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第109話 ウィズドムへの凱旋

―――魔神を討伐した八雲とノワール、サジテールは首都ウィズドムに向けて八雲がキャンピング馬車と黒麒麟を用意して寛ぎながら戻ることにした。


今戻っている途中だとスコーピオに『伝心』で伝えた時―――


【すまない……御子】


【―――え?なにが?よく分からないけど気にするなよ】


突然謝罪するスコーピオに八雲の脳裏に「?」が浮かんでいたが、あまり気にすることなくこのまま戻ることにした。


キャンピング馬車の中でキッチンに立ち、食事を用意する八雲の周りを興味深そうにウロウロするサジテールを見て八雲は苦笑する。


「サジテールは料理をするのか?」


「エッ!?―――いや、うん、まあアクアーリオに少し習って……諜報活動中は野宿もあるから、現地で出来る料理を教えてもらったり獲物の捌き方を聴いたり、でも殆どその場で獲物を捕まえて焼いて食べるようなことしかしていない……」


少し落ち込むような表情になるサジテールが気になった八雲が、


「それじゃあ、一緒に料理してみるか?」


「エッ!?……いいのか?/////」


「今はそんなに時間もないから簡単なサンドイッチにしようと思っているから難しくもない。中に挟む物を手伝ってもらう」


八雲は冷蔵庫に仕舞っておいた鶏肉、レタス、トマト、ハム、ジャガイモ、玉子を用意してサジテールにはジャガイモを茹でてマッシュポテトの作り方を教え、調味料を加えて味付けをしてもらう。


その間に野菜やハムを適当な形に切って、食パンをニ斤『収納』から取り出すと適度な幅でパンを切っていく。


鶏肉は皮目をパリパリに焼いて火を通し、サジテールに切り分けてもらい、トマトとレタスと一緒にパンに挟ませてサンドイッチの三角にパンと具を切ってもらった。


皿の上にけっこうな量のサンドイッチを積み上げ、ベッドで横になっていたノワールを起こしに行って耳元で、


「―――美味しいサンドイッチ出来たけど、俺とサジテールで全部食べちゃおうかな~♪」


八雲がそう囁くや否や―――


「そんなことは絶対に許さんぞ!―――我も食べる!!」


―――と叫んで元気に身体を起こした途端にブチュウ♡ と八雲に熱いキスをしてくるノワールを、そのままお姫様抱っこで抱き上げてサンドイッチを用意したテーブルとソファーに連れて行く。


「……うぅ/////」


それを見たサジテールが少し声を漏らしたような気がしたがすぐに目線を逸らされたので、そのままソファーにノワールを降ろすと三人で食事の席についた。


「―――ほぉ、サジテールも作ったのか!美味いぞ!!」


「ありがとうございますノワール様/////」


「もきゅ♪ もきゅ♪ ゴクン!……しかし、八雲とふたりだけで料理とはまるで新婚夫婦みたいだな♪」


サンドイッチを頬張りながらそんな他愛もない会話のつもりで切り出したノワールにサジテールは―――


「―――ふ!ふ、夫婦!?な、なにをおっしゃるのですか!?ノワール様!!お、俺がこの男と夫婦だなどと!?/////」


―――顔を真っ赤にして大声で否定するので、


「そんなに嫌だったのか、なんかゴメン……」


と八雲がションボリとして謝ると今度はサジテールがアタフタと焦る。


「い、いや、嫌とかいう訳ではなくてだな?!その……お、お前こそ!俺みたいなガサツな女など嫌だろう!!/////」


と切り返してくるので、八雲は正直に思っていることを返す。


「どうして?サジテールはガサツなんかじゃないし、俺から見ればすごく魅力的だと思うぞ」


「……なっ!?―――お、おお、お前!!そんなこと言って!本当は俺に厭らしいことをしたいのは分かっているんだぞ!俺はアリエス達とは違うんだからな!/////」


物凄い剣幕で切り返してくるサジテールに八雲は、


「いい女を見て抱きたいと思うのは男として当たり前だ。だが前提に相手の気持ちが大切だし、俺は無理矢理したことなんか一度もない」


真剣な表情でサジテールに答えるとそれで冷静になって言い過ぎたことに気がつき、


「す、すまん……俺も少し言い過ぎた……」


と八雲に謝罪してきた。


そこにノワールが呆れ顔でサジテールに向かって―――


「サジテール。お前もそろそろ素直になれ。もうお前自身も気がついているだろう?八雲のことを異性として―――雄として自分が求めていることに」


その言葉にサジテールはさらに顔を赤くして俯くが、生みの親であるノワールの言葉は龍の牙ドラゴン・ファングの娘達にとっては絶対なだけにノワールに対してだけは下手な嘘など吐けない。


