恐怖の対象である彼女に対してふたりが放つ暴言を聴いて逆に兵達の方が顔面蒼白になる。


「貴様等ぁ……このオーヴェストの支配者である黒神龍とその御子が、よもやここまで愚かだったとは……そうか、ああ、分かった。いいだろう……お前達の会いたがっている奴等に合わせてやろうじゃないか!」


怒りに震える声でそう言い放ったルドナは―――


「これを見てもまだそんな減らず口が叩けるか?―――魔神拘束イーヴァル・バインディング!!」


魔術を発動させると空中に浮いた自らの足元に紫色の粘液体を召喚させ、そしてその粘液体がグニュグニュと蠢きドロリとした塊がクパァと粘液を伸ばしながら開いたところにその中から横並びに拘束された四つの人影が姿を現した……




「ンン―――ッ♡ んん!!―――んあ!!/////」


「クゴォオオ!!!んん!んん!んがぁあ!!!/////」


「クフゥウウ―――ッ!!!フゥ!フゥ!―――ンンッ!!!//////」


「ウエエ―――ッ!!!ウウウゥ―――ッ!!!ウウウ……/////」




エヴリン……サジテール……スコーピオ……ジェミオス……


両腕両脚は粘液の壁にズッポリと突き刺さる様に拘束されて壁に貼り付けにされた状態で、両胸を囲って縛る様に引き締められた触手によって、その胸は飛び出したように強調され、さらにその胸の先端部分にはあの四つ割れした触手が蠢きながら食らいつき、内部では突き刺した針から『過敏薬』を流し込まれ続けている。


蛇の舌のように蠢く触手が過敏になった乳房の周囲から舐め回すように蠢き、粒粒のイボのようになった突起物も高速で振動しながら胸を刺激していた。


「ウウッ!!!ンウウ!!!―――ンンンンンッ!!!/////」


四人の口には後ろの粘液壁から伸びてきた太めの触手が突っ込まれていて、何かを言いたくても当然話すことは出来ずに苦悶の声と表情を漏らすことしか出来ない。


その間も大きな玉型をしてビーズ状に連なった触手が粘液を吐きながら何度も振動し続けている。


さらには全身に触手が纏わりつき、その先端から飛び出した舌のような粘液体でベロベロと全身を舐め回されていた。


四人の身体は全身粘液体の放つ生臭い唾液のような液体塗れになっており、上向きに半白目となり何度も気を失うことを繰り返しているのが分かった。


「お前達が来るのが遅くてこんなに楽しんでしまったよ!ああ、前は使ってないから安心するがいい♪ 処女の方が魔術的に効率がいいことが多いのでな。そこは攻めないようにしている。でも……後ろの方は残念だけど、もう元には戻らないかもなぁ♪ アッハッハッハ―――ッ!!!」


「ウウッ!―――ウグウウッ!!!/////」


「なんだい?またイキたいのかぁ?仕方がない淫乱だねぇ♪ だったら、あいつ等の見ている前で、とっととイッちまいなぁ!!!」


「ンヌウウウウウッ!!!んんああ♡ んん!!フゴオオオオッ!!!/////」


ルドナの魔力が注がれて動きがより活発になった触手達の動きで四人は身体を何度もビクつかせながら、最後に腰を突き出して同時に気を失っていった……


「―――とんだアバズレ達だねぇ♪」




そのとき―――




パア―――ンッ!!!という強烈な衝撃音が辺りに響き渡り、ルドナはサジテール達が捕まっている空中から地上を見下ろすと―――


そこには蒼白い炎のような闘気オーラを纏った―――八雲とノワールがいた。


そしてさっきの衝撃音と同時に発生した衝撃波で八雲とノワールを囲むようにしていたリッパー達と、この研究所の護衛に就いていた兵士達が一斉に爆ぜて哀れな肉片と化していた……


