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第9章 バビロン空中学園編

第138話 浮遊島の学園

―――紅龍城からそれぞれ用意された馬車に乗ってバビロン空中学園の発着場に向かう八雲達


キャンピング馬車はサジテール達がエヴリンをレオパールまで送っていくために使用しているので、紅龍城の所有する馬車3台に分乗した―――


馬車の窓の外を流れる景色を八雲は見つめながら、改めて首都レッドの街並みを確かめる。


街路樹まで植えられて整備された街並みは、この世界の中では一番高度な文明文化を有していることを一見で教えてくれるほどだ。


大通りをそのまま進み、巨大な台座のような内側が擂り鉢状になった発着場に到着すると、馬車は台座に取り付けられた緩い傾斜の坂を昇り、ブリュンヒルデとデートした時に見た物資搬入用のハッチ型の扉が接舷する場所へと向かう。


そこで少し待っていると、認識阻害の魔術隠蔽ハイディングが解除された『バビロン空中学園』が、八雲達の馬車の上空にその姿を現した―――




―――全長二十kmの巨大な島が頭上から風を起こしながら舞い降りてくる。


そして金属で覆われた最下層が、地上の擂り鉢状になっている台座にゴオオオッ!と大きな音を立てて完全に大地へと着地した……


皆がその巨大な浮遊島に向かって目を見開いて見上げていると、


「ふおぉ~!」


馬車の窓から身を乗り出して見ているチビッ子四人組は、空から下りてきた巨大な島に感嘆の声を漏らしていた。


「あれが、これから私達が行く学校なの!?本当に空を飛んでいたよ?!」


雪菜もまた窓から身を乗り出して、風にその黒髪を靡かせながら空を見上げて声を大きくする。


「この光景はマジでファンタジーだよなぁ」


八雲も改めて空から下りてくる巨大な島の金属壁に覆われた最下部の接舷を感心しながら眺めていた。


巨大な接続部が無事着地してから、人の行き来と物資の搬入が始まりだしていた―――


「いよいよ中に入るのか」


―――この間は外からしか見られなかった浮遊島の内部に向かって進む馬車の中で、八雲はワクワクが込み上げてきて止まらない。


馬車は接舷されて上部から開放されたかと思うとそれが吊り橋状になった巨大なハッチを当たり前のように渡り、浮遊島の内部へと進んで行くのだった―――






―――島の内部に入ってすぐに巨大な四角い箱型の場所に馬車は進む。


八雲と一緒に乗り合わせているブリュンヒルデが、


「―――これは魔術昇降機と言ってゴンドゥルが開発した魔道具のひとつだ。多くの荷物を垂直で上に持ち上げる重力魔法を応用したものだ」


―――と、丁寧に説明をしてくれた。


「魔術式エレベーターか」


「ん?えれべぇたぁ?何だ?それは?」


八雲が溢した言葉にブリュンヒルデが反応するが、


「ああ、こういう昇降機のことをエレベーターと呼んでいたんだ。尤も此処まで大きなものじゃなくて、人が十人くらい乗れる感じの大きさの物が多かったんだけどな」


「ああ、これは物資搬入や馬車で入場する専用だからな。人が乗るものは八雲殿が言ったような大きさのものが別にある」


そんな話をしているうちに上に向かう重圧を軽く感じながらも、ようやく島の上に到着して昇降機の安全用に閉じられていた柵が開放されるとそこには―――




「おおお……これ本当に浮いてる島の上なのか?」




―――開いた門の向こうには、地上と見紛うほどの立派な街並みが広がっていた。




―――整備された道路が島の縦横に走り、




―――地上と変わらないくらい多くの建物が並び建ち、




―――その街中を多くの人々が朝の仕事始めで行き交う。




―――ただ地上と違和感があるのは空と雲が近くに感じられること。




―――遠くには緑の丘に植物の森も見えており、そして島の中央には白い壁に金の装飾、八雲の世界にある巨大な西洋の宮殿のような建物が鎮座していた。