「正直に申しまして……分かりません。俺は今までこんな気持ちになったことがないので、だからどうすればいいのか分からないのです……」


「そうか、そうだな。アリエスと共に我につき従い、悠久の時を共にしてきたお前だが釣り合う男に出会ったことなどなかっただろうし、なにより意識するほど強い男もいなかっただろうからな。だがサジテール……我が八雲を御子にした意味を考えてみるがいい。それはお前のためでも、他の娘達のためでもあるのだ」


「仰っている意味が……俺には分かりません……」


「すぐに分かる時が来る……おお!そうだ、いいことを思いついたぞ!八雲!今日はどうせこのままウィズドムに一泊するんだろう?」


突然ノワールから話を振られて八雲はビクッとなったが、


「エッ?うん、そうだな……もう夜も遅いし、戻ってエルドナさんやエヴリンさんに挨拶したらウィズドムに泊めてもらって朝になったら帰ることにしよう」


八雲の言質を取ったノワールはサジテールに向き直って―――


「サジテール!今晩は八雲と閨を共にせよ!これは我からの命令だ!」


「んなっ?!―――ノ、ノワール様!そ、それは!?/////」


「異論反論質問は一切受け付けん。八雲にもだぞ!」


「……はぁ……こうなったノワールは言い出したら聴かないからなぁ……」


「さすが我の夫だな!よく分かっているではないか!!」


「……うぅ/////」


最後は顔を赤くしたサジテールの呻き声で終わり、三人はウィズドムに戻っていくのだった……






―――レオパールの首都ウィズドムの中央に位置するピエンツィア議事堂。


ようやく戻ってきた八雲とノワール、サジテールを出迎えに来てくれたのはスコーピオ、ジェミオス、エルドナ、そしてもう立ち上がることが出来るくらいにまで回復したエヴリンだった。


しかし……どこかスコーピオとジェミオスの様子がおかしい……


というより、ふたりともぐったりとした様子で表情も影が差していて、どこか怪我でもしたのかと八雲がふたりに問い掛ける。


「おいスコーピオ、ジェミオス。どうしたんだ?退避する途中、怪我でもしたのか?だったらすぐに『回復』を―――」


「―――い、いや違うんだ!御子!本当にすまないと思っている!」


普段はクールビューティーな金髪美女のスコーピオが今までに見たことがないくらいに取り乱していることに八雲もノワールもサジテールまで、ますます訝しんでいる。


「わ、私はちゃんと止めようとしたんですよ!信じてください!兄さま!!」


ジェミオスまで涙目でそんなことを訴えてきて、一体何が起こったんだと益々八雲は不振がっていると、ふたりの後ろから近づくのは―――


「……お帰りなさい♪ 御子様……そして地獄に落ちろ……」


―――と八雲達の帰りを笑顔で迎えつつ、とんでもない発言をしてきたエヴリンに八雲はポカーンとなっているが前に出たエヴリンの後ろでスコーピオとジェミオスが直角に頭を下げて完全に謝罪体勢になっているのを見て、


「え~と……もしかして……娘さんのことでしょうか?」


恐る恐るエヴリンに思い当たることを訪ねると、笑顔のエヴリンは無言なのに彼女の心の声が後ろに渦巻く魔力のオーラと共に、


(イエス!イエス!イエス!イエス!―――)


―――と八雲の脳内に直接響き渡ってくる……


「いい加減にしろ!!―――エヴリン!お前は娘の大切な男を傷つける気か!!今後一生、エディスに恨まれる人生になってもいいのか!!」


そこにノワールが割って入るようにしてエヴリンの前に立つと、さすがに言われたことで正気に戻ったのか、


「ウッ?!……そ、そうね……スコーピオとジェミオスに話を少し聴かせてもらって、つい興奮してしまったわ……この国を救ってくれた恩人に対してする態度ではなかったわね。御子様……謝罪します」


そう告げて謝罪してきたので八雲も慌てて姿勢を直す。


「こちらこそ大切なご家族のことが、こうして後回しになってしまい申し訳ないと思っています。ですがエディスのことは自分の家族として大切にしたいと思っています」


そう言って頭を下げる八雲にエヴリンは驚いた顔をしていたが、やがて微笑む。


「そう。分かったわ。あの子もこんな素敵な男の子と結ばれて幸せね。よかったら、後でふたりの馴れ初めから最近のあの子の話しも聴かせてもらえるかしら?」


「―――ええ。よろこんで」


「フン!年甲斐もなく短気を起こすなどエルフの三導師が聞いて呆れる話しだな」


とノワールが揶揄いながらニヤリとして言い放つと、


「あらぁ、死にそうになった私を抱きしめて、我を置いて逝くな~!とか言って泣いていたのはどこのドラゴンだったかしら♪」


とフフン♪ と鼻を鳴らしてエヴリンが返す。


「う、うるさい!!―――あれは一時の気の迷いだ!幻覚だ!幻聴だ!誰がお前みたいな性悪エルフの心配なんかするか!!大体お前はいつも危険なことに首を突っ込んで!―――ッ?!/////」


