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第125話 留学への船出

―――全身をピクピクさせて蕩けた表情をしている白金に上から覆い被さった葵は組み敷く白金を見つめながら、


「まずはおめでとうと言っておこうかのう……白金よ。この『龍紋』を頂いた以上、お前は爪の先から髪の毛の先まですべて主様のモノ。分かっておるな?」


と瞳を細めながら静かに伝える―――


「ハァハァ―――は、はい……あん…ん……この身はもう、主様のモノ……/////」


白金の瞳は、まるで♡マークが浮かんでいそうなほど悦に浸り、葵の言葉にも素直に頷いて返事をする。


「うむ♡ 今のこの快感を忘れるでないぞ?主様に仕える以上、主様は我らすべての女達を寵愛してくださる。白金よ、今日よりお前はこの葵の義妹となれ。我ら義姉妹の契りを結び、共に主様のお傍に侍るのだ」


葵の言葉に息を荒げたままの白金は、か細い声で―――


「はい……葵義姉様ねえさま……/////」


―――と、そう返事した白金にスゥーと顔を近づけて葵は口づけをすると、ふたりの額に小さい菱形のような同じ形をした模様が淡い光と一緒に浮かび上がった。


葵には赤い菱形が、白金には青い菱形の紋様が浮かび上がる―――


「それは?」


―――八雲が葵に訊ねると空狐が天孤を義姉妹にした証しで、空狐である葵の教えと加護が白金に与えられるとのことだった。


こうして葵と白金は義姉妹となり、これより後に白金は葵を姉と慕い共に八雲に従い歩んでいくことになるのだった―――






―――翌日の朝、


朝食の席に全員揃っているところで八雲が姿を現す。


その後ろには葵と―――白金を伴っている様子に皆が息を飲む。


葵は上に白い巫女服と赤い袴、白金は葵と同じ巫女服に蒼い袴を着ていた。


―――そのことにイェンリンも白雪も一気に警戒心が鰻登りになって身体から『威圧』が漏れている。


龍の牙ドラゴン・ファング達は八雲が従えているということは、そういうことなのだと大して警戒もしていないがダイヤモンドは御子である雪菜を攫われた立場だけにイェンリン、白雪と同じく溢れる殺意が半端ではなかった。


そんな状況に八雲が全員を見回して―――


「とりあえずイェンリンと白雪とダイヤモンドはその殺気を抑えろ。こっちの天孤はもう俺のモノになった。名前は白金だ。もう決して誰にも危害を加えることはないと断言する」


―――と静かに諭すと、イェンリンが立ち上がり、


「―――それをどう証明する?腹の中ではお前を謀っているのかも知れんぞ?」


と八雲に問い掛けてくるので白金に目線を送ると、


「……はい、主様/////」


それを察してか、返事を返して蒼い袴の帯を解くとパサリと床に落として、巫女服の合わせも開けさせていく―――


「……/////」


その白い肌を曝け出した白金の下腹部には、八雲のモノである証しである『龍紋』がクッキリと浮かび上がっている。


それを見てイェンリンは押し黙ってそれを見つめ、白雪はその冷たい視線をそれに向けて何も言わない……


ダイヤモンドに至っては少し暗い表情まで見せて視線をそっと逸らした。


だが、そこに白金の前に庇うように立ちはだかりイェンリンや白雪に向かって―――


「―――もういいよね?これ以上のことをこの人にしたら、それは自分を貶めることだって分かってるよね?白雪も私のために怒ってくれてるのは嬉しいし、ありがとう。でも、もうこんな辱めるやり方はお互い嫌な想いをするだけだよね?だから、もう、これで終わりにして欲しい」


