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第122話 恋人達の武器

―――孤児院に到着した八雲の前に、


「よお!―――八雲じゃねぇか!」


「―――あ、コラッ!!ルドルフ!黒帝陛下に向かってなんて言葉使いを!!!」


そこにはダンジョン探索以来、久しぶりに会うルドルフと、ティーグル第一皇国騎士団長ラース=シュレーダーに、


「ご無沙汰いたしております黒帝陛下」


ティーグル第三皇国騎士団長ナディア=エル・バーテルスが来ていた。


「久しぶりラースにナディア。ルドルフはダンジョン以来だな」


「ダンジョン!?……ルドルフお前、まさか黒帝陛下を~!!!」


「―――いや、ちょっと待てってラース!」


「俺が行きたいって頼んだんだよ。だからここは納めてくれラース」


「ハッ!陛下がそうおっしゃるのであれば……命拾いしたな、ルドルフ」


「それはこっちの台詞だよ!バァ~カ!」


ルドルフの挑発にラースが顔を赤くして挑みそうになるが、


「ところで皇国騎士団の団長ふたりはどうして此処に?」


ラースに文句をつけるルドルフは無視して八雲はふたりに訊ねる。


「ハイ!実はレベッカが孤児院を移したと聞き、それで話を聴けば黒神龍様の土地に移ったと聞き及びまして。それでこうして様子を見に参りました」


「ナディアは?」


「エッ?あの、その……私はラース殿にバッタリ会いましたところ、此方に出向くところとお伺いしまして、それでご一緒させて頂きました」


「へぇ~♪ たまたま、バッタリねぇ~♪」


ルドルフが意味深な厭らしい笑みを浮かべてナディアを見ると、


「―――な、なんですか!ルドルフ殿!その顔は!!/////」


とナディアが狼狽えているのを見て八雲も何となく察したがラースは気づいていないようだった。


実際のところ災禍戦争の際に八雲はふたりをよく見掛けて、ナディアがラースに想いを寄せている素振りは頻繁に見られたがラースはまったく気づいておらず、もどかしいと思っていたのだ。


今日も実際のところは非番のラースに合わせて非番を取ったナディアが、偶然を装ってラースに会いに行ったのだ。


「ルドルフ。俺の故郷の言葉に『人の恋路を邪魔するヤツは馬に蹴られて死んじまえ』というのがある。だから馬には気をつけろよ?」


「おっと!それは怖いな!―――なあナディア?」


「こ、こ、恋路とか何を言っているのですか!?私はただ……/////」


「そうだぞルドルフ!ナディア殿は由緒あるバーテルス家の御令嬢という高貴な身でありながら国防のため、陛下のため、民のためにという志を持たれて騎士団に入られ、その剣の腕は俺も惚れ惚れするくらいの腕前なのだ!身分に拘らず俺や平民出身の騎士達にも街の民達にも平等に接して下さっている騎士団内でも街でも多くの支持を受ける御方なんだぞ!この美しさにして優しさ、戦術にも優れた栄光の騎士団長でもある素晴らしい御方だ!それを恋だ何だと失礼だろう!!!」


