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第108話 魔神討伐

―――周囲を溶岩の海に変えた魔神グラハムドは空中にいるノワールとサジテールを睨む。


【―――我を縛り付けた忌々しい小僧はどこに行った!!】


八雲の光縛鎖ライト・チェーンで全身を拘束された魔神は外せない光の鎖を引き千切らん勢いで身体を揺らしているが、八雲の膨大な魔力を込められた鎖は軋むことすらなく魔神を拘束していた―――


「サジテール!八雲の準備が終わるまで我等で魔神を攻めるぞ!八雲の経験値のためにも死なぬ程度にな!」


「―――畏まりました!ノワール様」


周辺の大地は溶岩に囲まれて木々は一斉に炎を纏い黒炭になって崩れ落ちていく。


―――ノワールとサジテールは先鋒と後衛に分かれて、先鋒のノワールが黒大太刀=因陀羅を振り翳して魔神の左肩に斬り込む。


「―――地獄の業火ヘル・ファイヤー!!!」


強固な皮膚を切り裂いて筋肉に突き刺さる因陀羅の刃に地獄の業火ヘル・ファイヤーを発動して魔神の体内に業炎を流し込むと―――


【グオオオオ―――ッ!!!貴様ぁああ!】


―――肩に激痛を感じた魔神は轟音の叫び声を上げるが、


そこに今度は黒弓=暗影に矢を番えたサジテールが―――


「―――幻輝爆ミラージュ!!!」


―――光属性魔術・上位の幻輝爆ミラージュを付与した矢を魔神に向かって放つと、放たれた矢は七色に光り輝き魔神の脇腹へと突き刺さった瞬間激しい光を周囲に放って爆発を起こし、魔神の脇腹の肉を抉って吹き飛ばす。


【ガアアアッ!!!―――ふ、ふざけおってぇ!!この虫共がァアアアッ!!!】


魔神が怒髪天になり口を開くと同時にそこから炎が吹き出される―――


―――超高熱の火炎放射をノワールとサジテールは空中を舞う様に飛び交いながら掻い潜り、それを回避して再び攻撃へと向かっていった。


「ハハハ!!!―――遊んでやるぞ!!!魔神グラハムド!!!」


ノワールは炎を潜り抜けながら、それでも魔神に次々と傷を負わせていった―――






―――溶岩によって研究所の周囲にある森は赤い炎に照らされて、その場所だけ遠く離れた首都ウィズドムからも肉眼で見えるほどに夜空と雲が明るく染まっていた。


「エヴリン……黒神龍様……御子様……どうか、ご無事で」


首都ウィズドムの中央に立つ巨大な木の幹に建てられているエルフの政治中央部サピエンツィア議事堂に、八雲からの助言で首都防衛と国民の避難準備に屋敷から移動したエルドナ=フォーリブスは、西の空がまるで夕暮れの空のように赤く染まっているのを見てエヴリンと八雲達の無事を願っていた。


執務室で各部署の担当官であるエルフの高官達に今起こっていることを説明し、国民への緊急事態宣言と避難先はリオンに向けて避難させることを決定すると高官達は慌てふためいて忙しく部屋を出て各関係各所に指示を出していった。


