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第127話 真紅の皇帝の帰国

―――広大に広がる星空の中、


黒翼シュヴァルツ・フリューゲルは明日の朝到着へと時間調整のため低速飛行に入っていて、艦内のメンテナンス担当であるドワーフが航行中にディオネから艦内の指示をされたところの点検に回っていた―――


夕食はフィッツェと八雲が合作で皆に振る舞い、チビッ子達は最早当然のように保護者役のノワール、アリエス、フレイア、ダイヤモンドの膝の上に定着している。


そんな賑やかな食事も済ませてから子供達は一緒がいいだろうと四人をベッドに寝かせて、その部屋にアリエス、フレイア、ダイヤモンドもなにかあったときのためにと一緒に添い寝していた。


そして、八雲の寝室には―――


「あ……ん……あん……いい……はぁああ/////」


仰向けになった八雲の腰の上で脚を開いてノワールが上下に揺れる。


「あん、やくも、ああ、…ん、今日……いつもより、あう、すごいぃ/////」


潤んだ唇を半開きにしながら喘ぎ声を上げるノワールの目の前で揺れる胸を優しく鷲掴みにしながら、


「ノワールが可愛すぎて、興奮が収まらなくてそうなってるんだ―――よっと!」


「アァアアア―――ッ/////」


掛け声と共に八雲が下から突き上げるとノワールが頭を後ろに仰け反らしながら天に向かって舌を突き出してプルプルと震える。


仰け反った状態から前倒しに八雲に覆い被さってきたノワールが、淫靡な笑み浮かべてキスの雨を八雲に降らせる。


「んちゅ……ちゅ、ちゅ/////」


そんなノワールを抱きしめて、背中や尻を撫でながらお互いの存在を確かめるように舌を吸い合い、唇を押し当て合う。


―――それからノワールとの夜を何度も堪能した八雲は一息ついて、息のまだ荒いノワールに腕枕をしながら質問をする。


「ノワールはヴァーミリオンに行ったことがあるのか?」


「ハァハァ♡ んんっ……うん?ヴァーミリオンか?……そうだな……覚えていない程度には行ったことがあるな。長い時だと三年くらいは世話になっていたことがある」


「え?―――そんなに縄張りから離れていても大丈夫なのか?」


ノワールの返答に八雲は思わず驚きの顔を見せるとノワールがジト目気味に、


「忘れたのか八雲?我らは政には関わらぬ。その地を統治している訳ではないからな。だからその地を何年離れていようと別に問題無い。流石にイェンリンと紅蓮のように数百年も統治に関わると、しがらみが出来て気軽に離れられなくなる場合もあるがな」


「なるほど……なぁ、ノワールの目から見てヴァーミリオンは、どんな国なんだ?」


「ヴァーミリオンか?そうだな……国力は高く食料の自給自足も行き渡り、技術は最先端を常に求めて、そして何よりも強くあろうという国だな」


「それほどの国なのか……シュヴァルツと比べたらどのくらい違うんだ?」


「一概には比べられん。だが、ひとつ大きな違いがあるとすれば―――」


「あるとすれば?」


「―――人口だな」


「人口?人が多いってこと?」


「ああ。ヴァーミリオンはフロンテ大陸最大の国家だが、人口も最大の国家だ。その意味が分かるか?」


一瞬黙り込んだ八雲だったが、


「優れた技術と人が働ける場所の多さ、安心して暮らせる治安の良さに教育制度、国家としての統治力が高いってことか?」


「そうだな。ヴァーミリオンはそれらすべて兼ね備えている国家だと思っていれば間違いはない」


「シュヴァルツが戦争になったりしたら間違いなく負けるな……」


「そうならないようにするのが為政者というものだろう。隣国と上手く付き合っていくのもお前の器量というものだ」


「うへぇ……イェンリンと上手くやっていくなんて、それどんな無理ゲーだよ……」


「そうか?我は、八雲はかなりイェンリンに気に入られていると思うぞ?でなければとっくに斬られている」


「いや一回殺されているし……え?俺いつの間にそんな危ない橋渡ってたの?」


まったく身に覚えがないといった具合で驚きの顔を見せる八雲にノワールは笑みを浮かべて、


「ふふっ♪ そう思っているのはお前だけだぞ?八雲……我は、お前とどこまでも一緒に行って、この世界で楽しく過ごしていきたいのだ」


そう言ったノワールは八雲の首に腕を巻き付けてピタリと肌を重ねてくる。


「俺だってそうだよ、ノワール」


八雲は抱きつくノワールの背中に腕を回して、そのまま朝まで眠りに就いたのだった―――






―――翌朝、八雲とノワールが艦内の広間に向かうと、


「あ、おはよう八雲♪―――ねぇ!ねぇ!見て!見てあれ!!」


雪菜が走り寄って来たかと思うと、窓の外を指差し八雲の腕を引っ張る。


「おお、どしたの?雪菜ちゃん?朝っぱらから」


まだ少し眠気の残る八雲は、欠伸をしながら雪菜に連れられて窓際まで向かって行くと、外の景色を見て一気に意識が覚醒する。




目の前に広がる光景は―――




―――ヴァーミリオン皇国の首都レッド。


フロンテ大陸北部ノルドにあって、広大な支配地をもつヴァーミリオン皇国はフロンテ大陸最大の国家であり、またその首都であるレッドはティーグル皇国の首都アードラーの数倍の大きさに広がり、建造物もどこまで広がっているのかというくらい立ち並んでいる。