顔を赤くしたノワールが捲し立てている途中、エヴリンがノワールを抱きしめる。


「……来てくれて本当に嬉しかったわ。朦朧とした意識の中で貴女の顔が見えたとき、本当に心から安心したの。本当よ……だから、ありがとうノワール。わたしの大切な友人」


ぎゅっと抱きしめるエヴリンに戸惑っていたノワールだったが、そのエヴリンの背中を抱き返して、


「まったく、本当だぞ!お前まであの時、我を置いて逝くのではないかと気が気ではなかった。よかったエヴリン……我の友よ」


ふたりが抱き合って無事を喜び合っているのを暫く全員が見守っていたが、そのうちにノワールが、


「あの後にあったことは我からエルドナとエヴリンに説明しておこう。古き友人と積もる話もあるからな!お前達はもう今日は休め。それとサジテール、分かっているな?」


ノワールに念を押されて観念したのかサジテールは顔を赤らめて―――


「……はい」


―――と一言だけ返した。


八雲はその理由を当然知っているがスコーピオとジェミオスはそんなサジテールに首を傾げていたところでノワールに、早く休め!と促されてそのまま議事堂の中にある貴賓室で休ませてもらうこととなった―――






―――ピエンツィア議事堂の貴賓室。


議事堂には外交で来国してきた他国の重要人物が宿泊できる施設も備え付けられていて、豪華な装飾の中にも木の温もりなどを感じられるウッド調の家具や柱など、普段の八雲なら関心が向きそうな物がたくさんあるのだが、今はそれどころではない……


部屋に入ってコートをハンガーに引っ掛けて部屋に備え付けられたソファーに座りながらぐったりとしているところに部屋をノックされ、ビクッ!となった八雲は恐る恐る―――


「……どうぞ」


―――と返事をする。


ゆっくりと開いた扉の向こうからサジテールが入ってくる。


八雲がノワールの命令なので当然来たかと思っていると―――スコーピオが入ってくる。


「エッ?スコーピオ?一体―――」


そう声を掛けようとしたところに―――ジェミオスまでが入ってくる。


「ジェミオスまで?どうしたんだ?三人揃って」


またしても三人の様子がおかしい……


―――サジテールは顔を真っ赤にしたまま俯いていて、


―――スコーピオは今にも十人か二十人は軽く殺してしまいそうな瞳をして、


―――唯一の癒し担当であるジェミオスも、まるでメンヘラを拗らせた子みたいな表情で八雲を見ている。


「よし!―――正直に腹を割って話そう!なにがあった?サジテール!」


「あうっ?!い、いや、違うぞ!お、俺はただ……ノワール様に命令された話を……/////」


「ふたりに話したと……それで、スコーピオはなんでそんなに殺気立ってる?」


「―――うっ?!それは……サジテールが御子と閨を共にすると聞いて、何故か怒りが湧いて……」


「それじゃあジェミオス!なんでそんなにぷんすこしてるんだ?」


「―――サジテールと厭らしいことをしようとする兄さまには、私がいることを思い出してもらうためです!私が一番兄さまのことを……」


右の牙ライト・ファングはあれだけ素直な子達ばかりなのに、なんで左の牙レフト・ファングは皆こんなに拗らせている子ばっかりなんだよ……)


心の中でそう思った八雲だが―――


―――結論、


だがそれが良い!むしろそれが良い!となった。


そう決意したら止まらないのが八雲イズムだ。


「お前達。俺の閨に押し掛けてきたってことは、覚悟は出来ているんだろうな?今日はお前達を俺のモノにする」


その言葉にサジテールもスコーピオもジェミオスも、今まで纏っていたそれぞれ重苦しい雰囲気が一気に払拭されたかと思うと、サジテールだけではなくスコーピオとジェミオスまで顔を赤くしていった。


「そ、その、御子?御子のモノにするというのは……/////」


らしくはない様子で恐る恐る訊ねるスコーピオに腹を括った八雲は―――


「―――今晩お前達三人ともを抱く。嫌なら今すぐ此処から出て行ってかまわない」


真っ直ぐに三人を見つめて言い放った八雲の言葉に出ていく者はひとりもいない……


「沈黙は了承とみなすからな―――」


そう言って三人に近づくとそこで三人を抱きしめて、その瞳を覗き込むようにして見つめる。


三人は八雲を抱き寄せられた胸元から見上げて、それでもどこか嬉しそうな表情を見せるのだった―――



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