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第147話 課題試験

―――迷宮に足を踏み入れる八雲達


陣形は先頭にカイル、次にフォウリン、そしてエルカとイシカムは並列に左右を警戒し、最後尾は八雲が務めた―――


そのパーティーの陣形から後ろに少し離れてラーズグリーズが続く。


洞窟のようなダンジョンは岩壁と天井に囲まれ、通路幅は十m、天井の高さは四mほどの高さがあった。


壁には光る石が淡い輝きを漏らし、なんとか視界が効く程度の明るさしかない。


ぴちょん!―――と洞窟内には鍾乳石のように垂れ下がった岩から水滴が下の水溜まりに落下する音が響く。


エルカとイシカムはビクビクとして周囲を窺っているが、カイルは剣と盾を装備して慎重に前進する。


今回八雲達のパーティーが纏う装備は―――






カイル=ドム・グレント

●武器●

・ロングソード(鉄製)

鉄製の長剣


●防具●

・プレートメイル(鉄製)

チェインメイルに鉄板を取り付けて補強した鎧。


・ガントレット(鉄製)

ロンググローブの様な手と前腕を被う形状で、丈夫な布や皮・金属などで作られている。


・カイトシールド(鉄製)

菱形に近い形の大型の盾。




火凜フォウリン=アイン・ヴァーミリオン

●武器●

・紅神龍のバスタードソード(紅神龍の鱗製)

紅神龍の鱗で造られた片手半剣で片手でも両手でも持てる長さの剣。

火属性の魔術付与に適している。


●防具●

・紅神龍のプレートメイル(紅神龍の鱗製)

チェインメイルに紅神龍の鱗を取り付けて補強した鎧。

フォウリンのためにイェンリンが贈った鎧。


・紅神龍のガントレット(紅神龍の鱗製)

紅神龍の皮に紅神龍の鱗で造られたプレートを取り付けた物。

鎧と共にイェンリンが贈った。


・紅神龍の足甲(紅神龍の鱗製)

紅神龍の皮に紅神龍の鱗を取り付けて補強した足甲。

風属性魔術が付与され、跳躍・加速が補強されている。

鎧と共にイェンリンが贈った。




エルカ=シャルトマン

●武器●

・ショートソード(鉄製)

ナックルガード付きの短剣。


●防具●

・メイド服(布製)

普段の業務で使っている服。


・ホワイトブリム

防御力はない。




イシカム=オチエ

●武器●

・マジックスタッフ(木製)

火属性・風属性の魔術付与をされた木製の魔術師の杖。


●防具●

・ローブ(布製)

物理攻撃耐性効果付きローブ。




九頭竜八雲

●武器●

・黒刀=夜叉(黒神龍の鱗製)


・黒小太刀=羅刹(黒神龍の鱗製)


●防具●

・黒神龍のコート(黒神龍の革・鱗製)

黒神龍の皮にバイタルパートには黒神龍の鱗が取り付けられている。鱗は薄く加工されていて軽量。

物理攻撃耐性効果・魔術攻撃耐性効果は絶大。


・黒神龍のグローブ(黒神龍の革・鱗製)

黒神龍の皮製のグローブに鱗を加工して取り付けた物。


・黒神龍のブーツ(黒神龍の革・鱗製)

黒神龍の皮製のブーツに鱗を加工して装甲としているブーツ。






八雲はフォウリンの装備に注目して訊いてみたところ、いつもイェンリンの後ろをついて回っていた幼いフォウリンをイェンリンはとても可愛がり、それまで長い年月、三大公爵家とは距離を置いていたイェンリンがフォウリンの無垢な心により、再び公爵家の人々と血族としての付き合いを始めた切掛けとなったのも幼い少女時代のフォウリンがいたからだという話だった。


そして、そんなフォウリンがバビロン空中学園に入学することが決まった時に、祝いの品としてイェンリンがフロックに造らせたのがこの剣と鎧だと。


「へぇ~あのイェンリンがねぇ……よっぽどフォウリンが可愛かったんだろうな」


「いえ、そんな?!わたくしはただ……イェンリン様に憧れていたのですわ」


「―――憧れ?」


「はい。いついかなる時も堂々と振る舞い、どんな相手にも屈することのないイェンリン様がとても眩しくて、あの方の血を引いている自分が誇らしく、だからこそヴァーミリオンの家名を貶めるようなことがないようにわたくしも生きようと思っていただけなのです」


