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第130話 バビロン空中学園

「―――バビロン……空中……学園だと?」


イェンリンの口にした学園の名前に八雲は思わず自分の中の厨二心が揺さぶられたが、そこは努めて落ち着きを取り戻して訊き直した―――


「ああ。このノルドの地の最北端近くには、浮遊岩ふゆうがんという空中に浮遊している岩があるのだ。その浮遊岩の中から大きな物を此方まで運んできて、その上に街や学園を建てたというわけだ」


「つまり……空飛ぶ学園ということか?」


「一言で言うとそうだな」


「……マジ?」


「マジだぞ。浮遊岩を運ぶのが大変だったのだ」


そこまで八雲とイェンリンの会話を聴いていた紅蓮が、


「ちょっと!―――飛行岩を運んできたのは私なんだから!イェンリンは岩の上に登って頑張れぇ~!とか言っていただけじゃない!もうホントにあの岩、重かったんだから!!」


そんな剣幕で怒り出したものだからイェンリンも、


「―――すまん♪ すまん♪」


とニヤついた顔で誠意のない謝罪を繰り返す。


プリプリと怒っている紅蓮を見ながら八雲は頭の中で、本体に変化した紅神龍が大きな空飛ぶ岩を「うんしょ!うんしょ!」と運ぶ姿を思い浮かべて笑いが込み上げてくる。


「まあ、そんな感じで運んできた浮遊岩は全長二十kmある。その上部を整備して学園を建て、ゴンドゥルに魔術でこの首都レッドの周囲を周回しながら飛行するようにしてもらったのだ」


その話を聴いてふとゴンドゥルに視線を向けるとウフッ♪ と綺麗な笑顔を見せていた。


「全長二十kmって、そりゃデカいなんてもんじゃないな……もうそれ浮遊島だろ?でも空中にあるのにどうやって通うんだ?空中浮揚レビテーションで皆通ってるとか?」


「確かに空飛ぶ島といっても過言ではないな。通学についてはそういった生徒もいるようだが、基本的にはゴンドゥルの魔術で周回しながら登校時間、下校時間には地上の決まった昇降場所に着陸するように、それも魔術で組み込んでもらっている。その着陸時に生徒は乗り降りして通学しているという訳だ」


「なるほどな。ある意味電車の環状線みたいなもんだな……でも、もしもなにかの理由でそこに間に合わなくて降りられなくなったりしたらどうするんだ?」


「その時は飛行岩の上にある宿屋か、安価で利用できる学生寮を借りて泊まるか、それこそ自分で飛んで家に帰るかだな。実は観光名所にもなっていてな。そういう宿や土産物屋、食事をする店といった街もあるんだ。そこで働いて学生の小遣い稼ぎの場所にもなっている」