そんな時、議事堂職員のエルフがノックをして飛び込んで来る―――


「申し上げます!ただいまエヴリン=アイネソン導師が議事堂に到着されました!」


「―――エヴリンが!?」


―――報告を聴くや否やエルドナは席を立ち議事堂の入口まで駆けていく。


そこにはふたりのメイドに肩を貸してもらって立っているエヴリンの姿があった。


「エヴリン!」


「……ああ、エルドナ……心配を……かけてごめんなさい……」


エヴリンは弱々しくも笑顔を浮かべてエルドナに心労を掛けた謝罪を口にすると、


「いいのよ……あなたが無事に戻ってきてくれただけで……それで、何があったの?」


「それは俺から説明しよう」


エルドナの問い掛けに自ら前に出るスコーピオを見て、エルドナはエヴリンの疲労も考えて場所を移そうと提案する。


寝具のある貴賓室に移った四人はエヴリンをベッドに横にして寝かせるとテーブルを挟んだソファーにエルドナ、向かいにスコーピオとジェミオスが座った。


「―――結論から言おう。ルドナ=クレイシアが研究所に『魔界門インフェルノ・ゲート』を召喚した」


「ルドナが!?……なんてことを……」


「だが、その魔界門インフェルノ・ゲートは小規模だったため、そこを通れる魔神はひとりが限界だとノワール様からは聞いている」


「でも魔神と言えば三千年前に神龍様達ですら追い返すのがやっとだったと伝えられているけど……」


「どうもエルフの歴史は途中から歪曲されて伝えられているようだな。三千年前に魔神が襲来した時、神龍様達は魔神達を圧倒的な力で蹂躙して奴等を追い返している。だから今回のことで魔神がひとり門を通ってきたところで、ノワール様の敵ではない」


「そう……なのね……でも避難は随時進めていくわ。此方に被害が無いとも限らないですから」


スコーピオの説明を聴き、状況を把握することができて少しは安心感を覚えたエルドナだが、まだノワール達が戻るまで安心は出来ない。


その時、スコーピオとジェミオスに『伝心』が届く―――


【―――スコーピオ、ジェミオス、聞こえるか?】


【ッ?!―――御子か!どうした?無事なのか?】


【―――兄さま!?】


突然の『伝心』にビクリとしたスコーピオとジェミオスをエルドナが怪訝な顔をして覗き込む。


【これから魔神の討伐に大規模魔術攻撃を行う。レオパールの国民は西の森には絶対近づくなと伝えておいてくれ】


【了解した。御子……気をつけてな】


【兄さま……ご武運を】


―――そこで八雲からの『伝心』は途切れた。


「どうしたの?ふたりとも急に黙り込んで難しい顔をして……」


不安そうにふたりの様子を窺うエルドナに顔を上げたスコーピオが八雲の指示を伝える―――


「―――今、御子から命令があった。これから魔神討伐に向けて大規模魔術攻撃を仕掛けるから、西の森にはレオパールの民を絶対に近づけるなという指示だ」


「なんですって!?―――分かったわ!私はそのことを高官達に伝えてくるから、あなた達はエヴリンをお願い出来るかしら?」


「御子から彼女の護衛は指示されている。当然任務を遂行する」


真剣な表情でそう言い切ったスコーピオを見てエルドナは、


「……ありがとう」


と伝え部屋を飛び出していく。


そこにベッドで横になっているエヴリンが声を掛けてきた。


「ふたりとも……ノワールの御子を……随分と信頼しているのね……」


するとジェミオスが笑顔で―――


「はい!兄さまはノワール様が見つけた最高の御子様ですから!」


―――と鼻息荒く答える。


「御子は我らにとっても特別な御方だ。我等では思いもよらないものを造ったり、実行したりしていつも俺達を驚かしてくれる。仕え甲斐のある主だ」


スコーピオも優しい表情でエヴリンにそう語り掛けると、


「失うのを恐れて御子を迎えなかったあの子が、ようやく迎えた御子ですもの。きっと……あなた達の言う通り……良い子なのね」


「そうだな―――貴女の娘も既に御子のものだからな」


「ちょっ?!―――スコーピオ?!」


「なにそれ!?―――その話!もっと詳しくぅ!!!」


エディスのことをつい口走ってしまったスコーピオを止めようとしたジェミオスだったが、既に遅くベッドから飛び起きたエヴリンは血走った眼でふたりを食い入るようにして睨んでいる。