数百もの数で周囲を取り囲んでいたリッパーと兵士達が八雲とノワールの放った『殺気』により一瞬で肉塊に変わったのだ。


なにが起こったのか一瞬分からなかったルドナに向けて、八雲は静かに見上げて右手で指差すと―――


「そこのガングロブス……お前は楽には死なせないから覚悟しろ」


「お前はやり過ぎた。ルドナ=クレイシア……我にこれほどの殺意を抱かせた相手は数百年振りだ」


そう宣言して顔を上げた八雲とノワールの瞳は自分達の身体に纏う蒼白い闘気と同じく、高熱を放射する蒼白い炎のような色に染まり、唯ひとりの敵―――ルドナ=クレイシアを目で射る。


「う、うう……ウオオオオオ―――ッ!!!」


―――怒髪天となったふたりの凄まじい『殺気』の塊が周囲の兵士達に向けられた時と同じ様にルドナへ向かって放射されると魔力による障壁では防ぎ切れず吹き飛ばされて、背後にある研究所の壁まで吹き飛び激突してクレーターのような亀裂を走らせていった。


すると衝撃で一瞬ルドナが気絶したため同時に魔神拘束イーヴァル・バインディングの発動が途切れ解除されて、粘液体に拘束されていた四人が開放されると浮かんでいた空中から地上に落下するのを八雲とノワールが受け止めた―――


地上に下ろした四人は魔神拘束イーヴァル・バインディングにより体力と魔力が急激に吸い取られていて、エヴリンは拘束されていた時間も長かったことで瀕死の状態だった。


「おい!エヴリン!―――しっかりしろ!!我だ!分かるか!黒神龍ノワール=ミッドナイト・ドラゴンだ!!」


抱えたエヴリンにノワールは必死に声を掛けるもエヴリンから反応はない。


八雲はそっと地面にスコーピオとジェミオスを寝かせると範囲効果で発動させた『回復』の加護を四人に施していく。


「う……うう……」


すると拘束されていた時間がエヴリンよりも短かったサジテールが先に気がつく―――


「や、くも……」


「気がついたかサジテール。今『回復』で体力を戻しているから大人しくしていろ」


「……」


四人を同時に『回復』している八雲をサジテールは黙って見つめていた。


「……ここは……御子……」


「……に、い……さま……兄さま!」


サジテールに続いてスコーピオとジェミオスも意識を取り戻したところで、エヴリンもようやく意識を取り戻しつつあった。


「おい!―――エヴリン!!」


必死に呼びかけるノワールの声にゆっくりだがその瞳を開き出したエヴリンは―――


「……あいかわらず……泣き虫ね……性悪ドラゴン……」


そう呟くと瞳に涙を溜めたノワールの頬にそっと掌を伸ばして瞳の下を撫でている。


「う、煩い!お、お前まで我を……置いて逝くのかと……」


ノワールの言葉はそこで途切れる。


「……貴女は……友達が少ないものね……長生きしている者も……いずれは……冥府へと召されるわ……」


八雲はふたりの関係をそこまで詳しく聞いている訳ではなかった。


だが今のノワールは普段からは考えられないほど瞳に涙を浮かべて大事そうにエヴリンを介抱している。


エヴリンの囁いた言葉によって、ふたりはやはり大切な友なのだと八雲は感じ取った。


無限と言える寿命を持つドラゴンが友や家族を作ったとしても、それは一時の夢のように相手の寿命が尽きれば絶対の別れとなる。


そんな時間の流れの中で長命種のエルフであるエヴリンの存在が、ノワールの心の支えのひとつとなっているのはふたりの様子からも見て取れた。


そしてサジテール、スコーピオ、ジェミオスも『回復』により意識を取り戻していくと八雲とノワールの前に跪いて深く頭を下げていた。


「ノワール様、八雲様……この度の醜態、すべて左の牙レフト・ファング統括であるこのサジテールの責任。どうかこの場でお手打ちになさってください」


「俺もサジテール同様、敵に捕縛され、あまつさえあのような醜態を晒した以上……如何様にも裁きを」


「……私も……同じです。どうかお裁きください」


八雲はこの三人に関してはすべてノワールに任せるつもりだ。


一緒に過ごした時間が長い者がその判断をすべきという考えからだが、ノワールは三人の言葉を受け止めてから瞳を伏せて少し考えると―――


「―――よくぞ戻った三人とも。愛しいお前達がこうして我の元に戻ってきたというのに、何を裁くのだ?それに……裁かれるべき相手は他におるであろう?さあ、いつまでもそのように裸でいるものではない。八雲が我慢出来なくなってもいいなら別だが」