「へぇ~!そりゃ凄い!!アルバイトか!なんだかおもしろそうな学園だな。皆はどうだ?」


ヴァレリア達に向いて訊いてみると、まずは元気なシャルロットが、


「まるで夢のような学校ですわ☆わたくし、ずぅ~と学校に行ってみたいと思っておりましたから、初めて行く学校が空を飛ぶ学校だなんて感激ですわ♪」


と瞳をキラキラさせて答える。


「わたくしも学校に通うのは初体験ですし、イェンリン様のお話を聴いて胸がドキドキしておりますわ」


ヴァレリアも王女という立場で学校に通った経験がないので、これから通う学園に期待している様子だった。


「―――ユリエルはどう?」


八雲に問われたユリエルも笑顔で、


「正直言ってまた学校に通えるなんて思ってなかったから嬉しいよ。でも、在校生と上手くやれるかがちょっと不安かな……」


現代日本で育った頃の記憶を思い出したのであろうユリエルは、虐めといった現実的な問題に不安を抱いているのだろう。


「大丈夫だよユリエル♪ もし何かあっても八雲が何とかしてくれるから♪」


そんなユリエルに隣から抱き着いて励ます雪菜にも八雲は尋ねる。


「お前は特に不安とかないのか?」


「うん?私?あるわけないじゃん。だって八雲がいるんだし、それに何かあっても『伝心』で八雲に伝えたら助けに来てくれるでしょ?」


その雪菜の言葉にヴァレリアもシャルロットもユリエルも、そしてイェンリンまでがハッ!とした表情になる。


「たしかに……『伝心』を利用することを考えていなかったな。だとしたら……」


そう呟くイェンリンは一旦置いておいて、次に八雲は紅蓮に質問したいことを訊くことにする。


「―――その学園の生徒って制服とかあるのか?」


「ええ♪ あるわよ。ちゃんと用意してあるから楽しみにしておいてね♪」


「そうなのか?そんな用意までしてもらってなんだか悪いなぁ」


「元々こっちが言い出した提案だもの。気にしないでちょうだい♪」


「あ、そういえばクレーブスを臨時講師にするって言っていたけど、先生にも決まった制服とかあるのか?」


「いえ、講師にはそんな決まりはないわ」


それを聞いた八雲の瞳がキラン☆と光を放つ。


「よし!クレーブス!お前の講師用の服を作るから、学園に行く時はそれを着て行くように!」


「え?いえ、私はいつもの恰好で―――」


「―――メイド服に白衣とか、それなに狙いだよ!たくさんの生徒の前にそんな恰好で行かせられるか!いいから俺に任せろ!」


「ヒィ!?―――ハ、ハイ!承知致しました八雲様」


突然ハイテンションになった八雲に全員が「んん?」と首を傾げたが、その中で雪菜だけが、


「八雲……『女教師』と言ったら―――あれだよね?」


知っているぞと言わんばかりのドヤ顔を向ける。


「クッ!!さすが雪菜……俺の考えを既に読んでやがるとは!」


八雲が悔しさを表に滲み出している間にイェンリンが立ち上がる。


「―――八雲よ!!!」


「うお!?―――なんだよ!?急に大声だしてさ?」


大声に驚いた八雲だったがイェンリンはこの後、更に驚愕の台詞を八雲にぶつける。


「お前、ヴァレリア王女とシャルロット、それにユリエルと初夜を迎えろ!」


突然の強制初夜イベント発令に八雲だけでなく、その部屋にいた全員が凍りついていた……


ノワールも白雪も紅蓮も口がポカーンとなり、ブリュンヒルデは義姉妹の言葉に何故か頭をハンマーで叩かれたような衝撃が走っていた―――


「ちょ、ちょっ、待てよ!」


―――言っていることに理解の追いつかない八雲は、イェンリンの意図を探ろうと自分自身を落ち着かせなければならない。


「なんだ?この三人に不満などなかろう?余が男ならばとっくに抱いて自分のモノにしているぞ?」


「いやそうなんだけど、そうじゃなくて!―――なんで突然この場でそんなことを言い出したのかってことだ!理由があるだろ?」


話しが突拍子もなくて付いていけないので理由を求めると、


「理由か……まず一つ目の理由は、これは三人の安全のためだがお前の『龍印』で三人に『龍紋』を刻み、彼女達がどこで何があったとしてもすぐにお前に助けを呼べる体制を取るためだ。そして二つ目はこれも『龍紋』に関係があるが、それによってステータス向上の加護を受ければ、何かあった時に自分でも対処がしやすいことだ」


「理屈は確かにそうだけど、でも―――」


何かを言い掛けた八雲の言葉を遮ってイェンリンが続ける。


「―――そしてこれが一番大事な理由だが!」


「一番大事な理由?」


「いい加減に姫達の気持ちも察してやれ!―――この朴念仁がぁあ!!!」


イェンリンの怒声に思わず八雲はビクッと全身を強張らせる。


「乙女をいつまで待たせる気なのだ!お前は!多くの女を娶っているくせにそんな妻達の気持ちも汲んでやれんようでどうする!!!」


「―――ッ!!」


イェンリンの力の入った言葉に八雲はグウの音も出なかった。


そこでノワールが助け舟を出す。


「なぁ八雲―――お前がヴァレリア、シャルロット、ユリエルの三人を大切に想っているのは我もよく分かっている。王女に公爵令嬢に聖女……どの肩書きを聴いても丁寧に扱いたくなることもな。だがな、彼女達にもちゃんと感情がある。彼女達はお前と夫婦になりたくてここまでついて来てくれたのだ。それに応えなければ我の夫として失格だぞ」


ヴァレリアは一国の王女、シャルロットはその国の公爵令嬢、ユリエルは隣国の聖法王の孫にして聖女と呼ばれ、八雲の中ではそんな肩書きを気にしないと思っていたものの、無意識では『高貴な血筋』『神聖なる乙女』といった彼女達の出自から遠慮の意識が働いていたのだ。


そのことを指摘されて自覚した八雲は―――


「―――分かった。明日の夜、三人と初夜を迎える。だが!それは『龍紋』とか『伝心』とかそんな理由で抱くんじゃない!俺が三人を妻として想っているから……愛しているから抱くんだ!!!だから、三人も明日の夜までに覚悟を決めてくれ。それでもどうしてもまだ無理だと思うなら、それまでに伝えてくれたらいい」


―――三人に向かって真剣な眼差しでそう伝える。


「八雲様、わたくし達はとっくに覚悟は出来ております。貴女様に嫁ぐことを決めました時から」


「ヴァレリア……ありがとう」


「八雲様!わたくしも助けて頂いた時からずっとお慕いしております。安心してください☆お母様から閨の作法は色々と教えて頂いております☆/////」


「シャルロット……そこはかとなく不安な台詞はあったけど、ありがとう」


「八雲君……私はあっちの世界でも経験はなくて、本当に初めてだけど……痛くても血が出ても我慢するから!/////」


「ユリエル……痛みは『回復』で感じさせないから安心してくれ。あと一番、生々しい話を、ありがとう」


全員の了承を聞いて、ノワールも、うむ!と頷いて納得し、その影でブリュンヒルデは何故か三人に複雑な感情が浮かんでくる。


(私は一体、どうしたというのだ!?あの三人を見ていると、胸の奥がモヤモヤして切なくて、ああ!なんだかもう!本当に―――)