そんな大都市には縦横無尽に走る整備された幅の広い道が何本も八雲の目に入り、そこを今も多くの人々や馬車が行き交っているのが上空からも見える。




そして、その大都市の中央にある崖上の岩山には巨大な真紅の城壁に囲まれた皇帝の城―――『紅龍城』が聳え立っていた。




黒龍城よりも広い敷地と建造物、幾重にも囲まれた城壁と中央に向かって積み重ねるようにして高さが上がり、一番高い位置に建てられている中央の城も真紅に全面が染め上げられており、その中でも特に高い位置にある空中庭園のように張り出しているテラスも見える。




「これは……この世界に、こんな大都市も存在するんだな……」


「ねぇ~!スゴイよねぇ~!アルブムの首都より大きいよぉ……何人くらい住んでるのかなぁ?」


八雲と雪菜が窓際に並んで上空から眼下に広がる大都市に息を呑んでいると、


「―――人口およそ五百万人、ヴァーミリオン皇国最大の都市、それが首都レッドよ」


窓の外の光景に夢中になっているふたりに、後ろから親切にも都市人口を教えてくれる声がする。


「―――おはよう紅蓮」


「あ、おはようございます♪ 紅蓮さん」


「ええ♪ おはよう八雲さん、雪菜さん。ヴァーミリオンの首都を見た感想はどうかしら?」


にこやかな表情でふたりに問い掛ける紅蓮。


「もうスゴイです!アルブムの首都も大きい街だなぁって思いましたけど、予想していたよりも大きくてビックリしちゃいました♪」


「ああ、アードラーよりも数倍は大きいのが見ただけでも分かるよ。でもこれほどの大きさになるにはそれほどの人口と安全な生活環境がなければ無理だよな」


ふたりの返事に満足したのか、紅蓮が続けて語り出した。


「ええ、そうね。ここまでの都市にするのにイェンリンはすべてを懸けてきたわ。この都市の発展はイェンリンが費やしてきた時間と比例するの。あの子は何も持っていなかったから……」


「えっ?今なんて―――」


八雲が訊こうとした時に、


「おお♪ 帰ってきたぞ!余の愛するヴァーミリオンに!―――どうだ八雲?ん?スゴイか?余の国は最高だろう?ん?」


「ウザいなこの人……」


ドヤ顔の連発をぶつけてくるイェンリンに八雲はイラッとしたものの、目の前の大都市は確かに凄いと言わざるを得ないものだった。


「なぁイェンリン。ここまで都市を大きくしてきたのには何か目的があったのか?」


「ん?それは自分で考えてみることだ八雲。これからお前達はあそこで生活する。その中で自分なりの答えを出してみよ」


「何それ?勿体振らずに教えてくれてもいいのに……でも、まあそうだな。自分の目で見るのが一番か」


「そうだよ八雲!自分から学ばないと身につかないのは道場で散々教えられてたじゃない。初心忘れるべからず!だよ♪」


「ほお♪ 雪菜の方が分かっているみたいではないか?八雲、お前も精進しろよ!」


「なんで女ってマウント取りたがるの?どうでもいいことでもマウント取りたがるよね?なに?マウンティングマウンテンなの?」


「マウント?マウンテン?なにを訳の分からぬことを言っているのだ?」


意味の通じないイェンリンは首を傾げているが、雪菜は現代日本人の女性だけに意味は理解できているので苦笑いを浮かべる。


するとそこにディオネの声が艦内放送で響き渡った。


『―――マスター。まもなく『紅龍城』に接舷するが、あのテラスに接舷してもかまわないか?』


そこでイェンリンに顔を向けると、


「ああ、かまわんぞ。だがぶつけたりして余の空中庭園を壊さないでくれよ?」


「―――だ、そうだディオネ。接舷には注意しろ」


『―――了解した。間もなく接舷態勢に入る』


そう言ってディオネの館内放送は切れた。


ヴァーミリオンの首都レッドの上空を飛び越え、紅龍城へと向かって行く―――






―――その時、


地上の首都レッドでは国民達が、


「なんだ!!?―――あの黒いのは!!!!」


「―――飛んでるぞ!!!」


「―――どこかの国が攻めて来たのか!?」


「あの方向は紅龍城よ!!!陛下が危ない!!!!」


「―――紅龍城を攻めに来たのか!!!クソが!!!!この国は最強のヴァーミリオンだぞ!!!!」


「―――剣聖陛下のお膝元に攻めてくるとは命知らずが!!!!」


と民衆は黒翼シュヴァルツ・フリューゲルを見て、初めは何だ?何だ?と声を上げていたが、その向かっている先が紅龍城だと誰かが言い出した途端に、自動的に『敵認定』され、『仮想敵国』から来た侵略者扱いまでされ始めていた―――