遠く懐かしい思い出を小さな子供のように語るイェンリンに八雲は笑みを浮かべる。


だが、そうして話しながら進んで行くと遂に魔物が姿を現した―――


「―――スライムです。数は五匹」


先頭のカイルが冷静に魔物の出現を告げる。


相手がたとえ最弱のスライムだとしても気を抜かないのはフォウリンの護衛としては合格と言っていいだろう。


「カイル!大丈夫?―――ヒノキの棒、貸そうか?持って来てるよ?」


「はぁ?ヒノキの棒?ですか?八雲殿は意外と伝統を重んじる方なのですね。大丈夫です」


「あ、そう……ほんとに?大丈夫?ヒノキの棒……」


そのまま剣で向かって行くカイルに八雲は少しだけ寂しさが込み上げてくるが、そこは同じ班の仲間を信じようとヒノキの棒を仕舞ってグッと堪える。


カイルは出現したスライムに向かって真っすぐに剣をスッと突き刺す。


「おお、そうやって核をついて倒すのか。たしかにそれなら強酸の体液は浴びないな」


「八雲殿は一体どうやってスライムを倒してきたのですか……」


八雲の発言にカイルは訝しげな表情で問い掛ける。


「木端微塵に叩き衝けていましたが?なにか?」


八雲の言葉に周囲の仲間達は「エエ……」という空気が流れる。


「八雲君……僕でもそんな攻撃の仕方はしないよ?」


イシカムの言葉に、自分のスライムへの攻撃が間違っていたのかとショックを受ける八雲だが、たしかにカイルのスマートなスライム攻撃を見て、ああすれば良かったのかと思った。


そんな微妙な空気を払拭するようにして前進しよう!と声を上げる八雲。


再び前進を始めるとそこから再びスライム、ゴブリン、スライム、ゴブリンと出現して、第二階層に向かう階段を発見して全員が進むことを選択。


そうして次の第二階層に進むと、第一階層と通路の広さは同じくらいだが、床や壁は石造りの通路になっていた。


「―――こんなところに誰がこんなに大量の石を敷き詰めたんだろう?」


八雲が疑問を口にするとイシカムが、


「八雲君はダンジョンが生まれる原理については知らないの?」


と、声を掛けてくる。


「ダンジョンの生まれる原理?そんなものがあるのか?」


「うん。ダンジョンは階層主の魔力に反映して構造が決まるんだよ。地中深くには階層主の核が埋まっていて、その核が何かの拍子に目覚めると、そこから地上に向かってダンジョンが形成されるんだって。深いところに埋まっている核ほど強力な階層主らしくて、複数の階層にそれぞれ階層主がいるようなダンジョンは、一番地の底で目覚めた階層主の力を受けて、そこよりも上の地中に埋まっている核が共鳴して目覚めることで、それぞれその階の階層主になるんだ」