―――誘拐された当事者の雪菜がイェンリン、白雪、ダイヤモンドに語り掛けた。


「……余は雪菜が良いのであれば、何も言うことは無い」


イェンリンのその言葉に同意したのか、白雪もダイヤモンドも威圧するような気配は無くなっていた。


そしてその状況を見ていた白金は雪菜の前に跪き、


「一度ならず二度までも庇って頂いたこと、心より感謝申し上げる。白神龍の御子様……」


と静かにその場で頭を下げる。


そんな白金を見た雪菜は着物を開けた全裸に近い女性にそんなことをされてテンパってしまった。


「―――い、いいから!もうこれで!だから頭を上げて!あと服着て!八雲が襲っちゃうから!/////」


「はあ!?誰が襲うか!やるならもっと暗くなってから―――あっ……」


昔からの雪菜とのノリで余計なことを口走った八雲に周りの女性達から盛大なジト目が送られてくる。


「おっふぅ?!……ふぅ……『精神耐性』が無かったらやられてたな……」


「―――いや、今のは『精神耐性』は対象外だろ」


というノワールのツッコミで一応オチがついた―――






―――そこからは白金から雪菜の誘拐の件についての真相を問い質す時間となった。


とは言っても既に八雲への忠誠を誓う立場となった白金に尋問拷問などをしようという者はこの場にはいない。


「しかし……よくあの状況からこの短時間で堕とせたな?八雲よ、一体どうやって堕としたんだ?」


イェンリンがニヤニヤしながら問い掛けてくる。


「―――媚薬と過敏薬で薬漬けにして強制絶頂24時間」


「おい!!此処にとんでもないクズ男がいるぞ!!!」


八雲の返答を聴いて即行でツッコミを入れるイェンリンは、まさに剣聖技と呼べる見事な間でのツッコミだった。


「ゴクリ……ねぇ八雲、今度それ私にも―――」


「―――もうひとり変態がいたぞ!!!」


冴え渡る剣聖イェンリンのツッコミが雪菜にも突き刺さる。


「冗談は置いておいて、この白金は『天孤』の位を持ち、今は俺の眷属であり葵の義姉妹にもなった。これからは葵と共に皆良くしてやってくれ」


八雲の言葉にノワールと龍の牙ドラゴン・ファング達が頷いている以上、他の神龍の縄張りから来た者達は何も言えない。


「そして、これから白金に何故雪菜を攫おうとしたのか、その経緯を説明してもらう」


いきなり本題中の本題に入る八雲の言葉に一瞬で全員が緊張の空気に呑まれた。


「まず私が白神龍の御子様を攫おうとしたのは、一言で言えば取引の条件だった」


「―――取引?それは一体どんな取引だというの?」


静かに白雪が訊ねるが内心はドス黒い炎が渦巻いていることは誰の目にも分かる。


「私はある物を手に入れるために故郷であるアンゴロ大陸を出たのだ。そして私はアンゴロ大陸中部のミッテから、フロンテ大陸東部エストのブロア帝国に渡った―――」


白金の言葉を全員が息を呑んで黙って聴いている。


「―――ブロア帝国から西のアズール皇国に入国した時に、その男は突如、私の前に現れた」


「誰だ?そいつは?」


八雲の問いかけに白金はゆっくりと息を吸って、


「蒼神龍の御子……マキシ=ヘイト」


静かにその名を告げた白金に対してイェンリンの顔が険しくなる。


「ヘイト……やはりヨルンの」


先代蒼神龍の御子ヨルン=ヘイトの孫が当代の御子だという話は、これでほぼ確定したと言えるだろう。


「それで、その男はどんな男でなんのためにお前の前に現れた?」


―――八雲が続きを促す。


「見た目の歳は主様とさほど変わりませぬ。ですが決定的な特徴は、あの者は魔族です」


「魔族だと?魔族っていうとあのアードラーとか街中にもいる額に角が生えた種族だよな?」


八雲は問い直すが、そこでイェンリンが、


「―――ちょっと待て!ヨルンは間違いなく人族だったぞ!」


と白金に確かめる。


「マキシ=ヘイトは間違いなく魔族の血が入っている。その証拠に額には二本の角が生えていた」


白金の返答にイェンリンが押し黙るが、


「それって魔族の血が入った―――つまりハーフということはないのでしょうか?」


―――そこで自身の前世がハーフだったこともありユリエルが発言する。


「ハーフか……確かにヨルンの息子か娘が伴侶を魔族から選んだとしたら、考えられんことではない」


イェンリンがユリエルの意見を参考に冷静に考えを巡らせる。


「ここでそこを突き詰めても答えは出ない。白金―――続きを」


八雲に促されて白金は続ける。


「突然現れたマキシは自分の願いを聞いてくれたら、私の探している物を渡すと交渉してきた。私が探している物はそんな簡単に手に入るものではないし、最初は詐欺師かなにかだと疑っていたが―――」


「―――持っていたという訳か?」


八雲の言葉に白金が「はい」と頷く。


「それを見せられてしまっては、私はその取引にのることしか選択肢はなかった。そして奴の言う通り、まずはエーグルに行って暗殺ギルドを動かし、次にリオンにも行ってティーグルの王族の暗殺を画策した」