この緊急事態の中、八雲の知らないところで早くも親子関係に大問題が起きそうな爆弾がセットされた瞬間だった……






―――ノワールとサジテールと離れて、遥か上空に舞い上がった八雲。


そこは高度七千mの上空―――


暗闇の広がる夜空に月明りだけが輝き足元に雲が広がる空だった。


地上では魔神の発現した溶岩によって燃え広がる森が見えている。


「よし……この辺りでいいか」


八雲は『寒暑耐性』スキルで上空の気温から身を守りつつ、『身体強化』に『思考加速』を発動し、そして『限界突破』で自己能力を最大にまで引き出すと―――


「―――『反射衛星リフレクション・サテライト』起動」


―――八雲は十二個の黄金に輝く魔法陣を自分の周囲に円陣を組んで展開する。


すると魔法陣にはこの世界、つまりこの惑星の惑星儀が現れるとそれぞれ赤道直上の違う場所で光が点滅していた。


「―――各機、反射角度調整……Contact Start!」


すると八雲を囲む円陣の後方に配置された魔法陣から両隣の魔方陣へと真っ直ぐに光の線が放たれ、さらにその魔法陣が次の隣の魔法陣へと光線を結んでいく―――


八雲の左右両側から繋がっていく魔法陣は、やがて八雲を中心にして正十二角形の線を結んでいくと最後のひとつ―――


―――八雲の正面にある魔法陣に向かって行く。


「―――光属性基礎ライト・コントロール


八雲は展開している魔法陣とは別の巨大で複雑な魔法陣を目の前に展開すると、


【―――ノワール!サジテール!準備が出来た!今すぐそこを全力で退避しろ!】


【―――もう少し遊んでいたかったが分かった!】


【―――承知。しかしなにをする気だ?】


サジテールが疑問に思うのも無理はないが今は魔神の討伐が先である。


【……後から説明する】


【絶対だぞ!/////】


―――その瞬間、


八雲の目の前に展開した巨大な魔法陣に天空から巨大な光の柱が落ちてきて、その収束用魔法陣に光が吸い込まれていくと―――


「さあ、覚悟はいいか?―――魔神殿!」


ニヤリと笑みを浮かべる八雲の眼前に索敵マップが照準となって、そこに映る魔神に標的をロックした瞬間―――




「対魔神討伐複合光属性魔術!


―――殲滅極煌デストロイ・レインボー!!


―――発射ファイアァアアッ!!!」




光を収束し続けている巨大な魔法陣から、直下の魔神グラハムド=アンドロマリウスに向けて強烈な光の柱が超高速で照射される。


地上では先ほどまで飛び回っていたノワール達が姿を消し、それでも未だに光の鎖に囚われて身動きできない魔神グラハムドが只ならぬ気配を感じて上空を見上げたとき―――


【ヌゥ!?どこに!―――ッ!GYAAAAAAAA―――!!!】


魔神を中心に半径一kmほどが一瞬で真っ白な光の柱に呑み込まれたかと思うと、強烈な光属性の魔力と太陽光の超高熱攻撃を浴びて絶叫する。




―――以前に八雲は地平線を見てこの世界も惑星であることを知った。


ならばそれを利用しようと思い八雲は黒神龍の鱗で人工衛星を『創造』して打ち上げていたのだ。


打ち上げると言ってもルドナが研究開発していた『飛翔眼フライ・アイ』と似たような原理で無属性魔術の重力魔術を付与して上空に固定するのだが、惑星の自転には対応せずにあくまで位置は固定したままで、その代わりに赤道に沿って十二個の衛星が取り囲んで効果範囲をカバーしている。


衛星と言っても八雲の実験で打ち上げたものでカメラなどは装備していないが、太陽光のエネルギー化を後々に利用出来ないかと太陽光を反射するパネルは設置させていたのだ。


各部に魔法陣を刻印して八雲の意志に合わせてパネルの角度が変えられる仕組みだけは組み込んでおいたので、まさか今回魔神の討伐に使用するとは八雲自身思ってもいなかった。


反射衛星リフレクション・サテライト』を用いて現在夜であるレオパールの丁度反対側から惑星の球体面に対して太陽の光を収束反射させて次々とその衛星に光を反射し、この惑星の半球を衛星の反射で結んで太陽光をこの地に運んできたのだ。