―――そんな地上の状況を知る由もない黒翼シュヴァルツ・フリューゲル艦内では……


「ノワールお姉さま!ヴァレリアお姉さま!ユリエルお姉さま!―――街の皆さんがこちらに向かって手を振って下さっていますわ☆皆さん歓迎してくれています♪」


窓の外の地上を見下ろしてシャルロットがキャッキャ☆と喜んでいると、


「おお、我らの来訪に歓喜の声を上げているようだな!ほぉ~らシェーナ♪ 皆が手を振ってくれているぞぉ~♪」


「……ばいばい」


シェーナはそう言って窓の外に手をフリフリして、その様子を周りの乙女達はほんわか温かい笑みを浮かべて見ている。


「余の国なのだから当然の歓迎振りだな!可愛い民衆達よ♪ 余の帰国をそれほどまでに待ち望んでいたとは」


イェンリンも満足気にムフー!と鼻息を吐いているが八雲は……


「これにイェンリンが乗っているって、どうやって分かるんだよ?それによく見るとあれって……」


「……あっ」


窓の外は民衆の中から剣や槍を取って紅龍城に向かっている民衆が見えていた。


手に持った武器が陽の光に反射して、地上がギラギラと輝いているのが艦内の全員の目に映り、全員がサァーッと顔色を青くする……


「暴動……だと……」


八雲は静かにそう呟くと、雪菜がアワアワと慌てだして、


「ど、ど、どうしよう八雲!?このままだと私達張り付け獄門だよ!魔女狩りだよ!火焙りだよ!」


「落ち着け雪菜。お前は可愛いから市中引き回しされてからだ」


「―――嬉しくないよ!そのオプション!!」


そこにイェンリンが、


「しかし……このまま大きな暴動になるのも放ってはおけん。余の民衆がこんなことで傷つくなど望んではおらんからな」


「―――それじゃあ俺に任せてもらってもいいか?」


冷静に問い掛ける八雲の顔をイェンリンは驚きの表情を見せて、そして真面目な顔に戻り、


「なにか手があるのか?」


「ああ、たぶん一発で収まる」


「言っておくが攻撃なんぞしたら余の剣が黙ってはおらんぞ?」


「―――そんなことするかよ!それじゃあやるぞ」


「ああ、分かった。お前を信じよう」


その言葉に八雲が頷くと、リオンのピッツァを宣伝したときの光属性基礎ライト・コントロールを発動し、


「ディオネ!紅龍城の手前で旋回!暫く円周飛行で待機だ」


『―――了解したマスター』


艦内放送でディオネが返事をする。


そして八雲が魔術を発動すると、空には巨大な広告が浮かび上がる。


「―――投影プロジェクション!!」






『ヴァーミリオン皇国皇帝 炎零=ロッソ・ヴァーミリオン』


『シュヴァルツ皇国より天翔船に乗って帰国した』


『シュヴァルツ皇国の黒神龍の御子、ヴァーミリオン皇国に留学のため共に入国』


『驚かせたこと謝罪する』


『皆、冷静に元の生活に戻る様に』






首都レッドを覆わんばかりの巨大な文字が空に浮かぶと、その文字の下を旋回する黒翼シュヴァルツ・フリューゲルを注目していた民衆はその巨大な《投影》に始めは驚いていたものの、その内容を読んで次第に冷静さを取り戻していく。


「天翔船……あれは船なのか!?」


「―――陛下があの船に?本当なのか?」


「流石は陛下……空を飛ぶ船に乗って帰国とは……」


と正体不明の飛行物体の正体が分かると、次第に冷静さを取り戻してきた民衆は剣を納めだしているのが艦内からも見えて皆、胸を撫でおろしていた。


「こんな《投影》の使い方があるとはな……」


「リオンで料理屋の宣伝に使ったことがあるんだ」


「料理屋にだと!?……その店はどうなった?」


「人が押し寄せて大変だった……」


「当たり前だろう……しかし、本当にお前は面白いヤツだ。余もこういうのは嫌いじゃない」


「え?―――大丈夫かイェンリン?まともな事言ってるぞ?」


「お前は余のことを何だと思っているのだ?」


「……言っていいのか?」


「―――余の魔剣が抜かれぬ自信があるのならな♪」


そう言って影の差す表情でニコリと黒い笑みを浮かべたイェンリンに八雲は冷たい汗が背中を流れる。


『―――マスター。そろそろ城に接舷してもよろしいか?』


「あ、はい!よろしいですディオネさん!」


艦内放送のお陰でなんとかその場を流した八雲。


そうして城の空中庭園になっているテラスに接舷すると、バルコニーにはフレイアと同じ真紅の鎧を身に纏った紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー達が待ち構えているのだった―――



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