「―――羨ましい/////」


そうボソリと独り言を呟いたブリュンヒルデがなんてことを呟いてしまったのかと慌てて自分の口を抑える。


だが、その対応はすでに遅かった―――


―――すぐ傍にいたイェンリンと紅蓮、そしてフレイアにまで今の呟きを聴かれてしまったのだ。


そしてイェンリンが途端にニヨニヨとした不快な笑みをブリュンヒルデに向けると、


「よぉし!話は決まったな!!―――では明日の夜に向けて皆もう休むとしよう!それと八雲!!」


「お、おう?なんだよ?」


「―――お前は明日ブリュンヒルデとデートだ!」


「ちょっ!?イェンリン!!!なにを勝手に言って―――」


慌ててジタバタとするブリュンヒルデだったが―――


「―――まぁ、いいけど」


―――八雲はアッサリと承諾する。


「へっ!?―――八雲殿、いま、なんと?」


「―――別に遊びに行くってことだろ?それにレッドの街も見ておきたかったから、ブリュンヒルデが案内してくれると助かるかな」


「だ、そうだぞ?ブリュンヒルデ?八雲から頼んでいるのだ?まさか断らないよな?」


相変わらずニヨニヨしたイェンリンと、まるで子供を見つめる母のような微笑みの紅蓮、そして複雑な笑みを浮かべるフレイアを見てからブリュンヒルデはカァーッと顔を赤くして一言、


「―――承知しました/////」


と返事するのがやっとだった―――






―――談話室から解散した後


雪菜はヴァレリア、シャルロット、ユリエルを自分に与えられた紅龍城の客室に招集していた。


「―――それでは今夜は明日の八雲との初夜に向けて、予習をしまぁす!!」


ムフー!と鼻息を噴き出す雪菜にヴァレリアとシャルロットが元気に返事をして、中身だけ現代日本JKだったユリエルは下手に知識があるだけに顔を赤らめて返事をした。


四人で乗ってもまだ大きいベッドで、すでに四人は就寝用に雪菜が用意したベビードールに身を包んでいる。


ヴァレリアは赤いレースベビードールに赤の下着。


シャルロットは薄い水色のフリル付きベビードールに蒼い下着。


ユリエルは白いレースベビードールに白い下着。


そして雪菜は黒いレースベビードールに黒の下着を身に纏っている。


「うんうん♪ 皆とってもよく似合ってるよ!頑張って選んだ甲斐があったよぉ♡」


「雪菜お姉さまもとっても大人っぽくて、格好いいですわ☆」


「お!ありがとうシャルちゃん♪ でも黒は私でも大人っぽく見せてくれるし、男の子も黒い下着には興奮度が増すから、ここぞという時にはお薦めだよ!」


「なるほどぉ☆さすが雪菜お姉さまですわ♪ 勉強になります!」


「あの、雪菜……わたくしの赤いこれは、どうなのでしょうか?」


「リアちゃんの赤も男の子には黒と同じく興奮させる色だよ!元々、赤色って生き物を高揚させる効果があるみたいだから♪」


「そ、そうなのですね/////」


―――いつの間にか呼び捨てや渾名で呼び合える仲にまで発展しているのは雪菜の才能と言っていい部分だ。


「シャルちゃんやユリエルが着ているのは本人のイメージと合っているから、それもまた男の子としてはグッとくるものがあるんだよ♪」


「なんだか学校の教室で経験済みの友達から話し聞いている時みたいな気分……」


ユリエルは日本の学校にいた男性経験豊富な友達の話を思い出していた。


「うん、似たようなものだけど私は八雲一筋で八雲しか知らないから、八雲専用だしね♪」


「それだけに説得力はあるわね……」


ユリエルが半ば呆れて返すと雪菜がベッドの上に立ち上がる。


「さあ!それじゃあこれから、実際に明日の夜に八雲と経験することについてしっかりと覚えてね!そして、何よりも皆にとって大切な初めてを八雲に捧げることに幸せを感じて欲しいから」


雪菜の天然な行動や言動によく驚かされることはあるが、八雲のことについては頼りになる人物だと三人もちゃんと理解している。


「さて!それじゃあこれから、私が八雲です!!」


「え?―――はぁ?」


早速何を言っているのか分からない三人……


「これから私が八雲に代わってひとりずつ八雲の触れ方や攻め方を実際にやって体験してもらいます!」


「―――ちょ、ちょっと待って!?それって女の子同士で、てこと?/////」


「大丈夫!私―――八雲のトレースだけは誰にも負けないから!」


ムフーと自信たっぷりの態度にユリエルはドン引きしているが純粋なふたりは違った。


「―――よろしくお願いしますわ!雪菜/////」


「―――よろしくお願い致します!雪菜お姉さま☆」


「ええぇ……これ、私もやらなくちゃいけない流れだよね……よ、よろしく/////」


「了解♪ それじゃ~最初はリアちゃんからね♡」


「へ?いや、わたくしからですの!?ちょっと雪菜!?そこは!あ!―――ああぁあぁ!!!/////」


こうして覚悟を決めた三人を見据えて雪菜はこの夜、全員を何度も気絶させるという神業を披露して、三人の嬌声は空が白むまで続けられたのだった……



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