「あれが……」


「そうだ。あれがイェンリンの創立した『バビロン空中学園』だ」


その景色に驚いていた八雲に、ブリュンヒルデが笑顔で教えてくれた―――






―――馬車で移動している間にブリュンヒルデからバビロン空中学園について説明を聴くことにした。


「国によって学校の構成は違いがあると聞くが、このバビロンでは主に―――」


ブリュンヒルデの説明によると、まず部門は―――




3~5歳対象 三年制

幼年部


6~11歳対象 五年制

少年部


12~15歳対象 四年制

中等部

中等部で卒業して自立する生徒もいる。


16~20歳対象 五年制

高等部

高等部三年目で卒業する生徒と五年間通う生徒がいる。


―――以上の四つの部門に分かれている。




この世界には現在大学というものが存在しない。


元々この世界の成人は16歳であり、高等部まで進んだ者は実質一人前として扱われる歳となるため、中等部まで通って卒業する者もいれば高等部で三年間学習して18歳で卒業する者、そして20歳まで通い続けて高等部卒業後の家業を継いだり、貴族の出で家督を継ぐ準備に入ったり、嫡男ではない者は自立するための準備をするのが高等部のほとんどの生徒が取る行動だという。


ほとんどの生徒が18歳の高等部三年で卒業して自立したり家を継ぐ者ばかりだが、まだ研究を続けたり学びたいという者や何かしらの都合によって家に戻れない者が20歳まで学園に通っているという話だった。


それ以外の研究や学問を続けたい者は卒業後に個人で続けることになる。


そういった研究者肌の人間の受け皿となるのが魔法省などの様々な国の機関である。


イェンリンは教育体制を確立した頃から特に身分に関係なく実力主義での登用を行ってきていた。


その徹底した実力主義教育方針が数百年の時を経て、今の首都レッドを築き上げたのである。


「―――あれ?でもそうなると俺とヴァレリアとシャルロットは別クラスになるってことか?」


年齢の違う彼女達とは違うクラスになるのかという質問を八雲がブリュンヒルデに問い掛ける。


「いや、皆は今回『特待生』という立場で入ってもらうので、クラスも特待生専用の『特別クラス』へ編入が決まっている。その辺りの手続きはイェンリンと私が行ったので間違いない。その『特別クラス』は十六歳以上であれば編入できる実力主義のクラスだから皆一緒にそのクラスに入ってもらうという訳だ」


「なるほど。その特別クラスとやらに俺達を固めておけば護衛もしやすいと、そういう訳だな?」


ブリュンヒルデの説明に八雲がそう推察するとブリュンヒルデも頷く。


「ああ。正直、八雲殿だけなら大丈夫だろうとイェンリンも言っていたが姫達はそうはいかない。護衛対象が固まっていてくれる方がこちらも対処しやすいからな」


ブリュンヒルデの説明にヴァレリアが少し俯きながら、


「やっぱりわたくし達がついてきたことはお邪魔だったのではありませんか?」


不安そうな瞳で八雲を見上げてくる彼女にそっと頭に手を置いて撫でながら、


「いや、相手は黒龍城から雪菜を攫おうとしてきた相手だ。あのままティーグルに置いていっていたら、俺がいない間に攫われていたかも知れない。だからこれで良かったんだよ。こうして傍にいれば俺が護ることができるから」


八雲の言葉にヴァレリアも傍で聞いていたシャルロットもユリエルも、ニコリと嬉しそうな笑みを浮かべて頷いていた。


「それに皆には『龍紋』で俺に直接声が届くし、ステータスも上がっているはずだ。正直言って一般人に比べれば十分に力を持っているだろう」


「はい!わたくし、先日お城のお庭で試しに木を叩いただけで倒してしまったのはビックリしました☆」


「うん、その話し知らなかったから俺もビックリした……」


楽しそうに教えてくれたシャルロットだが知らない間にそんなことしていたことに八雲は驚いた。


(『龍紋』の加護で向上するステータスは箱入り娘の公爵令嬢に木をへし折る力を与えるのか……)