「―――ちょっと待て?葵のことを『災禍』に変えた妖狐はお前じゃないのか?」


「いいえ、私ではありません。それに私の能力では葵義姉様を『災禍』に変える『術』など掛けることも出来ません」


「―――主様。妾は『空狐』でありますれば、『天孤』に術を掛けられることなどありませぬ。白金の実力では妾に返り討ちとなっているでしょう」


「確かに。それほど『天孤』の私と『空狐』の葵義姉様では天と地ほどの能力の差があるのです」


「ということは、その妖狐も別で注意が必要だと……」


「そういうことになります。話を戻しますが―――マキシの願いは三つ、そして最後の願いが白神龍の御子の誘拐でした」


「ひとつ訊くがお前は雪菜の誘拐が成功していたとして、その後はどうするつもりだった?」


八雲からの問い掛けに白金の顔は一瞬歪んだが―――


「もし成功していれば……その後、マキシに引き渡す手筈となっていました」


―――と苦しそうな表情で答えた。


「なるほどな……マキシ=ヘイト……どうやらそいつは、本当に俺の敵らしい……」


雪菜を攫わせようとしていた男―――マキシ=ヘイトに対する憎悪が八雲の中で渦巻いていき、それは全身から吹き出る『殺気』によって他の者達にも伝わってきていた。


だが八雲の『殺気』で逆に冷静になったイェンリンは、


「―――これで八雲を標的にしている線はかなり濃厚となったな。グズグズしてはおれんな……八雲、明日にでも出発した方がいいだろう」


一週間後という予定で明後日には出るつもりだったが、それを一日前倒ししようとイェンリンが提案する。


「ああ、そうだな。他の皆も聴いた通りだ。明日出発するから今日は準備に取り掛かってくれ!」


八雲の言葉に皆が頷き、そしてノワールは―――


「アリエス!ダイヤモンド!フレイア!今すぐナターシャのところに行って天使達の件を話しにいくぞ!!」


―――とシェーナ、トルカ、レピス、ルクティアの幼女四人をヴァーミリオンに連れて行く話をするためにテーブルから飛び上がって離脱して、エルフの娘達のところへ急ぎ飛び出していった。


「うん……なんかもう……ツッコミを入れる気にもならなくなってきたよ……」


ガクリと肩を落とす八雲に雪菜は「まあまあ」と苦笑いで慰めの言葉を掛ける。


明日には此処を旅立たなければならない―――


「―――ところで白金の探している物って?」


「ああ、それは……また今度お話し致します」


―――言葉を濁してはっきりとは教えない白金。


歯切れの悪い返事で白金はそれ以上、今は語らなかったので八雲もそこは深く追求することをやめた―――






―――そして翌日、


昨日突如としてノワール達が家に押しかけて来たナターシャはその対応に憔悴していたが、幼女達四人のことは逆に迷惑にならないかと訊いたところ、アリエス以外の三人に強烈な圧で「大丈夫!!!」と詰め寄られて了承したとのことだった。


とりあえずチビッ子四人はノワールに買ってもらった服を着て黒龍城に集合していた。


レベッカにルドルフ、それにどこから聴きつけたのかラースにナディアまで見送りに来ていた。


ラースとナディアの腰には八雲から貰った漆黒刀=比翼と漆黒刀=連理がある。


八雲は残留する龍の牙ドラゴン・ファング達に留守中のことを頼み、レベッカ達にも何かあれば黒龍城に伝えるようにと言っておく。


そして八雲は―――


「『空間船渠ドック』―――開放!」


『空間創造』の加護で造られた『空間船渠ドック』の扉を開放すると、その中に入渠していた黒翼シュヴァルツ・フリューゲルがゆっくりその雄姿を外の世界に現わす。


幼女達は空が突然裂けて、そこからゆっくりと飛び出してくる巨大な船体を見上げながら、


「―――しゅごい!」


と口々にキャッキャ!とはしゃいで叫んでいた。


そんなはしゃぐ幼女達を見てニマニマしているのはノワール、フレイア、ダイヤモンドの三人だった……


そしてゴンドラが降りて来てそれに全員で乗り込むと、内部の長い通路を皆で移動して船内を進み、やがて広間の前に来てドアを開ける。


そこには当然ながらこの船の頭脳である彼女が待っている―――


「―――ようこそ黒翼シュヴァルツ・フリューゲルへ。私はマスターに造られた自動人形オートマタのディオネだ。この艦の『艦長』をしている。間違えないでもらいたいが『艦長』だ」


―――相変わらずの拘りのある挨拶に初めての顔ぶれは面食らっていたが、


「艦長!?―――じゃあやっぱりこれは宇宙戦艦!?宇宙戦艦なの?!」


とひとり興奮していたのは雪菜である。


「宇宙戦艦?ふむ、まだ宇宙へは行ったことはないが、この黒翼シュヴァルツ・フリューゲルは深海でも航行できる設計であるから行けないことはないと思うが」


とディオネは真面目に答えているのを八雲は苦笑いで見ていた。


「八雲!八雲!―――この船を余にも造ってくれ!金は言い値で払うぞ!!」


「別に金には困ってないし、紅蓮に怒られるだろ?」


「なぁに♪ ちょっと国庫から払えばバレる心配などないから!―――なぁ頼む!!金がいらないのなら他に望みがあれば聞くぞ。なんなら夜伽の相手でもやぶさかではないぞ♡」


「考えておくよ……」


「―――本当だな!嘘だったら余が泣くからな!!」


「マジで!?―――ちょっとそれ見てみたいんですけど!?」


「いい加減に出港してもいいだろうか?マスター」


イェンリンとの掛け合いに嫌気の刺したディオネが割り込んで来る。


「あ、はい。オネガイシマス……」


締まらない言葉で八雲達は留学への旅へと船出して、黒翼シュヴァルツ・フリューゲルは一路エーグル公王領へと向かうのだった―――




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