収束した太陽光に光属性魔術・極位の《極煌》を複合して更に巨大なレーザー光線と化した殲滅極煌デストロイ・レインボーは地上の魔神を容赦なく焼き尽くしていく。


【GUGYAAAAA―――!!!】


もはや言葉を発する余裕もなく光の柱に肉体を燃やされて黒炭と化していく魔神はボロボロと皮膚の表面が炭化して崩れていく―――


【ゆ、ゆ……るさ……ん……ぞ……】


それでもまだ意識が微かに残る魔神にノワールは光の柱の外からニヤリと笑いながら、


「おう!そうか!―――ならばいつでも来るがいい!だが、その時は遊びではすまんぞ?」


そう語り掛けたノワールは自身の背後に闘気で黒神龍の本来の姿を形作る。


【き……貴様ぁああ……あのとき……の……龍か!】


「そんなことも気づけんお前では我等には勝てぬ。魔神が死ねば何処に逝くのか知らないが―――猛省してこい!!」


【お……のれぇえ!!!……神龍ぅうう!!!】


ノワールの正体を最後に知って魔神グラハムドは完全に黒炭へと変わり、やがて全身がバラバラと崩れ落ちていった……


巨大な炭の塊が山になったところに上空から魔神を仕留めた八雲が舞い降りてくる。


八雲を見つけたノワールは、


「おお~い♪ やくもぉ―――!」


と大きく手を振り、そしてサジテールも安心したことで笑みを浮かべて無意識に小さく八雲に手を振っていた。


―――地上に降りた八雲は黒炭の山に変わった魔神を検分する。


「流石にここから再生……とかないよな?」


念のためにノワールに確認するが、


「ああ、三千年前も消し炭にした魔神が復活するといったことはなかった。魔神も『回復』の加護は持っていないようでな。その時も傷を癒すのに『自己再生』しか使っていなかったから、それを超えて魔力の限界まで身体を破壊されたら再生は無理だな」


そう聞いて一安心していると―――


「それより!!!―――さっきの光魔術はなんなのだ!!!我もあんな強力な光属性魔術は神龍以外で見たことがないぞ!極位の《極煌》に見えたが、それにしては威力が凄まじかったぞ♪」


「それは帰りながら説明するよ。サジテールもお疲れさん」


「あ、ああ……お疲れ様だったな……八雲様/////」


「ん?そういえば、いつから俺のこと『八雲様』って呼ぶようになったんだ?」


「んあ?!―――う、煩い!!!ただの気まぐれだ!!!……バカ/////」


顔を赤く染めるサジテールをノワールはニコリと笑みを浮かべて眺めながら、こうしてルドナの暴挙は終わりを告げた……


「さあ、ウィズドムへ向かおうか。空から下りてくるときに皆には終わったと伝えておいたけど、心配しているみたいだ」


「そうだな!我はお腹が減ったぞ!なにか喰わせてくれ八雲!」


そんなノワールの頭を撫でながら、八雲は微笑むのだった……






―――八雲達が立ち去ってから暫くした後に、


八雲の光魔術で魔神が発現させた溶岩も周囲の火災も吹き飛んで消火されていた。


周囲には焼け焦げた臭いと山積みの黒炭化した魔神だったものだけが残されている……


再び静寂と暗闇に戻った焼け焦げた木々の跡だけが残る森で―――


ゴトッ!ゴトゴト!―――ガラガラガラ!ズシン!!!


魔神の亡骸である山積みの黒炭が崩れ落ちて、そこからなにかが這い出してくる……


「―――クックックッ!……ハアァ……」


這い出したモノは黒炭の山の上に立ち、月明りに照らされてその身を現わすと、


「フッフッフッ!遂に手に入れたぞ!―――魔神の身体を!!!ハハハハッ!!!」


全裸でありながら高笑いをしているのは魔神に喰われて絶命したはずの―――ルドナ=クレイシアだった。


「あの『切り裂き魔リッパー』で実験を繰り返し、漸く魂魄ソウルを別の身体に移す魔術を完成させた甲斐があったというものだ。魔神にワザと喰われてその身体を乗っ取る魔術……これで私は最強の肉体と不老不死を得たのだ!!!」


ダークエルフの時と同様の身体は前と同じで褐色の肌ではあるものの、その全身には魔神グラハムドと同じ赤い入れ墨のような紋様が入っている。


ストレートの長い銀髪に赤い瞳、飛び出す勢いの大きな胸に引き締まった身体をした新たな『魔神』がこの地に誕生した―――


「それにしても黒神龍とあの御子……まさか魔神を倒すほどの実力を持っているとは!本来なら内部からゆっくりと支配していく予定だったが魔神が倒されそうになり、そこから急ぎ身体を造ったことで私も不安定だ……いまは力を回復させて……いつか、必ず奴等を……」


―――恨みがましい瞳を八雲達が去って行ったウィズドムに向ける。


それからルドナは静かに夜の闇に溶け込んでいくのだった……



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