「―――ラース殿!も、もうその辺で/////」


真剣な表情で自分を無意識に褒め殺すラースの言葉に堪え切れなくなったのか、顔を真っ赤にしてラースを制止するナディアを見て八雲とルドルフは、


「うわぁ~!ホント朴念仁だわ……」


「もうこれは逆にナディアが可哀想になってくるレベルだな……」


「御二人もそれ以上はご容赦を……/////」


と呆れた顔になってラースを見つめてナディアが泣きを入れてきた。


そんなところにレベッカが顔を出してくる。


「あら?皆して……私になにか用かしら?」


「俺とラース達は此処に来る途中で一緒になったんだが、八雲はその後に来た別口だよ」


「そうなの?八雲、なにか……大切な用事でもあった?」


「ああ、実は―――」


そこから八雲はナターシャにも説明した内容をレベッカにも説明していく。


「まあ♪ 職人さん達が……此処に……それは……とっても助かるわ。楽しみね♪」


「それで、あの辺りに纏めて職人達の家を建てるから、ビックリさせないように話しに来たんだ」


「分かったわ。シスターにも……私から話しておくわね」


レベッカが了承してくれて、これからどうするかと考えた時、ある案が浮かんだ。


「―――そう言えばラースとナディアは黒龍城に来たことなかったよな?」


「エ?はい、確かにございませんが?」


「だったら今から来ないか?ドワーフ達が色々武器や防具を造っているから、できたら現役の騎士の意見を聴かせてやって欲しいんだ」


「―――おお!いい話じゃないか!勿論、黒帝陛下の希望を無視する訳ないよなぁ~騎士団長殿ぉ~?」


「お前に言われるまでもない!分かりました。俺がお役に立つのでしたら!」


とラースは快諾してくれたが、一瞬ナディアの顔が曇っていた。


そこでナディアにそっと近づいた八雲は、


「ナディアも来てくれ。それでもし良かったらラースとお揃いの装備とか、どうだ?」


と意味深に声を掛けると、ナディアはさらに顔を赤くして、


「お願い……致します/////」


と消えかけの声で返事するのがやっとだった―――






―――そこから黒龍城の正門を通り、シュティーアの工房へと向かう四人。


「此処が黒龍城……なんと立派な城郭なんだ……」


「此処に黒神龍様がお住まいなのですね……」


ラースとナディアは黒き鋼の城を見渡して感嘆の息を漏らしている。


そうして到着したシュティーアの工房では、相変わらずドワーフ達が自分の得意な得物や防具をトンカン!トンカン!と彼方此方で叩いて伸ばしてと忙しそうにしている。


「―――おい、シュティーアはいるか?」


近くにいたドワーフにそう声を掛けると、


「あっ!これは御子様!!―――姐さんですかい?少々お待ちを!」


そう言って奥までシュティーアを呼びに行ってくれた。


すると暫くしない間に、


「―――八雲様♪ アタイになにか用事かい?」


と笑顔でシュティーアが来て、工房に八雲が顔を出してくれたことを喜んでいるのが誰の目にも丸分かりだった。


「ああ、こっちのふたりはティーグル皇国騎士団長のラースとナディアだ。今日はこのふたりに見合う装備を見繕って欲しいんだ。ドワーフ達も現役の皇国騎士団長に装備の具合や意見を聴けるいい機会だ!ありったけの装備持ってこいやぁあああ!!」


気合いの入った八雲の掛け声にドワーフ達も、


「オオオオ―――ッ!!!!」


と気合いで返して、皆が自分の自信がある装備を持ち合ってラースとナディアに詰めかける。


ルドルフはルドルフで八雲に貰った黒十字槍=ほのおの手入れについてドワーフの意見を積極的に聞いていた。


「―――ラースの旦那!その甲冑の着心地はどうですかい?」


「おお!これは凄いな!見た目と違い軽いし動きやすい!」


「―――ナディアのお嬢!その剣はどうだい?」


「そうですね、試し斬りの具合から見ても一級品と言えます。ですが、もう少し長さを抑えれば混戦でも使いやすいです」


ドワーフ達は実戦を経験した騎士の意見が聴けるということで、次々に装備を持ち込んでは使い心地を訊いて、ラースとナディアも基本真面目な性格なので、装備ひとつひとつに対して使い心地を答えていく。


ふたりの姿をルドルフと八雲は「真面目だなぁ」と言いながら呆れつつ眺めているが、そんなふたりの姿勢が嫌いではなかった。


そうしているうちに時間も経っていき、ラースとナディアも少し疲れた顔になってきたのでシュティーアからドワーフ達を止めてもらって今日の装備検証は終わった。


「―――アタイも色々話が聴けてすごく参考になったよ♪」


シュティーアがラースとナディアに礼を言うと八雲がそこでふたりに、


「今日付き合ってくれた礼に、俺からふたりに装備をプレゼントしよう」


「エエッ!?こ、黒帝陛下から!?―――そ、そのような恐れ多い!」


ラースは完全に恐縮しているが、ナディアはこれが八雲の言っていたことかと察する。


「ラース殿。黒帝陛下自ら下賜されるというお話を断ることこそ不忠となりましょう。ここは陛下のご厚意をありがたくお受けするのが臣下の努めというものです」


ナディアの言葉にラースも冷静にもう一度考えを改めて、


「失礼いたしました。陛下のご厚意、ありがたくお受け致します」


と八雲の提案を受けると決めた。


「よし!それじゃあ、今から造ろうか」


「エッ!?今からですか?」


ラースもナディアもそこは驚くしかなかったが、ルドルフだけは黒十字槍=焔を肩に乗せてニヤついていた。


「ラースはどんな武器が好みなんだ?」


「え?俺ですか?そうですね……もし、お許し頂けるのでしたら」


「―――うん?」


「陛下がお持ちになっている剣を希望致します」


「うん?俺の剣って?刀のことか?」


八雲が黒刀=夜叉を『収納』から取り出して握ると、ラースの目の前に差し出す。


「はい。陛下がラルフに下賜された黒斬馬刀=偃月えんげつを一度握らせて頂いたことがあります。確かに名器と呼べる武器と思いますが、俺自身が使いこなせるかと考えれば合いませんでした。俺は元々剣で身を立て、エドワード陛下のご厚意でこうして騎士団長の地位を賜りました。ですので、恐れ多いですが陛下と同じ剣を所望したく存じます」