「いやさっきまでのシリアスムード返して?」


すかさずツッコミを入れる八雲に三人は―――


「こっち見んな!!!/////」


「俺は別に……御子が望むなら/////」


「兄さま!!厭らしいのはダメですぅ!!!/////」


と慌てて身体を隠していたが『思考加速』でガン見して脳内メモリーにしっかりと焼き付けていることは、八雲が墓までもっていく秘密だ……


「また随分と……モテる男を御子にしたじゃない黒神龍……」


だいぶ『回復』が効いて話声も安定してきたエヴリンにノワールは―――


「ノワールだ……」


「……え?」


「だから、我の名前……我はノワール=ミッドナイト・ドラゴンだ!」


「……ノワール……御子につけてもらったのね……あなたには勿体ないくらい……いい名前よ」


そういって笑みを浮かべたエヴリンを見てノワールも八雲も、そしてサジテールもホッと息を吐いた―――






「―――ふ、ふざけるな……こ、殺してやるぞ……お前達」


救出の喜びを分かち合うのも束の間―――


八雲とノワールの『殺気』に建物の壁まで吹き飛ばされて全身の骨に数十カ所の骨折と亀裂を引き起こしているルドナが、ゆっくりと立ち上がってきて呪いのような声で八雲達に向かってブツブツと怨念の言葉を並べている。


「まだ動けるとは思ったより丈夫だったな。殺し甲斐があるヤツだ……」


八雲が『収納』から黒刀=夜叉を取り出すと、今度はルドナが笑い声を溢し始める。


「……なんだ?頭の打ちどころが悪かったのか?」


警戒は解かずにルドナの様子を見ていると―――


ゴゴゴゴ―――ッ!と突然に地鳴りが起こり始めて嫌な予感がした八雲は―――振り返って叫ぶ。


「下がれ!なにか来る!!―――ッ!?」


その瞬間、ルドナが立っている場所を中心に地面からなにかが飛び出してきて、近くの建物も削り飛ばしながらグングンと天に向かって伸びていくのを八雲は見上げていた。


「―――な、なんだ?これ……扉か?」


そこには横幅にしてニ十m、高さ五十mほどの巨大な扉が二枚横並びに立ち上がっていたが扉と言うにはあまりにも巨大すぎた……


「まさかこれは!―――『魔界門インフェルノ・ゲート』か!?」


その扉を見たノワールが叫んだ。


そこにサジテールがノワールに魔神拘束イーヴァル・バインディングで捕らわれていた際にルドナから聴いたことを報告する。


「あの女!魔神を呼び出すだと!?―――愚かな!」


「―――ルドナは本気です。エルフの娘達を集めていたのも女性のエルフを拷問して、その胴体を持ち去ったのも恐怖と絶望を心臓に集めて『魔界門インフェルノ・ゲート』を召喚する術に使うため」


サジテールがそう説明していると巨大な門の前に空中を移動して現れたルドナが声を上げる。


「その通りだ!―――遥か太古の昔に神龍達ですら追い返すのがやっとだったという魔神を此方の世界に呼び出す門を作り出し、ハァハァ、魔神を操り世界を手に入れること!―――ゲホッ!そ、それが私の望みだ!」


手持ちの回復薬を飲み、全身の傷の何割かは回復したものの未だに激痛を伴う傷が幾つもあるルドナは息が荒くなっている。


「―――愚か者めが!!!誰が追い返すのがやっとだ!奴等は尻尾を巻いて逃げただけだ!歴史歪曲するなぁ!!!」


どうやらルドナの語った歴史は一部違っているようだが、八雲はそんな魔界門を見つめていると扉の間に隙間が出来ていく。


「―――開くぞ!!!」


魔界と繋がっているという巨大な扉が今ゆっくりと―――開いていくのだった……



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