イシカムのダンジョンに対する理論の講義に八雲はウンウンと頷いて拝聴する。


「そうなのか……けど、そんなこと誰が調べたんだ?まさか地の底まで穴掘って核を観察したって訳じゃないだろう?」


イシカムの話を聴いて浮かんだ疑問を八雲はイシカムに返す。


「―――いい質問だね!この話は遥か昔の人が神龍様に教えてもらった話だって伝わっているよ。それ以来通説になっているんだ」


「神龍?どこの神龍だ?」


「えっと……たしか……蒼神龍様だったと思うよ」


「蒼神龍……」


ここで蒼神龍セレストの名前が出るとは思ってもいなかった八雲は、蒼神龍がどんな神龍なのか興味が湧いた。


その時カイルが再び魔物の気配を感知する―――


「来ます!あれは、ゴブリンです!しかし数が多いですね……」


―――通路の正面には数十体のゴブリンが、ゲヘッ!グヒッ!ゲラゲラ!と耳障りな笑い声を上げながら接近してくる。


その通路いっぱいのゴブリンを見て、エルカが「ヒィッ!」と小さな悲鳴を上げる。


「恐らくあの先に例の広間があるんだと思う。フラクナス迷宮の広間の手前には魔物が集中して湧いてくるって話を聞いたことがあるよ」


頼りになるイシカムが情報を全員に告げると、今度はカイルと共に八雲も前に出る。


「―――八雲殿?」


「あの数だとひとりじゃ危険だろ。フォウリンとエルカは後ろを頼む。イシカムは中堅で前と後ろの状況を把握しておいてくれ。何かあれば大声を上げてくれたら何とかする」


「適当なこと言っているように聞こえて、八雲君が言うと何とかなりそうだから凄いよね!」


イシカムもそう返して杖を握りしめ、前後に注意を払う。


フォウリンとエルカは言われた通り、挟撃に備えて後ろに回った。


臨戦態勢が組まれたところで八雲はすらりと黒刀=夜叉を抜くと、カイルと共に前に出る。


「俺が前に出るからカイルは抜けてくるヤツがいたらフォウリン達に近づかせないでくれ」


そう言ってコートの背中に描かれた龍紋を見せながら前に進む八雲にカイルは思わず、


「抜けてくるモノなど本当にいるのでしょうか……」


と、苦笑いを浮かべている。


それほどに八雲の背中から感じる闘気は尋常ではないのだ。




チャキッ!という夜叉を構える音が通路に響くと同時に、大量のゴブリンが八雲に突進を開始した―――


―――真っ先に八雲の元に辿り着いたゴブリンが刃の欠けまくった古ぼけた剣を振り上げようとしたところで、その身が真横に裂けた。


続くゴブリンが倒れたゴブリンの後ろから飛び掛かってくるのを正面から真二つに斬り倒す―――


―――左右から飛びつこうとする二匹のゴブリンを高速の回し蹴りでほぼ同時に通路の壁に蹴り飛ばすと、そのままグシャリと左右の壁に血と内臓をぶちまけて絶命する。


そんな八雲の次元の違う強さにゴブリン達は怯んで後退していくが、八雲はかまわず前に出る―――


―――辺りを見回して仲間達と意思疎通を図るゴブリン達は数の有利を再確認して一斉に飛び掛かってくる算段だった。




だが、そんな作戦とは呼べないゴブリン達の行動に―――


「もう面倒だ―――」


そう言い放った八雲が腰を落として肩越しに夜叉を構えると飛び掛かるゴブリン達をひと睨みして、


九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう・八雲式剣術

―――『紫電しでん』!!」


その技は刀身に宿った雷が高速で正面に突き出される刃から放たれて、通路の中を駆け巡るように壁で反射して縦横無尽に紫電が走り、敵を感電、焼き尽くしていく―――


―――八雲自身も稲妻のような超高速で通路を駆けながら、斬りつけられたゴブリンは斬撃と共に焼け焦げていく。


一瞬で通路の先まで駆け巡った紫電は通路の彼方此方に数十体の、感電して焼け焦げたゴブリン達の死体の山を作っていた―――


―――辺りに立ち込める肉が焼け焦げるような不快な臭いにフォウリンもエルカも、イシカムまでが吐き気を催してくる。


カイルも騎士としての矜持があるので抑えてはいたが、内心その吐きそうな気分は同じだった―――


「―――大丈夫か?」


―――振り返った八雲が全員の無事を確認すると青い顔をした仲間達を見て、この光景は少しキツかったかと反省するが数十匹のゴブリンを一々相手にするのも時間の無駄なので仕方がないと割り切ってもらうことにする。


「改めて八雲様の御力が凄いものだと教えられました。ありがとうございました」


フォウリンが気持ちを立て直してお礼をすると皆も揃って礼をする。


「―――いや、この数相手だと面倒だし危険だったからな。それより問題なければ先に進もう」


八雲が促すと皆も頷いて先を進むのだった―――






―――通路を進むとすぐに広い空間が目に入り通路を抜ける。


そこは天井の高さは軽く二十mほどあり、学校のグラウンドほどの面積が広がっている。


「ここが第二階層の広間なのですか……」


フォウリンが周囲を見渡しながらその中へと入って行く。


八雲達も一緒にその広間の中に入り、中心に向かって進んだところで―――


ゴオオオオオ―――ッ!!!!


―――突然、広間が揺れるほどの轟音が響き渡ると、八雲達が元来た通路がいきなり崩れ落ちて、瓦礫がビッシリと通路を塞いでしまう。


「皆さん!!!大丈夫ですか―――ッ!!!」


瓦礫の向こうからは後ろから安全と確認のため少し離れてついてくると言っていたラーズグリーズの叫び声が響いている。


「―――わたくし達は大丈夫ですわ!ラーズグリーズ先生はお怪我ありませんか?」


フォウリンが瓦礫に寄って声を掛けると、


「私は大丈夫です!―――今から瓦礫を撤去しますので、離れてください!」


と、ラーズグリーズが伝えてきたその言葉に身を瓦礫から遠ざける八雲達。


すると間もなく―――


ドゴオオオオゥ―――ッ!!!!と轟音が鳴り、地面が揺れる。


―――広間全体を揺らすほどの衝撃が瓦礫の向こうから響き渡るが瓦礫はビクともしない。


「これは!?―――何者かの結界が張られています!私の攻撃を受けてもビクともしないなんて!」


今まで聞いたことのないラーズグリーズの焦燥感がある声に、一体何がどうなっているのか検討もつかない八雲達は顔を見合わせる。


「カイル。障壁には詳しいんだろう?あの瓦礫に掛けられている結界はどの程度のレベルなんだ?」


八雲はフレイアに師事して結界魔術に詳しいカイルに話を振る。


「正直なところ、ラーズグリーズ様が突破出来ないというほどの結界なんて、フレイア様クラスの結界としか思えないですね。ですが世界にそのような結界が張れる人物が、このような場所に偶然いるとは思えません」


「勿論、こんな質の悪いことをフレイア様が行うとは思えませんわ!」


追従してフォウリンもフレイアの潔白を訴えるが、それは八雲も同じように考えている。


「だとすると―――ッ?!なにか来るぞ!!」


八雲が声を上げると、広間の中央には巨大な赤い魔法陣が浮かび上がってきた。


「これは―――」


―――魔法陣から放たれる赤い稲妻。


その中心部には黒い靄のようなものが現れ、先ほどまでとは打って変わって広間の中に瘴気が漂ってくる。


そこに現れた影を見て八雲は、


「……いつの間に階層主が引っ越してきたんだ?」


引き攣った顔で呆然とその影の主を見つめるのだった……



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