「なるほど。ちょっとこの夜叉を持ってみてくれ」


「よろしいので?―――それでは、お借り致します」


丁重な仕草でラースが夜叉を受け取ると鞘から抜き放つ。


多くの戦いを経験してきた黒刀=夜叉の刃は漆黒の鏡面を保ち、黒神龍の鱗で出来た刀身は刃こぼれすらしていない。


その夜叉を両手で握り、構えを取るラースに八雲は日本の道場にいた頃のように握り方や振り方、片刃であることと峰での打ち払い方などを教えた。


「―――片刃というのはそういった使い方も出来るのですね。ありがとうございました」


「次にナディア。持ってみて」


「あ、はい!それでは―――」


八雲はナディアにも夜叉を持たせて、刀についての講義はラースの隣で聴いていたのでナディアには使い心地を訊ねる。


「わたくしも刀がいいです」


「そうか。分かった。それじゃ、ふたりには俺から刀を贈ることにしよう」


そう言って八雲は『収納』から黒神龍の鱗を二枚取り出すと床にズシン!と床に置いて、それを見たラースとナディアはギョッとした。


「―――それじゃあ、始めようか」


八雲がそう言い放つと、途端にシュティーアとドワーフ達が集まって来る。


八雲の『創造』によって生まれる武器に工房の皆が集中していくと、八雲は『創造』を発動して黒神龍の鱗が光に包まれていく―――


「おお!これは!?」


「なんて神々しいのかしら……」


ラースとナディアはその光と鱗が形を変えていく姿を見つめていた。


そうして出来上がったのは―――




―――漆黒の刀、銘を比翼ひよく


漆黒の刃は鏡面になっていて銀の鍔に黒い鞘には片翼の翼が描かれている。

形は八雲の夜叉と同じく打刀の形と長さで、その斬れ味も強靭さも同等の業物である。

『索敵』の加護が付与されており、漆黒刀=連理の位置を感知することが出来る。




―――漆黒の刀、銘を連理れんり


比翼と同じく漆黒の刃は鏡面になっていて銀の鍔に黒い鞘には片翼の翼が描かれている。

形は八雲の夜叉と同じく打刀の形と長さで、その斬れ味も強靭さも同等の業物である。

『索敵』の加護が付与されており、漆黒刀=比翼の位置を感知することが出来る。




出来上がったそれらを跪くラースに漆黒刀=比翼を、同じくナディアには漆黒刀=連理を渡した。


「ありがたく頂戴致します。黒帝陛下」


「ありがとうございます。陛下、この銘にはなにか意味があるのでしょうか?」


受け取ったナディアが八雲に問い掛けると、八雲は少し意地の悪い笑みをニヤリと浮かべて、


「俺の故郷の言葉に『比翼連理』という言葉がある。これは半身で片翼しか持たない伝説の鳥がいるんだが、その鳥は半身しかない雄と雌がお互い離れない様に片翼ずつで寄り添って空を飛ぶという言い伝えから出来た言葉で、それほどに仲のいい『男女』や『夫婦』のことを意味する言葉だ」


「―――なっ!?/////」


「……ありがとうございます/////」


八雲の言葉を聞いて、ようやく朴念仁のラースもナディアの気持ちに気がついたのか、珍しく顔を赤くして驚いている。


周りのシュティーアやドワーフ達も「おめでとう!!」「仲良くしろよぉお!!」と囃し立ててきて、ふたりは余計に顔を赤くする。


するとルドルフが―――


「黒帝陛下御自身から武器を下賜されるほどの男なんだ!そんな男ならナディア殿の家も文句はないんじゃないの?」


―――と言って、それほどに黒帝の八雲から武器を下賜されることは様々な意味に取れることから、ラースが自分の出自に一歩引いてしまうことに対して背中を押しているのだ。


そんなルドルフの言葉にラースは内心「余計なお世話だ!」と憤慨しつつも、幼い頃から兄弟のように育ったルドルフの言葉をありがたく噛みしめていた。


ナディアもナディアでこれを機に自身の侯爵家と向き合い、騎士団に入った時からずっと想いを寄せていたラースとの仲をもっと親密にしていきたいと決心していた。


「もしも使ってみて変えて欲しいところがあったらいつでも言ってくれ。あとこの刀にも、その持ち主にも言いたいことのあるヤツがいたら、刀を贈った俺のところまで来いと伝えてくれ。ルドルフもそれで頼む」


「ああ、分かったぜ!ちゃ~んと皆に伝えておくよ」


八雲の言葉は「刀のことは勿論だが、その持ち主であるふたりにケチをつけるようならその刀を贈った黒帝が相手してやる」と言っているのだ。


そしてルドルフは街中にこの話を広めて、勿論ナディアの実家であるバーテルス侯爵家の耳にも入れておけということを意図していることにすぐ気がついたのだ。


こうして一気に距離を詰めたふたりだが、このふたりが結ばれるのはまだ少し先の話しとなる―――



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