と八雲は改めてその加護の力に内心驚愕していた。


「―――見てくれ。あれがバビロン空中学園だ」


ブリュンヒルデの声に皆が窓の外を見ると―――


「スゲーな……」


―――白い壁に金の装飾は八雲の世界にある西洋の宮殿のような建造物。


目の前に学園と呼ばれる巨大な校舎が近づいてくる。


校門を抜けてそのまま奥に進むと馬車は正面の入口前で停車した。


正面入口には案内のために待機していたのか、教師と思しき人物がふたり待っていた。


「ようこそいらっしゃいました黒帝陛下。私はこれから皆さまの案内をさせて頂きますラーズグリーズと申します」


黒地に赤いラインの入ったワンピースを纏う、長い黒髪を靡かせて白い肌に蒼い瞳の美女が八雲に向かって頭を下げる。


「ラーズグリーズ!?お前、態々出迎えに来てくれたのか……」


彼女の顔を見て顔を顰めるブリュンヒルデを見るとラーズグリーズはニヤリと笑みを浮かべて、


「やあブリュンヒルデ♪ 相変わらず私の顔を見ると嫌そうな顔をするのは素直でけっこうなことだね」


爽やかな調子で嫌味を返す。


「うるさい……お前は何かと問題を起こすから、私は気が気ではないのだ」


「おや♪ 嬉しい姉妹愛だねぇ。おっと、紹介が途中だった。陛下、こちらに控えているのが―――」


「―――ゲイラホズだ。イェンリンの頼みでこの学園の教師として、そちらの姫達を護衛することになった。よろしく頼む」


赤いブラウスに黒のパンツ姿で、足元には赤いヒールを履いているため身長が高く見えてモデルのようにキメている白髪の長い髪、銀の瞳をした美女、ゲイラホズが重厚な存在感を振り撒きながら八雲に挨拶すると、


「こちらこそ、これからよろしくお願いします」


その存在感に気圧されるような感覚に襲われた八雲は素直に頭を下げる。


「―――陛下、そのように遜るような言葉はいりませんよ?」


ゲイラホズに頭を下げた八雲にラーズグリーズは敬語など不要だということを伝えてくるが、


「いや、ふたりは教師なんだろう?だったら最低限の礼儀は通しますよ」


「ほう♪ そうですか。では私も教師としてこれからは八雲君とお呼びしても?」


「んなっ?!お前!何を突然そんな親しげに―――」


ラーズグリーズが調子に乗り出したと思い止めに入ろうとしたブリュンヒルデだったが―――


「―――別に構いませんよ。先生」


―――八雲がアッサリと了承していしまったため空回りに終わる。


「おや?ブリュンヒルデはかなり黒帝陛下、いや八雲君にご執心ですか♪ いけませんねぇ~♪ 不純異性交遊は。校則にも書いてありますよ」


「貴様!―――何を言っているのだ!八雲殿には、お、奥方がちゃんといるのだぞ!!それに黒神龍様の御子でもあるのだ!私などが……」


「―――ブリュンヒルデは純粋だから不純にはならない」


「へエッ!?/////」


突然の八雲のフォローにブリュンヒルデは虚を突かれて変な声が出てしまう。


「これは……なるほど。確かに我が姉妹は純潔なれば、八雲君の言っていることは正しい……」


そんな言葉を残してラーズグリーズは次にヴァレリア達に挨拶をする。


そうして一通り挨拶を終えると、ふたりの案内により全員で学園長室へと向かうことになった―――






―――正面玄関から中に入り、何本もの柱が並ぶ大きな廊下を進む。


途中、シェーナは白雪が、ダイヤモンドがトルカを、コゼロークがレピス、ヘミオスがルクティアと手を繋いで一緒に歩いてくる。


チビッ子四人組は初めて来る場所をキョロキョロとあちこち見ながらチョコチョコ歩いている。


そうして辿り着いた部屋の前、大きな木製の扉を通って中に入ると、そこには三人の人物が待っていた。


「―――ようこそバビロン空中学園へ。私は高等部の校長をしているルトマン=ギヌスじゃよ。話は皇帝陛下から伺っておる。色々事情があると思うが学園での生活をどうか楽しんでもらいたい」


ルトマン=ギヌスと名乗った老人は白髪の長い髪に長い口髭を生やして青いローブを纏っている老人で、この学園の高等部を取り仕切る校長として挨拶をしてくる。


「こちらこそ、ご迷惑をお掛けするかも知れませんが、よろしくお願いします」


代表して八雲が挨拶を交わした。


そして次に―――


「わたくしは中等部の校長をしておりますポルト=ホーマンと申します。この度は黒神龍様のお身内御二人をお預かりするということで皇帝陛下からお話を伺いましてたいへん光栄ですぅ」


ハンカチでその禿げあがった頭の汗を拭きながら良く言ってポッチャリ、普通に見て太った男であるポルト=ホーマン校長が青いローブに汗を滲ませながら挨拶した。


「こちらこそ無理を言ってしまい、誠に申し訳ございませんわ。ヘミオスと申します。以後、よろしくお願い申し上げますわ」


「へ?お前……誰?」


信じられないほど丁寧な挨拶を返すヘミオスをドン引きした目で見つめる八雲の足をヘミオスがグニュッ!と踏みつける。


「―――あ痛ぁあ!」


「オホホホッ♪ 八雲様は本当に冗談がお好きで」


「いや、冗談はお前の言動だろう?どうした?熱でもあんのか?」


割と本気で心配しだした八雲にヘミオスから『伝心』が届く。


【ちょっと兄ちゃん!邪魔しないでよ!どこに敵がいるのかも分からないんだから、こっちも大人しそうな態度で潜入しようとしてるんだから!】


【あ、そういうことね……だったら初めからそう言っておいてくれよ……】


少し涙目になりかけた八雲の横でコゼロークは、


「コゼローク……です。どうぞ……よろしく」


いつも通りのコゼロークだった……そして次に前に出たのは、


「初めまして。わたくしは幼年部の校長をしていますアムネジア=アイン・ヴァーミリオンと申します。どうぞよろしくお願い致しますね♪」


長い金髪を後ろに纏めて、青いローブを纏った美女で、歳は二十五前後といったとこだろうか。


「アイン・ヴァーミリオン……ということは、アイン家の?」


八雲が疑問を問い掛けると、アムネジアは笑顔で答える。


「はい。わたくしはアイン家の当主パトリシアの妹ですわ。姉が黒神龍様と白神龍様、それに黒帝陛下と白神龍様の御子様にお会いすることができてたいへん感激しておりましたが、まさか白神龍様自ら臨時教師をして下さると伺いまして、わたくしもとても感激しております」


満面の笑顔でそう答えるアムネジアに白雪が会釈をして、


「白神龍の白雪=スノーホワイト・ドラゴンよ。そう畏まらないでちょうだい。こっちの子は私の身内で一緒にお世話になるダイヤモンドよ」


と挨拶を交わすと、ダイヤモンドもお辞儀をしてアムネジアと挨拶を交わす。


「白雪様の配下、白い妖精ホワイト・フェアリーの総長ダイヤモンドと申します。どうぞ宜しくお願い致します」


「はい♪ そしてこちらが幼年部に入る子達ですか?」


アムネジアが屈んでシェーナ達に目線を合わせると、


「あのね、あのね、ルクティアです!よろちくおねがいしましゅ」


「えへへ♪ レピスはレピスぅ♪」


「ふぁあ……トルカ……」


「……」


最後のシェーナは肩掛けカバンから取り出した相棒のクマのぬいぐるみの頭を下げて、それが彼女の挨拶だった……


「まあ♪ 皆さんちゃんとご挨拶ができて偉いわぁ♪ 幼年部にはお友達もたくさんいますから、一緒に楽しく過ごしましょうね♪」


さすがは幼年部の校長を任されるだけあって、個性豊かなチビッ子四人組の中でも特に個性のあるシェーナの挨拶にも完全に対応している姿に八雲はホッと安心する。


「それでは、高等部の皆さんは残ってこのじじいの話しを聴いてもらうとして、中等部と幼年部の子達はそれぞれの校長に案内してもらおうかの」


ルトマンの言葉にポルトとアムネジアは中等部組と幼年部組、そして白雪とダイヤモンドを連れて部屋を出ていく。


出ていく時にヘミオスが、


「―――それでは行って参ります。八雲様」


「ああ、何かあればさっきの通りで」


と、なにかあれば『伝心』をという意味で言葉を交わして白雪は雪菜に、


「何かあれば貴女もすぐに私かダイヤ、九頭竜八雲の誰かを必ず呼ぶのよ」


「うん!ありがとう白雪!愛してる♪」


「もう……バカ/////」


と、照れながらその場を去っていった。


部屋に残ったのは八雲、雪菜、ヴァレリアにシャルロットとユリエル。


そしてブリュンヒルデとゲイラホズ先生にラーズグリーズ先生だった。


高等部組が残ったのを確認したルトマンは残った全員に、これからのことを説明するため校長椅子に座り姿勢を正す―――


「さて……『特別クラス』の皆には、これからのことについて説明しておこうかのう」


八雲達はルトマンの話に改めて姿勢を正したのだった―――



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